セイント・ヴィンセント インタビュー「70年代ダウンタウン・ニューヨークと、ダディとの絆を描いた新作アルバム」 | Numero TOKYO
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セイント・ヴィンセント インタビュー「70年代ダウンタウン・ニューヨークと、ダディとの絆を描いた新作アルバム」

グルーヴ感のある革新的なギター・テクニックと、ストーリー性のあるリリックと魅惑的な歌声で、オルタナロックの頂点に立つアニー・クラークこと、セイント・ヴィンセントが、4年振りとなる待望のニューアルバム『Daddy’s Home』をリリースした。実の父親の刑務所からの出所と、70年代ダウンタウン・ニューヨークにインスパイアを受けて仕上がったという今作では、70’sスタイルのファッショナブルな姿で登場。驚異的な才能を持ち、人々を魅了するトップ・アーティストは進化し続けて止まない。

何よりも好きだった、子供の頃に聴いた70年代の音楽

──こんにちは。そちらはどうですか?

「こちらはすべて順調よ。今はロサンゼルスにいるの。ちょうど午後ね」

──4年振り、通算6枚目となるニューアルバム『Daddy’s Home』がリリースされましたが、どのような内容に仕上がりましたか? 70年代にインスピレーションを受けたとお聞きしております。

「その時代にはすごく影響を受けていて、音楽的には1970年代のイーストヴィレッジ、ローワーイーストサイド、チェルシーなどの、ダウンタウン・ニューヨークをイメージしているのよ。そこで当時かかっていたような音楽に関しては、子供の頃から聴いていて、どんな音楽よりも好きだった。だけど実際に、これまで自分の作品では大々的にアプローチをすることはなかったの。無限の可能性を感じていたからこそ、きちんとした配慮が必要だと思っていたし、触れることをしてこなかったのだけど、今回はそのダウンタウン・ニューヨークをイメージにレコーディングを始めてみた。そうしたら、良い形で進んでいったのよ」

──70年代のニューヨークのイメージとはどんな感じですか?

「私が思う70年代は音楽で言えば、スティーヴィー・ワンダーやスライ・ストーンなどで、プレ・パンク、プレ・ディスコ、そしてフラワー・チルドレン以降のものね」

──テイラー・スウィフト、FKAツイッグスなども手がけている音楽プロデューサーのジャック・アントノフを共同プロデューサーに選ばれましたね。

「ジャック・アントノフは友人であり、これまでも多くのプロダクションを手がけてきた人。私たちは壮大な創造力の中で制作していったわ。アルバム制作に入る前に私はジャックに、ダウンタウン・ニューヨークの疲れ果てた生活をイメージしていると話したの。そこでお互いのアイデアを出し合って、各々のスタジオで楽器を演奏したファイルを交換しながら曲を作っていったのよ。彼はチームリーダーで、アイデアに溢れた理想家で、一緒に作っているととても楽しいの」

ダークさも、ファニーさも持ち合わせた父親への思い

──歌詞はどのようなところで考えていることが多いですか?

「私はストーリーテラーなんだけど、自分の人生を物語りにしていることが多いわ。私の目に映ったダウンタウン・ニューヨークや、朝、電車に乗っているとき感じたことや、女の子たちの休日のパーティとか、私の人生を切り取った短い物語りを書いているのよ。ストリートで見た光景を写真で記録したり、メモしたり、本を読んで感じたことを書き留めておいて、そこから歌詞の物語り書き始めることがほとんどね」

──『Daddy’s Home』という今作のタイトルですが、お父様について教えていただけますでしょうか?

「父は刑務所に12年間に入っていて、2019年に出所したのよ。すでにレコーディングは始まろうとしていたのだけど、そこからストーリーを書き始めた。父が刑務所に入る前のこと、最後に私が父の姿を見たときのこと、父が刑務所にいたときのことなど、この10年間のことを振り返り、自筆でどんどん書いていったの。ダークなこともあるけど、私の中ではとてもファニーなことになっていて、言葉がクレイジーな方向になっていった。何年も娘から父へ対する気持ちを言葉に置き換えできたけど、遂にその言葉やパワー関係について責任を持とうと感じたようね。『I’m Daddy(私がダディー)』っていう。父からは影響を受けているとも言えるし、受けてないとも言えるの。だから私は、ユーモアを込めて物語りを書いた」

YOSHIKIは間違いなくロックスター

──日本盤には昨年リリースされた、「NEW YORK FEATURING YOSHIKI」がボーナストラックとして収録されています。YOSHIKIさんとコラボーレーションしてみていかがでしたか?

