『エヴァンゲリオン』の世界を梱包材で表現した、開発好明のアートウォール | Numero TOKYO
Interview / Post

『エヴァンゲリオン』の世界を梱包材で表現した、開発好明のアートウォール

2014年、約半世紀の歴史に幕を下ろして閉館した、新宿ミラノ座。その跡地には、映画館、劇場、ライブホールやホテルなどの複合エンタメ施設が2023年春に誕生する予定だ。現在、建設中の工事現場仮囲いで「新宿アートウォールプロジェクト」が展開中。写真家の森山大道による新宿をテーマにした写真作品29点と、『エヴァンゲリオン』シリーズの世界観を表現した「Evangelion Styrofoam(エヴァンゲリオン スタイロフォーム)」が展示されている。その作品を手がけたアーティストの開発好明に、新宿と『エヴァンゲリオン』についての想いを聞いた。

梱包材の発砲スチロールで表現する『エヴァンゲリオン』の世界

新宿ミラノ座といえば、数多くの映画ファンに愛されてきた場所だが、とりわけ『新世紀エヴァンゲリオン』のファンには聖地と呼ばれていた。映画『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年)では、終盤の実写部分に、新宿ミラノ座で撮影された映像が使用され、2014年の閉館では最終記念上映24本の中に、同作品も含まれていた。 「この新宿アートプロジェクトは2019年の年末から段階的にスタートしているんですが、ちょうど『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開と重なる予定だったため、当初からミラノ座にゆかりの深いエヴァをモチーフにすることが決まっていました。ロボットアニメというと主役のロボットは子どもが憧れるようなカッコいいデザインにするのが通例と思われますが、この作品は、『初号機』がスタイリッシュだったけれど、敵の使徒が正八面体だったりと造形が異色で、新しい価値観の提示が魅力でした」 使徒からイメージを膨らませた今回の作品は、近くで見るとジオメトリックな模様だが、少し離れて眺めると、『エヴァンゲリオン』を思わせるという不思議な作品だ。 「僕は彫刻作品を作るとき、スタイロフォームという発泡スチロールを素材に使用しています。そこで、梱包材などに使われる発泡スチロールをモチーフに、エヴァの世界を表現しようと考えました。ブロック遊びのように、小さなパーツが集積すると、車や動物などいろんな形に変化します。このスタイロフォームもひとつひとつはエヴァとは異なる形ですが、それを大きな壁に描いていくと、巨大な、エヴァンゲリオン初号機の形に近づいていく。ロボットは幾何学模様の集積で表現されることが多いので、非常に親和性があると感じました」

『新世紀エヴァンゲリオン』から26年。変化し続けた新宿の街

全長が77mの東面のアートウォールの一部は、AR「シン・エヴァンゲリオン劇場伝言板AR出現計画」と連動しており、エヴァンゲリオン公式アプリ「EVA-EXTRA」のARカメラをかざすと“エヴァ文字”のメッセージが浮かび上がる。随時更新されるメッセージの中には、掟シンジ役の声優、緒方恵美さんからのメッセージが出現したこともあった。ファンから作品に対する熱いメッセージの数々には、1995年にTVシリーズがスタートしてから26年後に最新作の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が発表された、その時間の長さを感じさせる。

「『新世紀エヴァンゲリオン』の放送が開始された95年は、僕は日本を一周しながら365日展覧会をする『365大作戦』の最中でした。それはBS NHKの『真夜中の王国』などで放映されたんですが、僕自身はその旅のために一切メディアを見ていなかったので、東京に戻って、深夜帯で再放送をしていたとき、初めて『エヴァ』を見たんです。すごく評判が良いことは聞いていたのですが、この物語の持つシビアさが深夜の若者にマッチしたんだと感じました。自分にとっては、物語のあちこちからかつて見たゴジラの断片を思い出すことがあるし、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の挿入歌、松任谷由実さんの『VOYAGER〜日付のない墓標』には、昔、劇場で見た『さよならジュピター』が脳裏をよぎりました。26年間の間に発表されたさまざまなエヴァシリーズ作品のあちこちに庵野秀明監督の中にある過去の作品の膨大な蓄積とオマージュを感じます」

