林遣都 × 小松菜奈インタビュー「ゾワっとする息の合い方をした」
潔癖症と視線恐怖症という生きづらさをそれぞれ抱える、孤独な青年と女子高校生。作品の冒頭では、林遣都演じる高坂賢吾と小松菜奈が演じるヒロイン佐薙ひじりは、特異な体質や疾患を抱える珍しい設定の人物だと感じるが、奇妙な出会いを発端に物語はラブストーリーとして進み、二人は誰しもが共感できる普遍的な人間らしさを持ち合わせていることに気づく。さまざまな誤解を解き、互いへの気持ちを感じ合ううちに、運命の恋は思わぬ結末を迎える。寄生虫は恋の奇跡を起こすのか。初共演だという主演の二人に、作品と寄生虫というテーマについて話を聞いた。
寄生虫について生き生きと語る姿
──脚本を読んだときの第一印象を聞かせてください。
林遣都(以下、林)「ラブストーリーやファンタジー作品の出演は多いほうではないので、普段の役作りのアプローチがどこまで通じるのだろうという不安はありました。でも、柿本ケンサク監督と菜奈ちゃんとなら、まだ知らない自分を引き出してもらえ、何か新しいものが生まれるんじゃないかという気持ちもありました。ストーリー設定も心の機微を繊細に描いた脚本も面白く、高坂という役を演じるやりがいも感じました」
小松菜奈(以下、小松)「私は逆に恋愛作品への出演が多いのですが、今回は人間と寄生虫がテーマ。その、タイトルにすぐ惹きつけられました。さらに、柿本監督と遣都さんがタッグを組むと聞き、“激アツ”だと。刺激的な現場になるだろうってすぐわかりました。タイトルはとてもパンチがあるのですが、弱い二人が何事にも否定的だったのに、心を許して人として一歩を踏み出すというストーリーの軸はとてもシンプルであることに気づいて。登場人物が持つ症状から、手袋が外せなかったり、ヘッドフォンを常時つけていたりして、人物の特徴は多々あったのですが、現場で過ごしながら、役の特徴をつかんでいこうと思っていました」
──演じてみて、いちばん心に残ったシーンはどこでしょうか。
林「やはり菜奈ちゃんの出演シーンは素敵だなあと思いました。生きることに苦しんでいる役どころなのに、なんて楽しそうに演じているのだろうと。特に、猫のトキソプラズマ(寄生虫の一種)について語っているシーンは生き生きしていて。その高揚感が伝わって二人の特別な時間が映し出され、切なくとも愛おしい感じがいいんですよね。そしたら、菜奈ちゃん本人も寄生虫に興味を持っていたと聞いて(笑)。驚きました」
小松「(笑)。私は湖のシーン。いま思い返しても、演技が生ものだったと思います。段取りやリハーサルだけではできない何か、演じることで空気さえ変えるというか。表現するというより、現場で食らいつく、やるしかないという場面で、遣都さんとピタッと合うときには『これだ』という手応えがあったし、ゾワッと感じるような息の合い方でした。台詞を一緒に整理したり、演じることについて考える時間も設けたのですが、その場で生まれるものを試してみたいという気持ちもあって。何が起きるかわからない現場にかけてみたいという気持ちで臨みました。つまずいてバシャンと水面に落ちる可能性もあったと思います(笑)」
打ち解けたきっかけはあだ名
──初共演とのこと。共演してみてお互いに持っていた印象に変化はありましたか。
林「雰囲気のある方ですし、勝手にクールなイメージを持っていたんです。でも、実際は誰に対してもとてもフレンドリーで、いい意味でとっても普通の女性。撮影現場では、いつもスタッフの方々とその場その場を楽しそうに過ごしている姿が印象的で。でも、お芝居になるととても真剣で空気が変わって。先ほど話に出た湖のシーンでは、ものすごく緊張されていて『やばいやばい!』と自分を追い込んでいるところも意外でした。決して冷静に淡々とこなすのではなく、いい意味で役に入ってのめり込んでいくというか。その感覚とひじりの張り詰めた気持ちがリンクしているように感じました」
