ジャン=ミッシェル・オトニエルが語る。花々との対話から生まれるアートと「ディオール カルチャー ガーデン」 | Numero TOKYO
Interview / Post

ジャン=ミッシェル・オトニエルが語る。花々との対話から生まれるアートと「ディオール カルチャー ガーデン」

「ディオール カルチャー ガーデン」が支援するパリのアート展

2022年1月2日までパリのプティ ・パレにて、現代アーティストの巨匠、ジャン=ミッシェル・オトニエルが紡ぐ『The Narcissus Theorem(ナルキッソスの定理)』展が開催される。後援するのはパルファン・クリスチャン・ディオール。その“出会い”から、作品に込められた想いまで、オトニエル氏にインタビュー。 “庭園”はクリスチャン・ディオールにとって、記憶と再生の場所であり、美的価値のある場所。そして、そこで育まれた花々や植物は、クチュールやフレグランスのインスピレーションの源になってきた。パルファン・クリスチャン・ディオールが、この情熱を受け継ぎ、アーティストと自然との対話をさらに持続させるための取り組みとして立ち上げたのが、「ディオール カルチャー ガーデン」だ。 彫刻作品や繊細なガラス細工など、そのアート作品の多くが花々にインスピレーションを受けている、フランスを代表する現代アーティスト、ジャン=ミッシェル・オトニエルの展覧会への支援は、とても自然な流れといえるだろう。

プティ・パレで行われる理由とナルキッソスの意味

──『The Narcissus Theorem(ナルキッソスの定理)』展が行われるのは、建物自体が壮麗なアートそのものといえるプティ・パレ。この場が選ばれた理由とは?

「プティ・パレのディレクターであるクリストフ・レリボーが私に提案してくれたのが、きっかけです。プティ・パレは、1900年、パリ万国博覧会のために建てられた美術館。この壮麗で歴史あるプティ・パレ全体に展示を行う最初のアーティストとなれたことを、私は心から光栄に思います。今回の展覧会の見どころは、美しい建造物そのものすべてであり、何よりも中心部に隠されるようにたたずむ庭園でしょう。私自身、この場所から、多大なインスピレーションを受けています」

──タイトルに冠したナルキッソスというと、“泉に映った自身の美しさに夢中になり、恋焦がれ、最後は息絶えて水仙と化してしまう”、ギリシャ神話に登場する美少年を思い浮かべます。

「私がナルキッソスのストーリーを興味深く感じているのは、彼のそのクローズドな視点ではなく、このストーリーが周囲へ及ぼした影響です。小さな子どもが自分自身を発見し、その喜びを世界と共有する。私は、その感覚をここに呼び覚ましているのです」

──サステナビリティや芸術活動をサポートする「ディオール ナチュラル ガーデン」に対する、あなたの思いは?

「メゾン ディオールの歴史と庭園、そして現代的なクリエーションを組み合わせて、造園家や芸術家の手によって生み出された、革新的なイニシアチブだと思います。それに、私の庭園への愛を輝かせられる素晴らしいプロジェクトでもあります」

──花々を大切にする思い、そしてクリエイティブにおいて花々が欠かせないことなど、あなたとメゾン ディオールと共通する部分が多いように思います。

「もちろん、ディオールとの共通点を感じています。伝統や現代的なクリエーションの融合は、私の作品の心臓部でもあります。ヴェルサイユの庭園や東京の毛利庭園にある作品はまさしくそうですね」

花々の本質をタイムレスなアートに

──花を中心として植物をテーマに創作活動を続けられていますが、あなたにとって、花はどんな存在ですか?

「花は、尽きることのないインスピレーションの源です。花々の形、色、イメージは、その国によって変化するものです。それに、もちろん香りも。花の香りによってファンタジーと夢はどこまでも広がりますね」

──花々を作品へと変えていくとき、心がけていることはありますか?

「植物と向かう時、私はいつも花々の本質を見出し、可能な限り抽象的でピュア、そしてタイムレスな形へと昇華させるよう努めています。花々はいつも世界に楽観的なビジョンをみせてくれる存在です。世界中にあふれている自然の奇跡と、人間のもっとも深い内面とを繋いでいる定理ともいえる部分ともいえるでしょう。

危機を乗り越えて強くなるために、世界に魔法を

──今回の作品も含め、新しい価値観を示すものを数多く創出されています。そのアイディアはどこから生まれてくるのでしょう?

「かつて子どもだったときの、自由で喜びに溢れた気負いのない心を、いつでも大切にしています。そして、私の作品にそのすべてが表れていたら、と願っています。また、私はいつも世界に耳を傾けて、緊張と変化を感じています。そして、夢と想像力をもとに、解放されたユートピアのような世界を創り出すことで、それに応えようとしています。私は世界にもう一度、魔法をもたらしたいと思っているのです」

──今後のクリエイションについても教えてください。

「幸運にも、アンボワーズでのパブリックアートのプロジェクトが完成しました。レオナルド・ダ・ヴィンチが埋葬されている壮大なアンボワーズ城の前、ロワール川のほとりです。その美しい古城地域のワイン(ロワールワイン)に敬意を表した、“ホワイト ゴールド タワー”という大きな彫刻は、ブドウ園や、風味、香り、色などワインにまつわる世界を深く知るいい機会にもなりました」

──最後に。パンデミックは依然として続いていますが、今、あらためて、アートに対する想い、アートが人々に与える可能性についてお聞かせください。

「プティ・パレでの私の展示は、人々が美術館に戻ってきていること、そして私が表現している前向きな世界への人々の欲求を感じられ、大成功だったといえます。今後、世界は危機を乗り越えてより強くなると信じています。人々の関心は、再び“自然”へ向かうでしょう」

 
今すぐにでもパリに足を運びたいが、なかなか難しいのが現実。それでも、またいつかパリへ飛べる日を、日本でも素敵な彼のクリエイションが見られる日を、期待せずにはいられない。そして、これからの「ディオール カルチャー ガーデン」によるアートと自然とのサステナブルな対話にもぜひ注目を。

Text: Hiromi Narasaki Edit: Naho Sasaki  

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