「この曲を制作した時期はパンデミック下だったので、YOSHIKIには会っていないの。(*楽曲制作完了後に2人は対面)だけどYOSHIKIは、彼の素晴らしいロサンゼルスのスタジオでレコーディングをしてくれて、私たちはお互いの音楽性を尊重しながら制作できたし、とても美しいNEW YORKバージョンに仕上がったと思う。YOSHIKIはすごくクールで、間違いなくロックスターと言える人。このタイミングで一緒に仕事ができたことは、私にとってベストタイミングだったと思います」

──今作のイメージ写真を見ました。70年代な感じでとても素敵です。音楽だけでなく、イメージに関しても自身でプロデュースされていると思いますが、今回はどのようなことにインスピレーションを受けクリエイションしましたか?

「自分自身がディレクターとなって、自分自身のイメージを考えることも私のキャリアでもあるのだけど、今回はキャンディ・ダーリンや、ジョン・カサヴェテスの映画でお馴染みのジーナ・ローランズをイメージしていてみたの。ジーナ・ローランズのようなタフで貪欲でグラマーな女性であり、同時にキャンディー・ダーリンのようなフェミニンな雰囲気も持ち合わせた女性。そしてダディーをイメージしてスーツを着て、マスキュリン(男性的)な中にフェミニンさも打ち出してみたわ」

タフでグラマー、そしてフェミニンな女性像を映し出す

──ヴィンテージ風なホテルでの撮影もいいですね。日本の着物を着ているのも素敵です。

「ダウンタウン・ロサンゼルスにあるホテル・バークレーで撮影をしたの。ロサンゼルスの中でもとても古いホテルで、中も綺麗ではない。だけど、なんだかニューヨークを思い出させるような雰囲気のホテルなのよ。服に関しては友達がスタイリングをしてくれたんだけど、ヴィンテージの着物を探してきてくれたのよ。とても美しかったわ」

──普段はどんなファッション・ブランドが好きですか?

コム・デ・ギャルソンと、TOGAがすごく好き。両方とも日本のデザイナーよね」

──日本の人々へメッセージをください。

「私は日本の文化が大好きなの。だからとても気に入って場所のひとつだし、できる限り早く日本へ行けたらいいなと思っています」

アルバム『Daddy’s Home』ダディーズ・ホーム
Virgin Music Label & Artist Services/発売中
価格:3,300 円(税込)
※日本盤は歌詞対訳・解説付き、ボーナス・トラック1曲収録

Interview & Text:Kana Yoshioka Edit:Naomi Sakai

Profile

セイント・ヴィンセントSt.Vincent 米女性シンガーソングライター兼ギタリスト。 ポリフォニック・スプリーやスフィアン・スティーヴンスのツアーメンバーとして活動後、ソロ活動を開始。ミュージシャンとして作品のアートワーク、ステージ衣装など、ヴィジュアル・イメージも自らプロデュースする。2014年にリリースした アルバム『セイント・ヴィンセント』が絶賛され、第57回グラミー賞「最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム」を受賞、US チャート12 位を獲得し多くのメディアで年間ベスト・チャート上位にランクイン、国際的に注目を集めた。2017年10月に5枚目となるアルバム『マスセダクション』(「New York」のオリジナルヴァージョン収録)をリリース。第61回グラミー賞では、「最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム」にノミネートされ、「最優秀録音パッケージ」と収録曲「Masseduction」が「最優秀ロック・ソング」を受賞した。初来日は 2012年、2017年 Hostess Club All-Nighter にヘッドライナーとして出演、2018年8月にはサマーソニックで再来日を果たし日本の観客を魅了した。

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