謎のクリエイター、パントビスコとは何者?
シュールな面白イラストをInstagram上で発表し、「いいね!」数は1日平均4万!という謎多きクリエイター、パントビスコ(Pantovisvo)にインタビュー。
Numero.jpで配信中の2017年上半期の運勢では、ゆるかわな12星座キャラクターを描いてくれた、Instagramフォロワー数24万人!話題沸騰中の人気クリエイター、パントビスコ。そのInstagramで発表される作品のタッチは、ゆる〜いものから劇画調まで実にさまざま。しかもどれもクスッと笑ってしまうツボを突いてくる。一体パントビスコとは何者か?ということで、彼のキャリアのきっかけから知られざる少年時代、制作エピソードを、得意の分析力で自己分析してもらった。
始まりはジャポニカ学習帳
──独特なリズム感と表現を備えながらミステリアスな部分の多いパントビスコさん。どういった経緯でInstagramを始めたのでしょうか。
「初めて世の中に公開したのはFacebookです。それも非公開で、リアルな友達のみ200人くらいのうち、僕のセンスを分かってくれる数人、数十人に向けて。いいねしてくれるのは大体1割くらいでしたが、それが面白くて。その中で僕とは真逆の作風をもつ先輩から、Facebookだけやっているのはもったいない、もっと世の中に出したほうがいいよってアドバイスをいただいたことをきっかけに、当時流行り始めていたInstagramを始めてみました。2014年の秋からですが、じわじわと見てくれる人が増えました」
──Instagramを始めてから2年半ほどですか、大躍進ですね。たくさんのシリーズがあってかわいいキャラクターも多いですが、Facebookで配信していたときと何か変わったことはありますか?
「Facebookで配信していたときは『カオス絵日記』だけでした。Instagramを始めて、いいねが嬉しくてコメントのやりとりを見ていると、見てくれているひとがいる、支持されている、という実感が湧いたんです。Instagramのユーザーさんのことを調べたら65%が女性。シュールできつめなイラストよりも、女性に寄り添った共感を呼ぶもの、誰かに知らせたいもの、こういうのあるあるっていうコンテンツのほうがいいねが多いことに気づきました。
それまで人物ばっかり書いていたのですが、あるとき気まぐれでヘチマとタケノコっていう動物のキャラクターを書いてみたら女性にウケて。女性に迎合して、そっちに寄ってきたな、狙ったなって思われるのが嫌だったのではじめは1回しか書かないつもりでしたが、求められているものではあったのでシリーズ化しました。そうして気づいたらファンの方が増えていたんです。ヘチマとタケノコだけだと寂しいなと思ってぺろちとにんにんが去年初登場。グッズは夏のUFOキャッチャーに向けてまた4つくらい増えますし、買えるアイテムも作ります。他には、書籍化もされた『乙女に捧げるレクイエム』は、最初の名称は『謎のお告げ』でしたね」
──始まりは『カオス絵日記』だったんですね。描き始めた日から毎日描いているんですか?
「2013年6月19日から、1日1個書いています。遅延しても2日分くらいはちゃんと書いていて、これはどんなにシリーズが増えてもやめる気はありません。内輪で起こったことがジャポニカ学習帳37冊分になっていますが、最初の400日か500日分は本当にFacebookでしか見られません。かなり僕のプライベートに寄っていて、身近な友達をネタにしているようなものも多いので、10年後くらいなら出せるかもしれません。
ほかのネタは以前に比べたら大衆的になっていますが、『カオス絵日記』では今後もずっと自分のしたいことを一番に表現していきたいです」
着想源は身近なところから
──独特のパントビスコ節ですが、ネタはどんなところから得ているんですか?