小松「事務所の先輩なのですが、ご一緒するのが初めてだったので、どんな方なんだろうと思っていました。きっとどちらかというと言葉数は多くないだろうなと。お会いしたら、印象は変わらないのですが、すごく接しやすくて。私がテンパっているときは、遣都さんのフラットな感覚にすごく助けていただきました。もともと遣都さんのお芝居のファンだったので、魅せる力があって自然とそのシーンに溶け込んでいく、入っていく俳優さんだなあと。一緒に演じていく中でたくさん勉強できましたし、さまざまな顔を持っているんだなと思いました。遣都さんもいい意味で普通の感覚を持っていて。困っているときや質問にも真摯に応えてくださって、とても頼りにさせていただきました」
──打ち解けるきっかけのようなものがあったら教えてください。
小松「それは、もう。お互いの呼び方を決めたときですよね。私は最初からケント・デリカットと呼びますからと。どんな反応するかなと思いつつ、『けんと』というお名前の共演者さんがこれまで多かったということもあり」
林「そうだね。あのときだと思う(笑)」
小松「“もう、それは別人じゃん”って言われました(笑)。実際にケント・デリカットさんがいらっしゃるわけですから」
林「呼び名としては長いけど、意外とクセになって。小学生のときに同じ呼び方をされたことがあって。その時以来だったので、なんだかうれしくなってきて。普段はとても丁寧なのに、それ以来本当に『ケント・デリカットは〜』と呼んでくれて。不思議なことするなあと和みました」
──(笑)。今回、世の中に生きづらさを感じている役どころでした。実際に周りに「わかってもらえない」と感じることはありますか。
林「僕はこの場を借りて、言いたいことがありまして。皆さんそれぞれ職業にまつわる悩みはあると思うのですが、この仕事をしていて、誤解されたまま情報がひとり歩きしてしまって『あ…』と思うことがあって。最近まで舞台に出演していてコロナ禍ということもあり、演じられることに対して特別な時間なんだと強く思いながら公演をしていました。このような状況下でも共演者や観に来てくださる人がいて、カーテンコールでその方々に対しても『大変な世の中だけど、みんなで頑張って生きていきましょうね』という気持ちがあって心も高ぶっていたんです。公演終わりのうれしさも込めて、そのメッセージを伝えたく胸の前で拳をぐっと握りしめて舞台を後にしたんです。そうしたら、SNSの感想に“ガッツポーズをして、ものすごく自分の演技に満足した、やりきった姿”みたい捉えられていて。ちょっと違う、そんなつもりじゃなかったのにと不本意な結果になってしまいました。諦められないので、この場を借りて説明させてください(笑)」
小松「私は、ケンカとまではいかないけど、友達との間に嫌な空気が流れるとすぐ気付いてしまって、それが気になるんです。私はコミュニケーション不足に陥りたくないので、なあなあにするのではなく直接思ったことを言ってほしいタイプ。もちろん、相手の性格や気持ちもあるから強制はできないのだけど。言わないと気づかないことってあると思うんです。『なんかしちゃったかな?』と聞いてみると、まったく別のことで悩んでいたり、気持ちを引きずっていたりもする。『わかってくれているよね』と思いたくなりますが、家族も友達も結局は他人で、話さないとわからないことってあるんですよね。言葉で意思を示すことを大事にしたいなって思います」
二人の共通の願いは“歌がうまくなること”
──物語では「虫」によって恋をしたり、社会に適応できなくなったりします。お二人がこんな虫だったら寄生されたいという虫はなんでしょう。
小松「“歌がうまくなる虫”かな(笑)。カラオケが苦手で。誘われたらもちろん行くのですが、歌いたくない。一人で口ずさむのは好きなんだけど」
林「まったく一緒です。台本があるわけではなく、表現が自由という点も尊敬します。僕自身は人前に出ることが得意ではないのですが、映画に出ることで喜んでくださる人がいることが嬉しくて、演じることの大きな原動力になっています。アーティストの方は普段生きて歩んできた中で得たものや、自身の持っているものを使っての表現、どんな瞬間も表現して生きている人だから、やっぱり違いますよね。僕も常に、歌がうまくなりたいと思っていて、絶対音感が欲しいと思っています。ただカラオケは好きで、歌うことは恥ずかしくないから、菜奈ちゃんの状態よりはちょっと成長してるかも(笑)」
小松「歌がうまかったら、ステージで暴れ回れる曲を歌ってみたいなあ」
