大宮エリー式クリエイティブの楽しみ方 | Numero TOKYO
Interview / Post

大宮エリー式クリエイティブの楽しみ方

クリエイティブは楽しい!表現することをためらわず、その素晴らしさを教えてくれる大宮エリー。誰でも身に付けられ、どんな職業でも実は役に立つ「クリエイティブマッスル」とは何か。そしてその鍛え方も伝授!(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年4月号掲載)

クリエイティブの体幹を鍛える

──これからの世界を生きるためにクリエイティブの力は必要でしょうか。 「『クリエイティブの力』というのは、発想力のことだと思うんです。私は『クリエイティブマッスル』と表現してるんですが、筋肉を鍛えるように発想力を鍛えることは、未来が不確かな今だからこそ、より一層重要になってくるのではないでしょうか。特に『クリエイティブの体幹』を鍛えてバランス感覚を養うことは大事なこと。例えば、震災や今回のコロナ禍のように予想外のことが起きたとき、予定していた計画を中止せざるを得なくなっても、別の案を柔軟に考えられて、新しい道を探ることができます。もし収入が下がっても、仕事を増やすより引っ越せばいいんじゃないか、同じ街でも駅から遠くなら暮らせるんじゃないかとか。いろんな選択肢が考えられますよね。発想の柔軟性があれば、予測不可能な世の中でも楽しく生きていくことができると思います」

──エリーさんはクリエイティブの力をどう養ってきたのでしょうか。

「小さい頃にいじめられていたり、コミュニケーションに悩んでいたりしたこともあって、周囲をよく観察する子でした。人を癒やせるんじゃないかと考えて大学では薬学部に進学したんですが、就職は広告代理店で、コピーライターというまったく違う道に進んで。会社にも鍛えてもらったんですけど、発想力の体幹を養うようなことは昔から自分でもしていました。終電に乗ると、たまに泣いている人を見かけますよね。どんな人なんだろう、なぜ泣いているんだろうと、10パターンの設定を考えてみたり。それで自然と発想力を鍛えていました」

──絵や写真、小説、映画、脚本、作詞などさまざまなジャンルで作品を発表されていますが、「クリエイティブの体幹」が生かされているんですね。

「今いろんなことをしてますけど、アウトプット先が違うだけで、基本のクリエイティブ力は一緒です。何を伝えたいか、どう生きるか、何を大切にしているかが重要で、孤独を感じる人に寄り添う存在でいたいということがベースにあります。それを映像で表現したらドラマになり、歌に乗せたら作詞になる。医療で人を癒やすことはできなかったけど、アートや文章も人を癒やす一つの『メディスン』ですよね」

painting
大宮エリーが描く絵

個展「マイ フェイバリット リゾート」は2020年、イセタンサローネにて。今年も渋谷西武などで絵画展の開催予定あり。「スリランカの夏休み」 2020 © Ellie Omiya, Courtesy of Tomio Koyama
個展「マイ フェイバリット リゾート」は2020年、イセタンサローネにて。今年も渋谷西武などで絵画展の開催予定あり。「スリランカの夏休み」 2020 © Ellie Omiya, Courtesy of Tomio Koyama

photo
大宮エリーが撮る写真

個展「神聖な場所」をタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムにて開催(会期終了)。「おんばしら いち」 2020年 C-print © Ellie Omiya, Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film
個展「神聖な場所」をタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムにて開催(会期終了)。「おんばしら いち」 2020年 C-print © Ellie Omiya, Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

思い切って直感を信じてみる

──絵や写真など新しい分野に挑戦するとき、背中を押したものは?

「絵も写真も、脚本も作詞も自発的に始めたわけではないんです。無茶振りを受け入れただけというか。最初に絵を描いたのは、まさに晴天の霹靂でした。ベネッセの福武總一郎会長が国際的な賞を受賞されて、その受賞パーティでライブペインティングされる方がたまたま来られなくて、それで困っている主催者が私がたまたまいたのでやってくれと。私、絵を描いたことがなくて断ったんですが、どうしてもと言われ、これって何か大いなる意志が働いているのかもと飛び込みました。お酒をたくさん飲んで描いたのですが、福武会長も気に入ってくれて、それがきっかけで現代美術界へ。流れにしたがって飛び込むって大事だと思うんです。

写真は、沖縄のシャーマンから『あなた、いろいろ人に見えないものを撮ってるでしょ。みんなにシェアしなさい』と言われたんです。実は2012年から絵よりも先に、聖地の写真を導かれるまま撮っていたので驚きました。それで写真展もするようになりました。今年はタカ・イシイギャラリーにて新作を発表して。コロナ禍中、体が楽になった場所、諏訪大社と洞爺湖のパワーをみなさんにシェア。地球や大自然のエネルギーに私は、創作の源をいただいています。けれど、誘ってくれる人やその流れを信じて飛び込む。それが実は、自分の使命に実は沿った生き方に近いのでは、と思ってたりしています」

interactive art
大宮エリーのインタラクティブアート

“思いを伝える”という行動から喚起される心の状態をインタラクティブなインスタレーションとそれを包み込むような言葉によって構成。「思いを伝えるということ」展 心の部屋 2012(パルコミュージアム 渋谷パルコ)
“思いを伝える”という行動から喚起される心の状態をインタラクティブなインスタレーションとそれを包み込むような言葉によって構成。「思いを伝えるということ」展 心の部屋 2012(パルコミュージアム 渋谷パルコ)