過去を継承しながらも変化を続け、常に新しさを提示するのは新宿の街も同じだ。新宿ミラノ座跡地は、2023年に新たな複合エンタメスポットとして新しい新宿の中心となっていく。そして、アートウォールは工事終了とともに取り外される。

「自分の作品が消えるのは悲しい気持ちもあるけれど、儚いから記憶に残ることもあるだろうし、今回の試みがあったことで次に面白いものが生まれるかもしれない。アメリカでは公共建築費の1%はアート作品の購入や設置に使わなくてはいけないという法制度があるんです。日本でもそれに倣ってパブリックアートが増えつつありますが、通勤がてら眺めたり、お昼休みにお弁当を食べる広場にアートがあったり、街にアートが入り込むことによって、人の流れが生まれ、生活の幅が広がると思うんです。今回のプロジェクトでは、『エヴァ』というモチーフを新宿ミラノ座跡という意味のある場所で展示することができました。それに、幅70メートル以上の大きな場所を自由に使えたことは自分にとっても貴重な経験です。森山大道さんの作品もそうですが、これだけ大きなスケールの作品は、アートスペースでの発表とはまた違った魅力があるので、終了までにぜひ多くの方に見ていただけたら」

コロナ禍だからこそのアート「世界の小瓶プロジェクト」

現在、開発さんは、コロナ禍だからこそできる「世界の小瓶プロジェクト」を進行している。これは、世界各国の街の空気を小瓶に収めて、今の想いや状況をメッセージとして100年後の人類に残すというもの。

「100年前に世界中でスペイン風邪が流行しましたが、今はコロナで同じようにあたふたしています。100年後にまた何かの疫病が流行したとき、今回のコロナのデータやハウツーが残っているとは限りません。そこで、世界各国の人たちに協力してもらって、今いる場所の空気を小瓶に収めて、いま置かれている環境のことを教えてくださいとお願いしました。コロナもあって、まだ20カ国ぐらいしか集まっていないのですが、中には個人的なことや政治的なことが含まれていて、いま読んでも面白いんです。このプロジェクトは僕にとっては人類補完計画のようなもの。いわば、小瓶保管計画です(笑)。できれば100年間は美術館に保管して、将来、僕と時代を共有することのない人たちに向けて、何か残せたら」

昨年から引き続き、コロナによって、多くの展覧会やアートイベントが中止や延期となった。

「僕が参加する予定だったものも、いくつか延期になりました。やっぱりガッカリはしますが、アーティストは基本的にはアトリエで制作しているから、今は制作の時間ということでメンタルの打撃は大きくないです。YouTubeの動画作りや小瓶のプロジェクトなど、時間があるからできることがあるんです。今回のアートウォールも、コロナ禍のために直接現場を訪れることができなくても、ウェブサイトでも作品を楽しめます。でも状況が落ち着けば、ぜひ新宿の街でこの作品を体感してくださるとうれしいです」

新宿アートウォールプロジェクト

会期/開催中~2022年初夏(予定)
場所/歌舞伎町一丁目地区開発計画建設予定地、および特設Webサイト上
主催/株式会社 TSTエンタテイメント、株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ
URL/shinjuku-artwall.com

作品はグッズ化も。EVANGELION STORE Yahoo!店などで販売中
ストア内にて、「シン・エヴァンゲリオン劇場伝言板 AR出現計画」で検索してください。

取材協力:ANOMALY

Photos:Shuichi Yamakawa Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Sayaka Ito

Profile

開発好明Yoshiaki Kaihatsu 1966年山梨県生まれ、東京都在住。多摩美術大学大学院美術研究科修了、多摩美術大学非常勤講師。1995〜96年にかけて365日の展覧会「365大作戦」を全国で行い、その模様をNHK BS『真夜中の王国』の「開発くんが行く」で放映。2002年にPSI MOMA「Dia del Mar/By the Sea」、2004年にヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展日本館「おたく:人格=空間=都市」、2006年にドイツ、ニューナショナルギャラリー「ベルリン-東京、東京-ベルリン」参加。同年「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」、2008年イギリスのリバプール「Jump Ship Rat“POP-UP”」出品。2016年市原湖畔美術館「開発好明:中2病展」。2019年東京都現代美術館「あそびのじかん」出品。東日本大震災後、被災地におけるプロジェクトをライフワークとして継続中。

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