「よく頭の中を覗いてみたいとか、どういう思考をしているんですか?って聞かれますが、絵日記にしてもキャラクターにしても、基本的には日常生活で気づくことだけなんです。人がしゃべっていることとかを聞いて、この言い回しおもしろいなとか、ここを変えると変になっていいな、とか、妄想を膨らませます。みんな自然とやっていることだけど、生活から消えていく部分だと思っていて。僕はそれをすべて書き留めています。
ネタ収集に出向くことはないけれど、カフェとかで回りの人の会話は神経質って思っちゃうくらい、すごく気になっちゃいます。そんな中でたまたま自分が見つけたり出会ったりした状況がネタになります」
──リアルに絵日記を書く小学生時代はどんな子だったのでしょうか?
「小学生の頃は、目立つ人ともしゃべるし、暗い人とも仲良くするし、両方のタイプの人たちを観察していました。イケてるグループを見て、いいなあモテて、とかかわいい人としゃべっているな、とか、傍観しながら昼休みは絵を描いているような子でした」
──その頃から人間観察に興味があったんですね。人との会話やテレビとかを観ていても、そういった見方をするんですか?
「人がしゃべっていることとか考えていることも、その表面だけでは受け取らずに裏を考えたりします。自分は誰でも自分の都合のいいように取り繕うものなので、私があの人からこういうことをされてすごく嫌で悩んでいるって言われても、あなたにも非があるんじゃないの?ってその人を一度疑います。本当にその人が困っていたら、そんなことは言いませんが(笑)。テレビを観るときも、この人はどういう意図で言っているんだろう?って裏側を見ようとします。だから、おバカキャラを演じている人に対しては頭いいなって感心します。何に対しても相対的に見て判断したいから、目の前の見えているものだけを信じることはないですね。絵を描くから、ディテールを観察することがくせになっているのも原因だと思います」
──作品にも普段の観察が活きていますよね。リアルな人物の描写が多いけれど、キャラクターも新しいものがどんどん出てきます。いろいろな作品があるけれど、すべて共通してつっこみどころがたくさんありますよね。
「実は、人物を描くのはいまでも苦手ですが、お仕事の依頼は人物を描いてくれっていうのは多いです。大昔はぐろくてちょっとシュールな絵が好きだったんですけど(笑)。新しいキャラクターや新しいシリーズは出していきたいなって常に考えています。先日、スタバのカップに店員さんが書いてくれるようなメッセージを自分で書くっていうのをやってみたんですけど、それが過去最大の2万いいねを超えたんです。あまり他の人がやっていないことと、いつもと違うことをしてみたからだと思っています。
例えば、『たまにインスタ見てます』とかも、いつもじゃないんだって自虐を含んでいたり。そういう、ここつっこめるなっていう場所をたくさん作っています。みんなには僕の作品につっこんでほしいんです。つっこみどころが満載なのは、みんなと共有するっていうコミュニケーションにも繋がるんじゃないかなって。SNSってコメントを書き込めてそれを作者も見ているっていう利点があって、今、それが最大限活かせていると思っています」
──人気があるものをリサーチして強化しつつも、新しいことも取り入れてチャレンジしているんですね。つっこみたくなるからコメントして参加したくなる、なんだか心理をついていますよね。
「飽きられるから、求められてるもの全てを出すわけにも行かなくて。でも、人気のあるものは温存してみたり、バランスを見ています。コメントもひとつの作品だと思っていて、たまに自分の投稿に自分でつっこむこともあります。盛り上がるかなって」
自身の分身のような作品たち
──最近では取材とかテレビにも出られていますが、露出も増える一方でやっぱりミステリアスな部分も多いですよね。そういった線引きをしていて内緒の部分が多いのは、ご自身がすごく裏を読むタイプっていうのも関係するのでしょうか?
