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小林うてなインタビュー。壮大な物語を描いたアルバム『6 roads』を語る

スティールパン奏者であり、ermhoi、Julia Shortreedとともに結成したバンドBlack Boboiのメンバーであり、KID FRESINOや蓮沼執太フィルに参加し、映画『十二人の死にたい子どもたち』の劇判をも手がける多彩な音楽家、小林うてな。3枚のEP『Fenghuang』(ファンホアン)、『Darkest Era』(ダーケストエラ)、『Pylon』(パイロン)でもって“飽和から再生” “悲しみ”“門”というテーマを描いた上で、“人生賛歌”をテーマにしたソロアルバム『6 roads』を発表した。CDは小林が楽曲に付随した物語について説明した上で描いてもらったという絵画と小林自身の言葉で綴られた絵本仕様になっている。性急なビートミュージックや民族音楽調のアンビエント、エキゾチックなヒーリングミュージックといった実に多様な音楽と絵と言葉によって届けられる壮大な物語の完結作だ。本作のことや表現者としての欲求、いま考えていることまで様々なことを聞いた。

痛みも悲しみもあるけれど「それでも生きよう」

──3枚のEPとアルバム『6 roads』によってひとつの大きな物語を描くという構想はどこから生まれたのでしょう?

「いま音楽はストリーミングが主流になっているということもあって、最初はCDとしてリリースする気にならなかったんです。それで、どんなかたちで作品を発表するのが自分の中で納得できるか考えた時に、物語としてリリースするっていう方法が浮かんだんです。かなり昔に作った曲も中にはあるんですけど、断片的な物語はそれぞれの曲にあったので、それらを繋げてひとつの大きな物語を作るところから始めました。静かめな曲もあれば、唐突に激しいビートが流れる曲もあったので、何の情報もなかったらどういう風に受け止められるのか不安だったところもあります(笑)。だから、ちゃんと『こういう物語があってこういう状況の音楽なんですよ』って伝えられたら、安心して聴いてもらえるんじゃないかなって」

──以前インタビューで「ソロの作品には意味やメッセージを持たせないようにしている」とおっしゃっていましたが、今回明確に意味のある物語を作ることに振り切ったのは?

「私の曲には歌はあるんですけど、気持ちを歌詞にして伝えることには興味がないので言葉がないんです。自分の中ではうてな語として歌詞になっているのですが(笑)。昨今、音楽って“歌で聴くもの”っていうところが結構な部分を占めている気がするんですが、私は言葉で伝えたいことは言葉で伝えらればいいと思ってるので、言葉は絵本にして伝えようと考えたんです。また絵を書いてもらうために曲のことを説明すると、その過程で自分に返ってくるものもあって、いろんな窓から自分の曲を見るきっかけになりましたね。ここ8年くらいソロの制作テーマにしていた“希望のある受難”を紐解いちゃおうみたいな試みもありました。あとは、それぞれの曲にもともとつけていたファンタジーな物語にひたすら没入していこうと」

──そうすることで何が見えてきたんでしょう?

「結局“希望のある受難”って噛み砕いて言うと『いろいろあるけど生きようぜ!』なんでしょうね。自分のコンディションも、31歳になって20代前半の時より経験することが感情面でも多くなっていて。そういうことも色々感じた上で、『生きようぜ!』っていう。だから根本は変わらないんだけど、自分で自分を鼓舞してました。周りの人の痛みも絶対むげにしたくなくて。救うことができるかわかんないけど、『痛いよ』『悲しいよ』っていうことに対して、簡単に『元気出そうぜ』とは言えない。『それでも生きよう』ってところは滲み出てたらいいなと思います。悲しみに共感すると自分も落ち込んでしまうのでなかなか難しいところではあるけれど、とにかくポジティブだってことは伝えたくて。新世界に抜け出そうっていう物語が込められた作品でもありますね」

──最終的に広くエネルギーを与えられるようなポジティブな作品になっていると思うんですが、意識的だったんですか?

