森山未來インタビュー「僕にとっての90年代は阪神淡路大震災だった」 | Numero TOKYO
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森山未來インタビュー「僕にとっての90年代は阪神淡路大震災だった」

燃え殻の人気小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』が同タイトルで映画化された。そこかしこにちりばめられた90年代カルチャーや、どんな時代に生きたとしても共感せずにはいられない切なさに心動かされる同作。主人公のボク=佐藤を演じるのは森山未來。小説の世界観そのままに、機微を捉え演じきった森山に聞く。

上に着たシャツ¥41,800 パンツ¥38,500/ともにYoshiokubo(ヨシオクボ 03-3794-4037) 中に着たシャツ¥9,900/Undecorated(アンデコレイテッド 03-3794-4037)
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生き死にのあり様に向き合う時期

──この映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は人気小説が原作ということで、最近読んだ本と関心事に最近読んでいる本と関心事について教えてください。 「今年2021年の上半期に出演したパフォーマンスはどれもが生と死、死生観にまつわる話でした。その後、オリンピックの開会式があり、いま映画3本目をやっていて、どれも死に絡む(笑)。ポジティブ、ネガティブ関係なく、単純に生き死にのあり様に向き合う時期かなと感じています。 その意味で3月に京都の清水寺での『Re: Incarnation』というパフォーマンスをきっかけに手に取った本『分解の哲学 ―腐敗と発酵をめぐる思考―』が面白くて、いま自分の考え方の真ん中にある感じ。自分はまさしくその流れの中にあるんだろうと感じています。発酵、腐敗をいろんな側面から捉えた本で、単純に生き物の発酵、腐敗、菌から、都市の腐敗という考え方まで。都市が腐敗するとはどういうことか、そこから何か新しい芽が立ち上がっていると考えられないだろうか? と。そして、ドイツの教育者フレーデルが発明した積み木の哲学。積み木は誰もが積み上げることに意義を感じますが、分解されて、また違うものが立ち上がっていきますよね。生産、消費、分解というルーティンにおいて、どこまでを分解、どこまでを消費と捉えるのか。また、死生と分解は密接な関係を持ち、『死というものは次なる生への盛大なるパーティだ』という考えもあります。実に死と生の境界線のあり方を考えさせられる本でした」

──人の生まれ変わりを信じる、みたいな?

「有機物は死んで腐って無機物になっていく。その無機物から植物が立ち上がるというエネルギーの構造、そして地球上の物質量が絶対に変わらないという法則があるのなら、ある意味、それは生まれ変わるということですよね。だから宗教的、思想的にあるような、例えば”輪廻転生”という意味においての生まれ変わりであろうと、科学的な考え方を根拠としてものだとしても、いずれにせよ生まれ変わるのだと思います」

──興味深い話ですね。映画では、佐藤という男を21歳から46歳まで、それも時系列をさかのぼって演じました。撮影はどの順番で、どのようにご自身の中でつじつまを合わせましたか。

「映画で見る通り、時間を遡っていく形で撮影しました。初めにスタッフみんなと相談して、徐々に髪を短くして前髪を作ったり、2020年の設定時には額や輪郭をくっきり出して実年齢を見せることにしたんです。カツラを使わないほうがナチュラルにできるので、徐々に髪を切っていったわけです」

──演じる上で若くなっていくのは難しいのでは?

「25年間が描かれるのですが、考え方によってはこの映画は記憶をさかのぼる話。安いラブホテルのシーンでは部屋の天井が星空みたいになっていて、デコレーションがすごくきれいなんですね。過去の記憶って美しかったもの、悲しかったことを自分の中にちょい盛りめに留めることがあるじゃないですか。思い出をそう捉える強さとして考えると、時系列で積み重ねていくよりも思い返している状況から演じられて、感覚としてはよかったのかもしれません」

大人になるということ

──疲れ果てた46歳の佐藤が、話が過去へとさかのぼるにつれて、実はこんな性格でなぜそんなにしんどい思いをしているのか、その原因がわかってくるのが面白いところです。佐藤の25年を演じてみて、彼の変わらないところ、変わってしまったところはどんなところだと思いますか。

