中村倫也・山田裕貴インタビュー「人生の終わりには、笑っていられるような人間でいたい」 | Numero TOKYO
Interview / Post

中村倫也・山田裕貴インタビュー「人生の終わりには、笑っていられるような人間でいたい」

漫画家・きくちゆうきのTwitterに100日間連続で投稿され、大きな話題になった4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』が映画化された。タイトルは『100日間生きたワニ』。『カメラを止めるな!』で知られる上田慎一郎監督が私生活のパートナーでもあるアニメーション監督・ふくだみゆきと組んで、原作で描かれたワニの100日間に、ワニがいなくなってしまった後の物語を大幅に加えたアニメーション映画だ。神木隆之介演じる主人公のワニの親友・ネズミを演じているのが中村倫也。ワニがいなくなった後に登場し、喪失感をかき回すような存在の映画オリジナルのキャラクター、カエルを演じているのが山田裕貴。今作で3度目の共演。距離が近い故のかけあいも見られた対談をお届けする。

──おふたりは映画『100ワニ』で3度目の共演となります。お互いはどんな存在ですか? 山田「2013年に観に行った『八犬伝』の舞台で倫也さんの演技を生で観て、その存在感に『この人は何者?』という衝撃を受けました。そこから『ホリデイラブ』というドラマで初めて共演が決まった時はすごく嬉しかったですね」 中村「その『ホリデイラブ』の打ち上げで初めて一緒に飲んだ時に、ずっと『八犬伝』の感想を言ってくれて。酔っぱらってるから、30分に1度くらいのペースで『あの舞台はほんとすごかった!』とか言うんですよね。今は別の作品の打ち上げっていうこともあって、途中から『もういいよ』って思いました(笑)」 山田「(笑)その後、ごはんもご一緒させていただいたことがあり、倫也さんは僕がいたいように自由にいさせてくれる人です。倫也さんのスタイルのまま見守ってくれる感じがある。これまでの作品では共演シーンはあまりなかったので、プライベートのほうが多く言葉を交わしてるくらいでした。でも『100ワニ』では芝居のやりとりがたくさんあったので、不思議な感じもしましたね」 中村「裕貴は会った時からこうやって『倫也さん!』『倫也さん!』って感じで来てくれたから、単純にかわいい後輩だなって思います。まっすぐだし、悩んでる時もすぐにわかる。それに、役者としての実力もちゃんとあって結果も残している。これからも長く一緒にお仕事ができたらいいなって思う人ですね。ただちょっと虚言癖があるので、そこだけが怖いんですけど(笑)」 山田「いやいや、それこそが虚言ですよ(笑)」

「特別な役作りはしていません。意識したのは“余白の美”」(中村)

──(笑)どんなことを意識して、それぞれネズミとカエルを演じたんでしょう?

中村「ネズミの『実は優しくて楽しいやつなんだ』っていう、その『実は』の部分が匂いとしてちゃんと出てないとただのクールな一歩引いてるキャラになってしまうと思いました。ワニとちゃんと仲が良いっていうことが感じられる距離感を大事にしたというか。でも今回、特別な準備や役作りは何もしてないんです。他の作品における声の表現だと、ちょっとプッシュしてあげないとハマらなかったり弱かったりすることがあるんですけど、今回は伝わりきらないことで本質が伝わる“余白の美”みたいな作品なので、生っぽさが大事でやりすぎないほうがいいなと思ったんです。だからこそ人気声優さんをたくさんキャスティングするのではなく、僕たち役者陣に声がかかってるんだなと。シンプルにセリフの間合いが決まってるっていうことだけが実写との違いで、あとは何も変えてませんね」

山田「僕が演じるカエルは映画のオリジナルキャラクターなので、登場した時に視聴者の方に『こいつはなんだ?』と思われる異物感を与えて、新しい風を吹き込む存在であればいいなと思いました。なおかつ、裏が見えないくらい明るくて、ネズミと友達になりたいから積極的に『どこどこ行こうよ』とか『あれやってみようよ』と誘うキャラなので、高めの声だとうるさく聞こえるかなと思い、そうならないラインを狙いました。僕はまだ声のお仕事は2作品しかやったことがないということもあり、やっぱりテンポひとつや少しの間で伝わり方が変わってくるので難しかったですね。それは三次元の作品でもそうなのかもしれないですけど、声だけで操るとより感じました。異物感があっても完全に嫌われてしまうキャラではダメで、かわいらしさもあり、『ウザイ』と簡単に言えるようなキャラになればいいなと思いました」