「全然なかったですね。『こういうものが作りたい』とか、『どういう人に聴いてほしい』ってことは考えていないんです。もっと単純で『この物語はこういう曲だ!』とかそういうことを考えています。作ってる最中で対象を決めてしまうと自分に嘘ついちゃうというか。作る過程は曲のことだけ考えるべきだということは、いろんな活動をしてても思うことで。どうやったらこの曲が最適になるかっていう基準で考えないと崩壊するんです。『このバンドだからこういう曲をやる』とか、『私だからこういう曲のテイストだ』っていうジャッジをしてしまうと、本来見なきゃいけない部分が狭まってきてしまう気がして。音楽って正解がないから、曲のことだけ考えてないと着地できなくなる気がするんですよね」

──では、ポジティブな作品になったということは、自然なモードがそうだったと。

「やっぱり、最終的に『それでも生きようぜ!』っていう気持ちに引っ張られたのかな。それは絶対ポジティブな気持ちで。ちなみにネガティブがすごく嫌いなんです(笑)。そっちの感情に引っ張られたくないから映画もバッドエンドなのはなるべく観たくない。人類滅亡の話とか観ると、『どうせ地球終わるし音楽なんてやる必要ないじゃん』とか思っちゃうんです。極端なんですよね。だから映画もあらすじを読んでから観てます(笑)」

自分という円を膨らましていきたい

──ソロ以外にもいろいろな活動をされていますが、アウトプットはどういう風に分けているんですか?

「コロナ前までは、ソロとプレイヤーとしての自分、あと映像等の音楽を作る作家としての自分を割と分けて考えて、3軸でバランスを保ってたんです。でもプレイヤーとしての比重が高くなった年があって。ソロ作品は自己救済的な役割で作らないとダメだと思ってたのが、時間が取れなくてソロを作らなかったんです。その翌年は引きこもってゲームばかりするようになってしまって、でも『生きてられるな』とは思いました。それで、私は音楽を愛しているけど、ソロをやらなくても死にはしない、依存的な付き合い方は嫌だなと思ったんです。

コロナになって、『そもそもこの時代における音楽って何?』っていうことを考えたんですね。その結果、昔はいろんな軸が絡み合ってると思ってたんですけど、結局はすべてが一つというか。円を描くように生きていきたいって思うようになったんです。1本の軸にしちゃうとそれに対する知識を入れて上を目指すようなイメージになりがちですけど、『自分という円をどんどん膨らましていく方が豊かじゃない?』って」

「それで、今新たにアイリッシュハープをやり始めたり。私、冷静に楽器に向き合えるタイプだと思ってたんですけど、右手ってどっちだっけ?ってくらい大混乱して全然弾けなくて。でもそれが楽しい。あと、それこそ今回絵本を作るために友人たちに絵を描いてもらったことで、物理的な部分にすごく興味が湧いたんです。彼らが私の頭の中にあるその曲に対する設定や景色を絵に落とし込む時に、『どっちから陽が射してる?』とか、角度や時間っていう私が気にし得ないところを考えるのがすごくおもしろくて。私はそれまで音楽という目線でばかり見ていたんですけど、全く違う目線で物事を見てる人がいる。もっといろんなことを知りたいし、人の見方ももっと聞いてみたいなって思いました。私はマンガやアニメが大好きなんですが、先日観た『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』や、『鋼の錬金術師』での人類のあらわし方を見ているとよりそう思えます。

あと何年生きられるかわからないですけど、少しでも人生が楽しかったって思うためには知っていくことが大事かなって。それは何でも良いんです。『この椅子ってなんでこの形なの?』とか。今まで見落としてたもの、気にしてなかったことをちょっとでも知っていくと豊かになるかもしれない。だから今は世界に興味があるんです。世界の事象は知らないことだらけだからおもしろい。赤ちゃんみたいですけど(笑)。それで、しばらくは新しいことにいろいろ挑戦したいと思ってますね」

アルバム『6 roads』
発売日/2020年3月31日(水)
URL/utenakobayashi.com/6roads
ストリーミング/caroline.lnk.to/6roads

※絵本仕様CD
本体価格/¥5,280
購入/caroline.lnk.to/6roads_CD

Photos:Takao Iwasawa Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara

Profile

小林うてなUtena Kobayashi ⻑野県原村出⾝、東京在住。コンポーザーとして劇伴、広告⾳楽、リミックスを制作。アーティストのライブサポートやレコーディングにスティールパン奏者として参加。ソロ活動では「希望のある受難・笑いながら泣く」をテーマに楽曲を制作している。2018年6⽉、⾳楽コミュニティレーベル「BINDIVIDUAL」を⽴ち上げm同時にermhoi、Julia Shortreedと共にバンドBlack Boboiを結成。2019年6⽉、Diana Chiakiと共にダンスミュージック・ユニットMIDI Provocateur始動。ライブサポートでD.A.N. 、KID FRESINO (BAND SET)に参加、蓮沼執太フィル所属。(utenakobayashi.com

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