風船を自在に操るアーティスト「デイジーバルーン」
数年前、フジロックでビョークの風船ドレスを手がけたことで一躍有名になったバルーンアートユニット「デイジーバルーン(Daisy Balloon)」。バルーンの常識に挑戦しながら作品を生み出す彼らにインタビュー。
バルーンアーティスト細貝里枝とアートディレクターでグラフィックデザイナーの河田孝志からなるユニット「デイジーバルーン」が、4月19日より松屋銀座で開催される「ロジェ ヴィヴィエ」のイベントに参加。そこで、今回、「ロジェ ヴィヴィエ」のコレクションをフィーチャーした、ファンタジックなバルーンアートを披露してくれた。その制作エピソードとともに、デイジーバルーンのクリエイションの世界を覗く。
対峙する2つの世界
──Numero.jpのために制作してくださった美しい作品。モノトーンの世界、カラーの世界で、それぞれどんなことを表現されているのでしょうか。
河田(以下、K)「モノトーンは思考の世界と捉え、カラーを外的な世界として考えました。自分たちを軸にして、その内側と外側の世界を作るような展開にしました」
──モノトーン作品のなかで、食虫花のような植物がモチーフとして出てきますが、その発想はどこから?
細貝(以下、H)「ロジェ ヴィヴィエのバッグの模様を見せていただいた時、その色味にどこか毒々しさがあると感じました。毒々しさって、普通の花の美しさとは違う魅力があると思います。本来花は水を吸って生きるものですが、虫を食べて生きるという食虫植物なら、そういった毒々しさが表現できるのではと着想しました」
K「内的な世界にはコントロールしようとする力が存在すると思うんです。人間(思考)には、自身をコントロールしようとする精神があると思うので、それを食虫花にたとえ、何かを狙うように対象物にしつこく近寄ってくるような精神性をビジュアルで作りたかったんです」
──なぜ内的な世界をモノトーンで表現されたのでしょうか。
K「思考は光として、空間や年代や時間すらも飛び越えられるので、色がなく無機質なものだと思います。そこでモノトーンで表現しようということに至りました」
──河田さんのコンセプトを細貝さんがバルーンで造形でしていくんですね。
H「はい、河田とイメージを共有して、私がバルーンを形成していきます」
K「内的なその世界を表現するためにバルーンを編み込む技術を用いました。編み込みでいろんな形状を形成し、その編み込みの変化によって曲線を表現し相手に対して近寄っていくというか、コントロールしていく感覚なんです」
──それに対してカラーの作品では、外的な世界を表現したと。
K「外的な世界は輝いていて色であふれています。自然界には有機的なものがたくさん存在しているので、そういう世界を表現したかったんです」
H「有機的な世界は粒子(バブル)で表現しました。バルーンを細かく連続的に粒子状にひねり感覚的に曲げていく作業は、コントロールしにくく、形状を形成しにくいのですが、この作り方で表現することを選びました」
K「実際に自然物をコントロールすることは難しい。その存在自体を受け入れ、感じることが重要だと思います」
時代の流れを逆算するブランド精神に共感
──今回の作品はどういうプロセスで作り上げていったのでしょうか。ある程度イメージを作り上げ、最終的に組み合わせていく感じですか。例えば設計図などを用意して作るのでしょうか。
H「設計図を必要とする作品もありますが、今回は感覚的なところで作りたいという思いが強かったので、数値などをあえて測らずに現場で直接、靴やバッグを絡めていきながら作りました。大体作ってきたものを、今日現場でそのものと合わせて微調整していくという感じでした」
K「作っている工程では実際どうなるかわからないので、出来上がったものに対して僕のイメージとの距離感があることも。そういった場合は作り直してもらうこともあります(笑)」
──特に重要だと感じたことは何でしょう。
K「『ロジェ ヴィヴィエ』の歴史を掘り下げていったとき、やはり映画『昼顔』に登場したミッドヒールがとても印象的でした。これまであまり認められてこなかったものがどんどん話題を呼んで注目されていったという経緯を知って、時代の流れをきちんと逆算しているのだなと。多角的な視点から、絞り込まれた領域へとフォーカスを当てる発想がすごく面白いし、先のことをすごく考えて展開されていて、そういう歴史に触れたことで、僕らもブランドのそういった精神に近寄れたらいいものが生まれるんじゃないかなと話していました。今日の撮影では靴やバッグとバルーンが組み合わさったとき、その精神に近寄れたという瞬間がいくつかありました」
バルーンを通じて表現したものとは
──これまで数々の作品を制作されていますが、バルーンを使ってやりたいと思うことをどう具現化しているのでしょうか。
K「作品を制作するあたり、建築だったり色々なマテリアルを通して、様々な方向からバルーンと向き合うようにしています。まったく違う切り口から逆算してバルーンに辿り着くような考え方をベースにしています」
──たとえばどんな作品がありますか?