「自分個人が前に出るのはそんなに得意ではなくて、自分の作品を、イラストを見てほしいんです。取材とかテレビは、それが入り口になってイラストに繋がればいいなって思って出ています。線引きをしているのは、狙ってというよりも、自分のプライベートや生活感が出過ぎると、作品に対しての意味合いや憶測が介入してきて薄くなっちゃうから。
例えば、『わすれたくてすきになったわけじゃないのに』みたいなキャプションも、僕が日頃こういうものを食べましたとか誰と遊びましたとか、最近もう人付き合いが辛いとか呟いているような人だったら、裏側が見えてしまうじゃないですか。パントビスコにこういうことがあったんだろうなって思われたら一気に台無しなんです。あくまでもこれは、見る人に届けたいものなので、なるべくシンプルでいさせたいんですよね。主役は作品だし、これを見てくれる人。僕のことじゃないんで僕が主役にならない方がよくて、見てくれる人に、自分の言葉にしてほしいという思いがあります」
──有名になってフォロワー数が増えると、勝手な憶測をするファンも増えるじゃないですか。意図せぬ評論とか、周囲に色付けされたり。想定外な反応をどう受け止めていますか?
「憶測って、興味を持ってイラストを見てくれているということなので、ありがたいなと思います。これはこういう心理があるのではっていう勝手な評論も想定内で、勝手に感じてもらうぶんにいいんです。僕が言ったわけじゃないので、ほったらかしですね。違うのになって思うこともあるけれど、そういう見方もされるんだなって発見もあって、それはそれで面白いし、余計ここをいじってやろうとか思っちゃいます。いまのところは反応を超えすぎる評論は来てないですね。今後、これはそれじゃないみたいな評があったとしても、それはそれで通っていかなければならない道だと思います。支持する人が1人なのか1万人なのかはあるにしても、やっぱり私のフォロワーが10人だったら仕事は頼まないだろうと思いますし、これは僕にとってはアートです。だから、アートとして、美術界で認められた媒体に乗るのが将来的な夢です。
SNSに関していえば、mixiやFacebookがそうであったようにInstagramもいつかはおとろえていくと思っています。なので、仮にInstagramがなくなっても作品を出していけるように、どのメディアで取り上げてもらうとか、どんなクライアントさんと一緒にものづくりをするのか、といった部分は見極めたいですね。次のステージには進めている気がしてはいます」
──コミュニケーションというワードもよく出てきましたが、人と会話することはお好きなんですね。普段のしゃべりでもキャラたちのような辛辣なコメントをするんですか?
「コミュニケーション、得意じゃなかったからこそ色々変な視点で見ることができているし、一度打ち解けて仲良くなればけっこうしゃべれます。今では普段はこんなキャラたちみたいなことは言いません。キャラクターが代弁してくれるので。でも、中高生の頃から、絵を描くまでは自分がぼそぼそ言っていました。反応はあまりよくなくて、パントビスコ君がまたこんなこと言ってるよ、くすくすって、冷笑に近いとても静かな笑いでした。内容はいまもずっと変わらないんですけど、出力先をキャラクターにしたらヒットした。当時ややウケしていた人たちが、認められるようになった今になってやけに『パントビスコ君、変わったね』って言われますが、見方が変わっただけで、ずっと口で言っていたことなんです。だから、キャラクターは限りなく僕に近い、というよりもはや僕そのものです」
──今後、漫画を描いてみようとか、やってみたいこと、コラボレーションしてみたいお相手はいらっしゃいますか?
「たくさん描くのでなくて、一枚でわかるっていうものが描きたいんです。めんどくさがりやなので。1日1個だからやれているけど、3日で10コマとかだと結構大変ですね。あと、連作って結構いいねが多かったりしますが、僕がそれをやりたくない理由はいつ誰がどこから見ても、完結してみられるようにしたいから。例えばInstagramをその日にたまたま見てくれた人が全5回中の3回目を見ると、置いて行かれたような気がすると思うんです。みんなに楽しんでもらいたいし、一緒になって楽しみたいから、漫画は考えていません。
Instagram(@pantovisco)に投稿される「#インスタストーリー」より
もともと映像を作ったり映像をディレクションしたりっていうのはやっていたので、アートワークも含め、今はそういうことを、できれば他業種の方ともやりたいです。僕の2017年のテーマは、『人と実際にコミュニケーションをとること』なので、違う表現方法の人とコミュニケーションをとって何かやってみたいですね」
連載「パントビスコの不都合研究所」を読む
Photos:Yukiko Shinmura
Interview & Text:Masumi Sasaki, Yukiko Shinmura