フランソワ・オゾンを虜にした新星、フェリックス・ルフェーヴルにインタビュー
運命の出会いを果たした少年同士の瑞々しい刹那の恋を描く、フランソワ・オゾン監督の最新作『Summer of 85』が8月20日に公開となる。原作は、オゾン監督が17歳で出会い感銘を受けた英作家エイダン・チェンバーズによる青春小説の金字塔「Dance on my Grave」(1982年/おれの墓で踊れ/徳間書店)。主人公のアレックスにオーディションで大抜擢されたのは、フェリックス・ルフェーヴルだ。適役が見つからなければ映像化を諦めるとまで言われた重要な役どころを演じた彼に、オゾン監督との仕事や撮影時のエピソード、そして初恋について尋ねてみた。
「人間同士の、本当の意味での触れ合いがあった」
──映画界のレジェンドであるフランソワ・オゾン監督との仕事はどんな体験でしたか? 「オゾン監督と仕事ができるなんて、本当に天からの贈り物みたいな気がしました。彼と仕事することで、監督の人間としての聡明さ、才能を感じながら、同時にとても謙虚な人であることに気づきました。『自分は天才なんだ』という素振りは全くなくて、とてもシンプルに僕たちとも付き合ってくれたので」 ──具体的に、どのような才能を感じたんでしょうか? 「そばにいて、彼の才能というものを観察していたんですけど、すごく直感的なものを持っていますよね。『こうすればもっといい』というアイデアにも柔軟に、まるでオーケストラの指揮者のようにみんなの言うことに耳を傾けて、その中で自分が直感的にこれはいいなと思ったら掴んでいくという、そういう監督でした」──実際、キーシーンで使われているロッド・スチュワートの「セイリング」を提案したのも、フェリックスさんだったそうですねアイデアを提供しやすいような環境をつくる監督ということでしょうか。
「それが、僕が思う、彼のインテリジェンスですよね。自分で全てを決めるんじゃなく、みんなに協力してもらう方向に持っていくんです。『セイリング』のアイデアを出したのも、僕に『なんか80年代のいい音楽はないかな?』と彼のほうから声をかけてくれたからなので。台詞に関しても、『これどう思う?』と聞いてくれて、僕ら若者の意見にも耳を傾けてくれる人なんです」
──「セイリング」は70年代のヒットソングですが、フェリックスさんはこの曲に先入観みたいなものはありましたか?
「オゾン監督から80年代の楽曲を探してくれと言われていましたし、ある種、万人に受ける曲ではないというか、今はちょっと古臭いイメージを持たれているということも僕自身は知っていたんだけど、でも、聞きながらすごく感動したんです。これはメローだし、情念っぽいから却下されるだろうなーと思いながら、僕自身の個人的な興味で監督に送ったら、歌詞もピッタリだし感動的な部分もあるからとOKが出たんですよ」
──今回は1985年が舞台になっていて、もちろん監督が描いた現実にはない85年ではありますが、そこに生きてみて、どんな部分が魅力的に写りましたか。
「やっぱり、あの時代の自由さ、大胆さ、無頓着な呑気さは、すごくいいなと思いました。洋服もカラフルだし、ヘアスタイルもメイクも音楽も、全体的に明るくてカラフルだなと。まるでお祭り気分が漂っている時代ですよね。その自由さや大胆さをすごく羨ましく感じました」
──今は空き時間があるとすぐ携帯を見てしまうのが当たり前になっていますが、映画を撮っているときはそういう現代とは離れていたのでしょうか?
「人間同士の、本当の意味での触れ合いがあったと思います。しかも撮影はコロナ前でしたし、都心へ簡単に行くことができないような海辺でのロケだったので、僕らは携帯なんて見ることは一切なくて、スタッフみんなと一緒に過ごしていたんです。そういう意味で、とても濃い関係性を築くことができましたし、ロケ中にもすごくいいエネルギーを感じていました。80年代は、電話はあったけれど、基本会いに行って話をすることで関係が成り立ってたんですよね。会うことで触れることも向き合うこともできる、人間関係がもっとフィジカルだったんだなということを実感しました」
──初恋の相手となるダヴィド役バンジャマンさんとの親密な関係は、一緒に過ごすことで構築していったんですか?
「実は、彼とは最初に会ったときから気持ち的にマッチングしてたんですよね。だから、そんなに苦労はありませんでした。準備期間中に一緒にディナーを食べに行ったり、僕らの役柄について話し合ったり、あるいは僕らがお互いを知れるようにプライベートの部分も打ち明けあったりして、本当の意味での信頼関係を撮影前に築くことができた。そうすることで撮影に入ったときに身構えることなく自分自身を投げ出せる状況が作り出されたなと」
──撮影前に、バンジャマンさんと過ごしたなかで、印象に残っていることはありますか?
「ヨット教室でワークショップを2人だけで受けたんですけど、そのときに大勢のクルーとは離れてゆっくりと触れ合う時間があったので、親密な関係になれたんです。友情もすごく深まって、映画の中の二人の親密さを強固にするために、一役買ったなと思っています」
──お答えいただけるなら、フェリックスさんの初恋の体験談について聞かせていただけますか?
「どっちかというと、僕の場合はどれが初恋だったのかを自分で自覚するのが難しくて、小学生、中学生、高校生のときもあったような気がするので、『これが初恋だった』という具体的な思い出がないんです。その後、素晴らしい恋はちゃんとしていますけどね。ただ言えることは、初恋というのは盲目になってその人しか見られなくなる。だから、人生を生き急ぐみたいにダヴィドしか見えなくなる、そんなアレックスの感覚はわかります。僕自身、まだ若いので、そんなに経験豊富じゃないですけど、おそらく今だったら、相手の自由もリスペクトできるような愛し方ができるような気がします」
──コロナ禍で公開された本作でセザールの新人男優賞にノミネートされましたが、世界の人々があなたの存在を認識したという実感ってありますか?
「実感はそれほどないです。コロナ禍で外出規制も長くありましたし、この映画とともにいろんなところにプロモーションで旅することもできていないので。日本だって本当は行きたかったけれど、オンラインでしかお会いできませんもんね。加えて、僕自身はあまり賞という結果を過信するのではなく、距離を取るようにしています。この映画を撮ったことでメールやメッセージをもらうことがあるんですけど、映画の中の彼はアレックスであってフェリックスではない。そういうふうに自分の中でちゃんと区別ができているので。アレックスはこの映画で有名になったかもしれないけど、決してフェリックス・ルフェーベルが有名になったわけではないので」
──とても謙虚というか冷静でいらっしゃるんですね。
「家族であったり友人であったり、僕がちょっとのぼせあがったりしたら、『それは違うんじゃない?』と言ってくれる人が周りにいますし、僕自身この職業で有名になりたいとかみんなから賛美される存在になりたいという思いは全くないんで。役者として作品に出て与えられた役を表現することが目標なので、そんなふうに自分がちょっと傲慢になったり、人間としての品を失うことはできるだけ避けたいなと思っています」
『Summer of 85』
監督・脚本/フランソワ・オゾン
出演/フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー
配給/フラッグ、クロックワークス
©2020-MANDARINPRODUCTION-FOZ-France2CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES
8月20日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋 ほか 全国順次公開
summer85.jp
Interview & Text:Tomoko Ogawa Edit:Chiho Inoue