世界一前向きなバンド、CHAIのポジティブレッスン「ほめ合うことが自信をつくる」 | Numero TOKYO
Culture / Feature

世界一前向きなバンド、CHAIのポジティブレッスン「ほめ合うことが自信をつくる」

日本が誇る“NEO - ニュー・エキサイト・オンナ・バンド”、CHAI。1stアルバム『PINK』では誰もが抱える容姿コンプレックスを肯定し、世の中の“カワイイ”の常識に一石を投じた。2ndアルバム『PUNK』ではありのままの自分でいることのすばらしさについてあらためて気づかせてくれた。彼女たちはなぜいつもこんなに前向くことができるのだろう。待望の3rdアルバム『WINK』をリリースする彼女たちに、自信を持つ方法を教えてもらった。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年5月号掲載)

価値観の違いはむしろ楽しむ

──CHAIは「コンプレックスはアートなり」というコンセプトで終わるのではなく、音楽的なアップデートを毎作し続けて、ちゃんと力にしてますよね。

マナ「うれしい」

ユウキ「そうなの。ただの慰め合いじゃないから。テーマが独り歩きしてそう思われがちなところもあって。でも、CHAIはまずは曲があって、何が何でも音楽ファースト。そこをちゃんと見てくれるのはうれしい」

カナ「『NEOかわいい』っていう言葉だけ歩いてっちゃって、『ちょっと待って!』って感じだったよね」

ユウキ「そのキャッチフレーズをあまり言わないほうがいいのかなって悩んだりもしたよね。殻を割れる強みではあるんだけど。でも今度リリースする『WINK』がすごく良いアルバムだから」

マナ「そう、もう変わると思う」

ユウキ「キャッチフレーズに縛られないというか。それが関係なくなると思う」

──『WINK』はこれまでの作品の中でもいちばん音楽的な新たなトライアルがあります。

ユウキ「そう。“新しい”っていうのはすごく意識していた。生まれ変わりたいと思ってたくらい」

マナ「コロナでツアーがなくなったことは悲しかったけど、入ってきたものを自分のものとして外に出せる時間ができたことはすごくありがたかった」

ユウキ「そう。ライブでずっといろんな国を回ってると、発信しっ放しで自分がカスカスになってる気もしながら頑張ってて。でも今回、ちゃんと止まって新しいものを入れ込んだ上で、さらに新しいものを作るっていうパワーの使い方に切り替えられた
よね。

マナ「うん。今までだったらスタジオで4人で合わせて、『できた!』って感じで曲を作ってて。ライブでかっこいい曲ってことを意識してたからなんだけど。CHAIはライブがすごく良いからたくさんやってて。たくさんお客さんが集まって、その場では手応えがあるんだけど、音源が広まっていく実感をなかなか持てなくて、すごい悔しかったの。曲につながってないのは音楽家にとって一番ショックなことだから。例えば通勤時間とか、料理作ってるときとか、リラックスしてる状態で聴く音楽が本当に自分が好きな音楽なのかなって。そういう存在の音楽がやっと作れたから、すっごい満足!」

ユウキ「去年の自粛期間中に、アメリカのレーベルのSUB POPとの契約が決まって。『WINK』はそこからリリースする初めてのアルバムなの。だから、だいぶCHAIのパワーになった期間だよね」

マナ「そう。それもあって、今回いろんな海外のミュージシャンと一緒に曲を作ることができたし。それで、自分たちだけじゃ作れなかった音が作れて、夢が叶っていってる気がする」

──『WINK』で最初に公開された「Donuts Mind If I Do」からは「ドーナツという、なんてことない存在かもしれないけど、対象を素直に好きと思う気持ちが大事なんだ」という思いを感じました。

ユウキ「CHAIのもともとのテーマにも通じるけど、自分で決めた自分の考え方や価値観って、たとえ人と違ってもそれはそれでいいってずっと思ってたから。好きなものがドーナツだとして、それを人に「変じゃない?」って言われても、そのことで落ち込む必要なんて何もないなって。むしろその違いが楽しいじゃんっていう」

──CHAIのスピリットが自然と出た曲になった?

カナ「でも、CHAIらしさはいつも考えてないんです。ユウキが歌詞を書けば絶対CHAIの歌詞になるから」

ユウキ「否定されたことが一回もない(笑)」

ユナ「メンバーでありながら、いつも歌詞と曲に感動しちゃって。私、CHAIのことがすごく好きなんだと思う(笑)。『WINK』で皆さんも気づくと思うけど、バンドだけど生バンドにこだわってなくて、すごく柔軟な音と歌詞で。私たちはエンターテインメントのことを考えてるから。それが誇らしい」

自信は4人で“つけ合う”

──カナさんがドラムとリードボーカルを担当した「Wish Upon a Star」に代表されるように、優しく寄り添ってくれるアルバムでもあると思いました。

カナ「当時私は眠れなくて、そのためにユウキがその歌詞を書いてくれて。聴いて泣きそうになりました」

ユウキ「『そういうときもあるから、その状態を否定することないよ』っていうのを伝えるのも友達の役割だから書いた。コロナで不安になる人もたくさんいるだろうなって思ったし、私たちもいつも元気なわけじゃないから。CHAIの良さであるポジティブって、ネガティブを否定することじゃなくて。両方あるからこそポジティブを大事にできるってことを伝えたい。そういえば、今までそういうことを歌詞にしてなかったかも。今までは「元気! 元気!」ってなりがちで(笑)。でも、今はポジティブだけが正しいのは違うってはっきり言えるから、ちゃんと悲しみや暗さに寄り添いたいなって思って書きました。音からインスピレーションを受けて言葉が出てくるんだけど、今回は端から端まで、マナとカナを中心にいろんな音を作ってくれたから、歌詞もそういう違いが出てきたんだと思う。

──この4人だとネガティブもポジティブに変換できる要因って何だと思いますか?

ユウキ「4人で不満や愚痴をずっと話したりするよね。でも結局、『CHAIはすごいから!』って結論になる(笑)。そうやって自信をつけ合う」

マナ「自分たちがやってることにはなんかずっと自信があるよね(笑)。今回のアルバムは特に。それぞれがそれぞれのこれまでのこともわかってるし、弱みも知ってもらえてるのが強みかな」

カナ「ほんとに。メンバーがいちばん信じられる」

マナ「夢も一緒だし、誰もやめる気はさらさらないし。それがわかってるからありがたい。大当たりをメンバーで引いたって感じ(笑)」

ユウキ「『Donuts~』のMVでおばあちゃんCHAIになってるのもそういう意味があって。いつか楽器が持てなくなったらバンドはやめるかもしれないけど、4人一緒にいるよっていう」

カナ「音楽やめても4人で何かやり続けるっていうね」

マナ「うん。CHAIは残すよね」

CHAI『WINK』
発売日/2021年5月21日(金)
発売元/OTEMOYAN record、SUB POP
ダウンロード&ストリーミング/smarturl.it/chai.WINK

Photos:Masumi Ishida Interview & Text:Kaori Komatsu Edit: Mariko Kimbara

Profile

CHAIちゃい 双子のマナ(Vo・Key)とカナ(G・Vo)、ユウキ(B・Cho)とユナ(Dr・Cho)からなる“NEO -ニュー・エキサイト・オンナバンド”。2015年に本格始動。18年にはアメリカ、イギリスのインディレーベルから海外デビューも果たし、ワールドツアーや世界各地のフェス出演も精力的に行っている。20年にかつてニルヴァーナなどを輩出したアメリカの人気レーベルSUB POPと契約を交わす。5月21日に3rdアルバム『WINK』をワールドリリース。

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