中村「実際ウザかったですよ。ネズミにはそのウザさが直で来ますから(笑)」

山田「そうですよね(笑)。でも、すでに録ってある声を聞いてアフレコするのではなく、実際に倫也さんと一緒にやらせてもらえたことは本当にありがたかったです。経験が少ないので現場に入る前は不安でしたが、すぐに『そのまんまでできてるから自信持ってやりなよ』と言ってくださり、安心してできました」

中村「緊張してる感じはあったけど、ちゃんと良いものができてたので、『何をそんなに心配することがあるんだ』と。誉めてほしいアピールだとしたら面倒くさいなって(笑)」

山田「あははは。確かにちょっとそういうところはあったかもしれないです(笑)」

「100年後も生きてる『100ワニ』を作りたかった」(中村)

──コロナ禍で世界が一変したことにより、原作にはなかったワニがいなくなってからの物語が大幅に追加されました。それについてはどんなことを考えましたか?

山田「ワニがいなくなった後、残された人たちはどうなるんだろうということは僕もとても気になっていて。以前より死が身近になってしまったからこそ、監督も“その先”を描きたかったのだろうなと思いました。それで、残されたみんなが失ったワニ君のことを思いながらも前に進むためのキーパーソンとしてカエルを登場させたと思っています」

中村「僕にとってはコロナだからどうこうっていうのは、作品をやる上で関係ないんですよね。もちろん、みんながマスクをするようになって、人と会いづらくなったりした世の中になってしまって──観てくれる方も、以前よりは『100ワニ』に対して抱く気持ちが繊細になったり、重くなったりするところもあるかもしれないんですけど、僕らの人生は続くし、作品もずっと残るもので。僕は100年後に観てもおもしろい作品に関わりたいので、100年後も生きてる『100ワニ』を作りたかった。作品を観た記憶に期限はないと思っていて。どうしたってどの作品にも“コロナ禍”という枕詞がつく時期ではありますけど、じゃあコロナ禍が終わったらこの作品に価値がなくなるのかっていうとそうではない。脚本を読んだ時、続いていく物事における人と人との関係性が描かれていて、それを作品を観てくれた人と共有できる気がしたんです。そこにこの映画を作る意義を感じて参加させてもらいました。僕は良い意味でも悪い意味でも流行というものに邪推なんですよね(笑)」

──誰にでも終わりが来るという事実は以前からあったものですからね。

山田「誰か大切な人を失くしたことは、たくさんの人が経験していることだと思います。決してその人の変わりはいなくて、そのできてしまった穴は埋まらなかったとしても、別のところに山は作れるというか。平坦ではなくて、穴もあって山もあるのが人生なのかなと思ったりしました。失った時は簡単にそうは思えないけど、例えば環境を変えてみることで何かを得られたり。そういうことを感じられる映画だと思います」

中村「物語には必ずラストシーンがあるんですけど、登場人物の人生はそこでは終わらない。それに、映画を観た後も僕たちの人生は続くわけで。その続いてる人生においていろんな出会いや別れを経験する中で忘れちゃいけないものを確認してもらえる作品なんじゃないかなと思います。いきものがかりさんの主題歌のタイトルは『TSUZUKU』なので、そこでもこの作品で伝えたかったことを歌ってくれてると思います」

「人から愛されて、自分も人を愛した人間であり俳優になれたらいいな」(山田)

──主役のワニの終わりが見えているからこそ、今を精一杯生きることが大事なんだということを思い知る作品でもあります。それについては何を考えましたか?

中村「僕、死ぬ時笑ってたいんですよね」

山田「あ! 僕も同じこと考えました」

中村「じゃあ変えます(笑)。僕、死ぬ時泣いてたいんですよね」

山田「あははは。倫也さん、僕と似てますね!」

中村「(聞こえないフリをして)将来の目標とか、今後こういうことをやりたいとか色々あると思うんですけど、ただ死ぬ時笑ってたいってことだけは決めてるんです。『楽しい人生だったな』って思って死んで、海に散骨されたい。死ってどうしたって約束されていることで、いつ来るかもわからない。だからこそ1日1日自分にも外にもちゃんと誠意を持って生きたいなって思いますし、いつ死が訪れても後悔しないように頑張りたいです。その時しかない1分1秒の連続なので、今はこの取材をものすごい誠実に頑張ってます(笑)。もし今僕が死んだら笑ってると思います」

山田「(笑)僕の夢は、自分の葬式で遺影でピースしてるような写真が使われて、『にんげんっていいな』の曲を流すことです!」

中村「怖いよ!」

山田「え、怖いですかね(笑)明るい葬式なのにみんな泣いてるという。それだけ人から愛される、自分も人を愛した人間であり俳優になりたいです。倫也さんと同じで、僕も『ああ、楽しかった!』って思って死にたい。夢といったらそれしかないんですよね。その葬式で、自分の子供なのか孫なのかがバーッて走り回ってたりする様子を幽霊になって見たいです」

──そこに向けて生きられている手応えはありますか?

