Chim↑Pomのエリイが見たアメリカ=メキシコ国境 | Numero TOKYO - Part 2
Interview / Post

Chim↑Pomのエリイが見たアメリカ=メキシコ国境

東京電力福島第一原発付近の帰宅困難地域で開催された国際展「Don’t Follow the Wind」を発案するなど、「立ち入れない場所」「ボーダー」をテーマにしてきたChim↑Pom。アメリカとメキシコの国境をテーマにしたプロジェクトによって彼らが示したものとは。

15分で分断される言語と文化

──今回は、メキシコにどれくらい滞在していたんですか?

「2016年の夏と、クリスマスと年越しの合計2ヶ月。拠点にしたティファナという街にはアメリカへの入国ゲートがあって、国境では壁を乗り越えたり穴を掘ったりしていると聞いたから、まずそこに行ってみようと。レンタカーでずっと国境の壁沿いに進んで、リベルタという街に、国境の壁を利用して暮らす家族を見つけたんです。それで作品を作りたいと伝えたら、即答でOK。その辺りは貧しいエリアで、〈トゥーマッチキリングストリート〉と呼ばれるくらい治安が悪いんですね。善人も悪人も混在しているんだけど、たまたまそのおばさんはいい人だった。孫が13人いるんですよ。作品にも登場しているんだけれど、全員の名前も覚えているし、みんな人懐こい可愛い子たちでした」

──その一家はなぜ国境沿いに住むことになったんでしょうか。

「おじいさんの代からその場所に住んでいて、当時は何もない場所だったのに、ある日突然、国境がやってきたそうです。国境にはアメリカ側の新しい壁とメキシコ側の古い壁が二重にあって、その間はアメリカ政府が管轄している〈ノーマンズランド〉と呼ばれる土地があります。国境警備隊が監視しているのですが、実際にはみんな気にせず鉄網の国境壁をチェーンソーで切って越えてるんですよ。とは言え、話を聞くと彼らの中にもアメリカに行きたい人もいれば、興味のない人もいました。特にメキシコ南部からアメリカを目指す人は、メキシコは貧乏で不幸だと思い込んでいて、アメリカン・ドリームを信じる人が多い。一方で、アメリカから戻ってきた人は、別に幸せにはなれなかったと言っていたり、でもやっぱり稼ぎたいと渡る人もいたり、本当に人によって様々。それから、アメリカを目指してやってきたけれど、国境を越えることなくティファナで生涯を終える人もいます。その一家は、特にアメリカに興味はないそうです」

──国境沿いは、アメリカとメキシコ文化のミックスなんですか。

「私は完全にメキシコ文化と感じました。クリスマスに、子ども達へプレゼントを配ったんですが〈メリークリスマス〉が通じない。〈ハッピーバースデー〉も〈ワン・ツー・スリー〉も簡単な英語も通じなかった。たった15分で行き来できるのに、この壁を境に使用言語がはっきり分かれているし文化も違うんです。メキシコシティのエリート層やアメリカで働いて帰ってきた人たちは話せます」

──国境沿いの人はアメリカをどう捉えていましたか?

「まさに〈あっち側〉で、向こう側にも人が住んでるんだな程度の感覚。本屋にも行ったけれど、アメリカの本が一切ないですし、生活をおびやかさないアメリカの情報にはそんなに興味がないのかなと感じました」

──昨年はアメリカの大統領選挙もありましたね。

「国境の壁にトランプを揶揄した落書きが多数あったのですが、トランプが大統領に当選してから全て消えたそうです。他の落書きは残ってるのに。それは飲み屋のおじさんが言ってましたね。それから、トランプ大統領就任の前日は、たくさんの人が、じゃんじゃん国境を越えていました」

入国できないから見える景色

Photos:Wataru Fukaya
Interview & Text:Miho Matsuda
Edit:Masumi Sasaki

Profile

エリイ(えりい) 現代美術作家。2005年に結成したアーティスト集団「Chim↑Pom」のメンバー。14年に結婚し「ウェディング・デモ」を敢行。同年その様子も収めた『エリイはいつも気持ち悪い』を発表。15年Chim↑Pomはアジアの若手作家を表彰する『プルデンシャル・アイ・アワード』で大賞を受賞。16年、イギリスの伝統あるアート雑誌『アポロ』が選ぶ「アジア太平洋地域で最も影響力ある40歳以下の40人」に選出。また取り壊された新宿・歌舞伎町商店街振興会のビルにて個展「また明日も観てくれるかな?」を開催し話題を呼んだ。chimpom.jp

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