──逆に、「虫のせいにしたい」習慣やクセなどありますか。
小松「“関節の音を鳴らす虫”(笑)。もうずっと直らない癖で、どこでも無意識にしてしまうんです。特に静かなところでしたくなって、バキバキバキッて音を鳴らしたくなる。映画館とかでも首をパキっとやったり、ついでに足もバキっと。お芝居している最中も、そぉ〜っと鳴らしてしまいます(笑)。実家で母に『すごく関節の音鳴らしているよ、寝ているときもしていた』と指摘されて。昔から習慣になってしまっていて、指が太くなるからしないほうがいいと言われても、ダメと思いながらもバキッバキッと止められないんですよ。さらに、他人が関節の音を鳴らしているのも好きで(笑)。多分、骨の音を聞くのが好きみたいです」
林「え〜(笑)。僕は“瞬きをたくさんしてしまう虫”。最近気づいたのが、仕事の中でバラエティ番組がいちばん緊張するんです。芸人さんが本当に大好きでうれしいのですが、出演した番組をあらためて見ると、1秒に2、3回瞬きしているんです。緊張からだと思うのですが、無意識にめちゃくちゃ速くしてて」
小松「高速瞬き(笑)」
林「なので、僕が出るバラエティ番組で瞬きが少ないときは、ものすごく頑張って少なくしているのだなと思ってください(笑)」
──本作は、見えないものと戦うという意味では、コロナ禍に通じるように思います。コロナ禍を経験して気づいたことがあれば教えてください。
林「コロナ禍になる直前に、この作品を撮り終えました。高坂賢吾という人物は潔癖症でマスクと手袋が手放せない人物。役を通して、体質的にマイノリティであることへの気づきや、生活習慣について考え直すきっかけになったと思います。マイノリティの方々の気持ちが感じ取れたり、少数だから異色だと決めつけるのは、違うと思います。潔癖症などにコンプレックスを抱いている人があまり悲観的になりすぎずに、世の中の偏見も少なくなって多くの人が生きやすい世の中になったらいいなと願っています」
小松「ある意味、新しい選択肢を考え直す機会にはなったと思っています。これまでは、なかなか立ち止まって物事を考える時間が取れていなかったので。人それぞれですが、例えば会社に毎日通勤する必要がないのであれば、地方と都心で2拠点生活ができるわけですよね。さらに、副業をすることなど自由な働き方により理解がされやすい世の中にはなったのかなと。一つのことに特化する素晴らしさもわかるけど、自分の趣味や好きなことを活かすような新たな選択肢があってもいいですよね。家族と一緒にいる時間も限られてしまい、あらためて命のことについて考える機会でもありました。大切な人との時間、何気ないことがかけがえのないものなんだと実感して、優しい気持ちになれたように思います」
『恋する寄生虫』
極度の潔癖症で人と関わることができずに生きてきた青年・高坂賢吾。ある日、見知らぬ男から視線恐怖症で不登校の高校生・佐薙(さなぎ)ひじりと友だちになって面倒をみてほしい、という奇妙な依頼を受ける。露悪的な態度をとる佐薙に辟易していた高坂だったが、それが自分の弱さを隠すためだと気付き共感を抱くようになる。世界の終わりを願っていたはずの孤独な2人はやがて惹かれ合い、恋に落ちていくが———。
監督/柿本ケンサク
出演/林遣都、小松菜奈、井浦新、石橋凌
11月12日より、全国公開
koi-kiseichu.jp
衣装(小松菜奈)ベスト ¥1,299,100 ベルト ¥242,000 ネックレス ¥115,500 ブレスレット ¥103,400/すべてCHANEL(シャネル カスタマーケア 0120-525-519) パンツ ¥39,600/RUMCHE(ブランドニュース 03-3797-3673)
Photos:Harumi Obama Styling:Yohnosuke Kikuchi(Kento Hayashi), Ayaka Endo(Nana Komatsu) Hair&Makeup:Miki Nushiro(GUILD MANAGEMENT)(Kento Hayashi), Mai Ozawa(mod’s hair) Interview & Text:Aika Kawada Edit:Sayaka Ito