「変わったところは、環境や人間関係の変化における立ち方。若いときは限られた環境と人々のなかで生きるわけで、それが世界のすべて。視野が狭いからこそ、反抗心や反発もある。それが、尖っているということかもしれません。しかし環境が変わると、今まで通りには立ち回れなくなっていきます。人によっては、広がりを見せるという言い方にもなるし、もともとあったものが壊されてしまうと思うことかもしれない。いずれにせよ、人は変化していくしかないし、人と関わっていくことを考えていかなければならない。佐藤もそうだと思います。

それをネガティブに捉えているように見えるかもしれません。でも彼自身は、最終的に広がっていった自分を受け止めていると思います。尖っているものが丸まっていった人に、『おまえも変わっちゃったな』と思う人もいるけれど、でもそれ自体をどう捉えるかによっていくらでも人生のあり方は変わる気がします」

──映画ではその時代ならではの東京の様子がよく作り込まれています。印象深かったシーンはどこですか。

「シーンじゃないけど、90年代の撮影をしたときにレコード店WAVEの袋の中に、実際に当時のカルチャー誌『H』が入っていて。読んでいたらなんと文通コーナーがあり、『私のアピールポイントは処女です。私と出会いませんか』とあってびっくりしたんです。今はSNSが主流ですが、時代とメディアが変わっても出会いに対する熱量は同じ。先端的な『H』でそんなことが起きていたとは衝撃でした」

──大人になるとは? 森山さんの大人観を教えてください。

「大人とは何なのかって、人って意外とちゃんとは考えていないと思うんですよね。今回の映画で僕は考えさせられるきっかけを与えてもらえたけれど。例えると横綱相撲みたいなものかなと。横綱相撲は相手に取りたい相撲を取らせて、それをガッツリ受け止めた上で勝つこと。受け止める瞬間の貫禄、器が大人というものではないかと。そう考えると大人も悪くないなと思うんです。若いときは狭い視野と狭い人間関係が世界のすべて。その中だけで対処しようとするから、ぶつかるし、反発もする。その尖っているところが表に出て、表現として成立することもありますが、そこには受け止めて理解する大人が必要です。人のことばかり優先すると、丸くなった、大人になったと言われがちだけど、僕は『ボクたちはみんな大人になれなかった』というタイトルから匂う大人に対しての若干の拒否感みたいなものを、逆に認めたくない感じでいます。自分が大人かどうかは置いておいて(笑)」

『ボクたちはみんな大人になれなかった』

1995年、ボク=佐藤(森山未來)は彼女と出会い、生まれて初めて頑張りたいと思った。“普通”が嫌いな彼女に認められたくて、映像業界の末端でがむしゃらに働いた日々。1999年、ノストラダムスの大予言に反して地球は滅亡せず、唯一の心の支えだった彼女はさよならも言わずに去っていった―。2020年、志した小説家にはなれず、ズルズルとテレビ業界の片隅で働き続けたボク。社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳のボクは、いくつかのほろ苦い再会をきっかけに、二度と戻らない“あの頃”を思い出す……。
監督/森義仁
出演/森山未來、伊藤沙莉、萩原聖人、大島優子、東出昌大、SUMIRE、篠原篤
11月5日(金)よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロ サ、アップリンク吉祥寺ほか公開、NETFLIX全世界配信開始

©2021 C&I entertainment

Photo:Akihito Igarashi Styling:Mayumi Sugiyama Hair & Makeup:Motoko Suga Interview & Text:Maki Miura Edit:Sayaka Ito

Profile

森山未來Mirai Moriyama 俳優、ダンサー。1984年生まれ、兵庫県出身。99年に本格的に舞台デビューし、映画『モテキ』(2011)、『苦役列車』(12)、『アンダードッグ』(20)、舞台『プルートゥ PLUTO』など多数出演。13年には文化庁文化交流使としてイスラエルのダンスカンパニーに滞在するなど、表現者としての幅を広げて活動中。

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