山田「漫画の受け売りなんですけど、刀で首を切り落とされそうになった時に、『わりい おれ死んだ』と言って笑うシーンがあって」

中村「『ONE PIECE』かよ」

山田「よく知ってますね(笑)。そうやって死を意識した時に笑えるくらいになれたら『かっけえ』って思います。そのシーンを読んだ日から、毎日そう思って生きてますね」

『100日間生きたワニ』

桜が満開の3月、みんなで約束したお花見の場に、ワニの姿はない。親友のネズミが心配してバイクで迎えに行く途中、満開の桜を撮影した写真を仲間たちに送るが、それを受け取ったワニのスマホは、画面が割れた状態で道に転がっていた。その100日前のありふれた日常と、ワニの死から100日後の新しい日常を描く。

原作/きくちゆうき「100日後に死ぬワニ」
監督・脚本/上田慎一郎、ふくだみゆき
出演/神木隆之介、中村倫也、木村昴 / 新木優子 / ファーストサマーウイカ、清水くるみ、Kaito、池谷のぶえ、杉田智和 / 山田裕貴
音楽/亀田誠治
配給/東宝
公開日/2021年7月9日(金)
URL/100wani-movie.com/
©2021「100⽇間⽣きたワニ」製作委員会

衣装:(中村倫也)シャツ¥26,400、ベスト¥31,900、パンツ¥22,000/すべてNEPLA.(TEENY RANCH 03-6812-9341) その他/スタイリスト私物
(山田裕貴)ジャケット¥85,800 パンツ¥43,780/ともにKHOKI(サイン 06-6450-8196) 中に着たニット¥27,500/JOHN SMEDLEY(リーミルズ エージェンシー 03-5784-1238) シューズ¥24,200/MAISON SPECIAL(メゾンスペシャル 青山店 03-6451-1660) ネックレス¥51,700/BIIS(ワンダーラスト・ディストリビューション 03-3797-0997)

Photos: Ayako Masunaga Hair & Makeup: Emiy(Tomoya Nakamura)Tomoko Hoshino (Yuki Yamada)Styling: Akihito Tokura(holy.)(Tomoya Nakamura) Akiyoshi Morita(Yuki Yamada)Interview & Text: Kaori Komatsu Edit: Yukiko Shinto

Profile

中村倫也Tomoya Nakamura 1986年12月24日生まれ、東京都出身。2005年にデビュー。14年に初主演舞台「ヒストリーボーイズ」で第22回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。「凪のお暇」(19)、「美食探偵明智五郎」(20)、「この恋あたためますか」(20)などへの出演で人気を集める。その他主な映画出演作に、ワニ役神木との共演作『屍人荘の殺人』(19)、20年には『水曜日が消えた』、『人数の町』と2本の主演映画が公開、21年には「ファーストラヴ」(21)、「騙し絵の牙」などがある。現在「珈琲いかがでしょう」が放送中。また、初のエッセイ集「THEやんごとなき雑談」が発売中。
山田裕貴Yuki Yamada 1990年9月18日生まれ、愛知県出身。「海賊戦隊ゴーカイジャー」(10~11)で俳優デビュー。連続テレビ小説「なつぞら」(19)、「先生を消す方程式。」(20)、「ここは今から倫理です。」(21)、「青のSP―学校内警察・嶋田隆平―」(21)、「特捜9 season4」(21)などに出演。映画では『HiGH&LOW』シリーズ(16~19)などで人気を集め、17年には『あゝ、荒野』など14本の映画作品に出演。以降も『あの頃、君を追いかけた』(18)、『万引き家族』(18)など話題作への出演が続く。19年、舞台『終わりのない』で令和元年度(第74回)文化庁芸術祭賞 新人賞を受賞。21年は『東京リベンジャーズ』など4本の出演作品が待機している。

Magazine

DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

Gift of Giving

ギフトの悦び

オンライン書店で購入する