K「エデンワークスさんとのコラボレーションでは、植物とバルーンの関係性を考えました。植物は育って成長していくんですけど、バルーンは逆に萎んでいくので、その関係性を写真や映像にしました。植物がバルーンを突き抜けていき、バルーンは萎んでいくので、交差するのです」
──植物との取り組みによって、何か発見がありましたか?
K「この作品に取り組む前までは、植物を題材として打ち出す作品はありましたが、植物と直接的に絡む作品はありませんでした。人工的なバルーンの存在は、植物にはかなわないと感じていました。時間軸を通じて、人工物と植物が交わることで、同じ空間で共存することが出来るということに気がつきました」
──バルーンは必ず劣化するもので、それは覆すことができない現象ですが劣化というテーマに挑戦したいという思いはあるのでしょうか。
H「劣化はひとつのキーになっています。去年の9月から1月までドイツのLUFTMUSEUMという美術館で展示をしました」
K「そこでは劣化をテーマに、劣化前・劣化中・劣化後の作品展示をしました。劣化はマイナスなイメージをもちますが、劣化を止めるという挑戦ではなく、劣化を受け入れそれ自体を作品にしています。
改めて感じた劣化する美学
──劣化を生かすだけでなく、逆に劣化への反発というアプローチで捉えた作品はありますか?
K「名和(晃平)さんと昨年コラボレートしたのが、バルーンが劣化する前の形状を保存させるという作品でした。バルーンで形成したものをコーティングし、形状を保存する彫刻作品です」
H「バルーンの形状を保存させたいという想いはずっとありました。写真や映像には残してきているのですが、今まで保存出来なかったバルーンを彫刻にしていただいたことは、私にとってはとても大きな喜びでした」
──バルーンには、動物や花などをその場で作って、子どもたちを喜ばせるというような、パフォーマンス的な側面があります。そういう点をどう捉えていますか?
H「バルーンはコミュニケーションツールだと思っていますので、そこが作品作りの原点と捉えています」
K「私たちの憶測なのですが、バルーンに対してみんなが想像する固定概念が存在していると思います。その概念を崩す品を作り出すことで、私たちも、見た人たちも、新しい発見や気づくこともあると思っています」
──クリエイションとしてのデイジーバルーンらしさとは?
K「見る人がどのように感じるのかはわかりませんが、私たちとしては、繊細な建築物に入った時のような圧倒的な印象を感じてもらえるような作品を目指しています」
──今後どんな作品を見せてくれるか楽しみです。次回作の構想はありますか?
H「河田の頭のなかにあるので、断片的に聞いている段階です。それを聞きながら技術的な部分を構想し提案しています」
K「いろいろ構想がある中で、今まで使ったことのない素材をリサーチしていて、その専門分野の方からお話を聞いたり、知識を深めているところです。また、今回テーマにした内的・外的の対称性を、個々に深く掘り下げた作品を追求していきたいと思っています」
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Interview & Text:Etsuko Soeda
Edit:Masumi Sasaki