コロナ禍こそ、発想力の訓練を

──私たちがクリエイティブ力を養うには、どうしたらいいでしょうか。
「まず、自分に向き合うこと。コロナ禍で疲れてしまって、感受性が凝り固まってしまった人もいるかもしれないけれど、何かを体験して『面白かった』『怖かった』と感じたら、その一言だけで終わらせずに、何が心に残っているのか、なぜそう思ったのか、時間をかけて自分に問いかけてみてください。そうすると見えなかった自分の本当の気持ちに気づくようになります。『私はこんなことにとらわれていたんだ』と、自分を縛っていたものを手放すことができるかもしれない。眠っていた感受性や可能性を引き出せるようになるかもしれない。去年からオンラインで「エリー学園」というクリエイティブの学校を始めたんですが、そこでも逆上がりの補助をするように、みんなの発想力を引き出すお手伝いをしています」

──学園ではどんなことを?
「私は『なんでそう思ったの?』『面白いね』と話を聞いているだけ。もし既成概念にとらわれていたら『それを外してみよう』と促してみることも。すると思いもよらないアイデアが飛び出してきたりして面白いんですよ」

public art
大宮エリーとパブリックアート

十和田市現代美術館にて個展「シンシアリー・ユアーズ ―親愛なるあなたの大宮エリーより」を開催した際、商店街ではシャッターペインティングなどを行なった。「子供たちとシャッターペイント」2016
十和田市現代美術館にて個展「シンシアリー・ユアーズ ―親愛なるあなたの大宮エリーより」を開催した際、商店街ではシャッターペインティングなどを行なった。「子供たちとシャッターペイント」2016

──その授業は、子どもたちにもぜひ体験させたいです。
「今の学校教育には心を育てるカリキュラムがありませんよね。子どもたち向けにことばとアートを教えられたら、未来は変わるんじゃないかなと思っていて。NHKの『課外授業ようこそ先輩』でアートとことばの授業を開いたとき、子どもたちに『わくわく』するものをデジカメで撮ってもらったら、校庭の石を撮影した子がいて。理由を聞いたら『アリの目』と答えたんです。それを聞いた周りの子どもたちが『あいつ、実は天才だった!』と騒ぎ出したんですよ。誰かが少し寄り添ってあげると、才能を引き出せるし、その子も自分の可能性に気づくことができるんですよね」

──思考が凝り固まりがちな大人も、頭の体操が必要かもしれません。
「エリー学園には20〜60代まで幅広い年代の人がいるんですが、40、50代の変化も目覚ましい。やってみたいことがあっても二の足を踏んでる人が、エリー学園のみんなに話して、背中を押してもらって。みんなに作品を見せながら、徐々に力をつけていって、それを副業にしたということもありました。今はコロナ禍で世界中が停止している状態だから、この期間はトライアンドエラーができる。学園のみんなとも話してるんです。この3年は次の準備に充てようって。でも、その準備やクリエイティブマッスルを鍛えることは、実は自分一人でもできるんですよ。だって、自分に寄り添うことだから。今は「風の時代」といわれていますが、誰もが時代の変化を肌で感じていますよね。自分の使命と、心が喜ぶこと。それに本気で向き合い、バランスを取りながら生きる時代になったんだと思います」

book
大宮エリーの本

心に染みるものから、お腹を抱えて笑えるものまで著書多数。読んだ後にはどちらも生きる勇気をもらえる。近著は『大宮エリーのなんでコレ買ったぁ!?』(日本経済新聞出版)
心に染みるものから、お腹を抱えて笑えるものまで著書多数。読んだ後にはどちらも生きる勇気をもらえる。近著は『大宮エリーのなんでコレ買ったぁ!?』(日本経済新聞出版)

Let’s Try

直伝! クリエイティブマッスルの鍛え方

1.自分の心の声を聞く。美術館で好きな絵に出合ったら、なぜその絵に魅かれたのか、理由を考えて 。自分の心に残ったのは何? 色? 形? 目? なんだろう。そしてそれをどう感じたのか。安心した? 不安になった? ドキドキした? 自分の感受性に目を向けて対話することがクリエイティブマッスルを鍛える第一歩。

2.既成概念を外して想像する。例えば、脚本から出題。スーツを着ている男性二人が喫茶店で向かい合って話しています。二人はどんな関係? 脚本は設定が大事です。さあ、ここで会社員と思った人は、スーツ=ビジネスマンという固定概念に縛られているかも? エリー学園では「宇宙人です」と言った人がいました! クリエイティブ力を鍛えるために、家庭、仕事以外のもう一つの場、を持つのも鍛えられますよ。

3.直感を信じてみる。ピンときたことは理性でセーブせずに感じたままに行動してみる。普段はついつい頭で考えてしまいがちだけど、赤ちゃんのときのような心で動いてみる。頭で考えても失敗することもあるんだから、たまには思い切って直感に従うことで自分の新しい可能性に気づくことができるはず。

4.自分を大切にする。どうすれば自分が喜ぶのか考えてみましょう。自分を愛せない人は人のことも愛せない。自分を愛せるとクリエイティブマッスルも鍛えられる。自分を信じること。そして甘やかしてあげること。

Photos : Kouki Hayashi Interview & Text : Miho Matsuda Edit : Sayaka Ito

Profile

大宮エリーEllie Omiya 作家、脚本家、画家、映画監督、演出家、CMディレクター、CMプランナー。『海でのはなし。』で映画監督デビュー。『木下部長とボク』『波乗りレストラン』などのテレビ脚本から、MISIA、ハナレグミなどの楽曲の作詞やMVも手がける。著書に『生きるコント』『なんとか生きてますッ!』など。2012年以降はアートの分野でも活躍。美術館やギャラリーで個展多数。YouTubeでは「スナックエリー」や「手紙講座」を配信中。昨年よりオンラインの学校「エリー学園」開校。不定期で新規生を募集している。エリー学園

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