スタイリストBabymixが語る、映画『さんかく窓の外側は夜』衣装秘話
2021年1月22日公開の映画『さんかく窓の外側は夜』は、ヤマシタトモコ原作の同名コミックを岡田将生と志尊淳のダブル主演で実写映画化し、霊が祓える男・冷川と視える男・三角の二人が“除霊”という特殊能力を使い怪奇事件に挑む、新感覚の除霊ミステリー。本作で衣装スタイリングを担当したのは、映画やドラマなどで活躍するスタイリストのBabymix。個性豊かなキャラクター作りとしての衣装のこだわりを聞いた。
──冷川理人を演じた岡田将生さんは、Babymixさんの衣装が役柄に入るスイッチとなったとコメントしていますが、冷川の衣装で特にこだわったポイントはありますか? 「ドラマや映画の衣装、キャラクターデザイン は、その人の衣装を考える事に加えまわりとのバランスや対比でその人のキャラクターをさらに浮かび上がらせる事もできるので、ファッション撮影などとはそこの方法論、幅が違うと思っています。その部分において今回は、冷川と三角を比べたら冷川は常識や道徳感が無いように感じられ、反対に三角は結構平凡な男。平凡をストリーティーでありふれたスタイルにするのに対して、冷川はどこか浮世離れしているような、平凡と交わらない世界観、お城か何かの中で生活している俗世間と切り離されているムード、それを表現するためには…などと考え、あくまでも冷川単独ではなく、三角との対比も加味して考えて作りました。」
──岡田さんの衣装はプラダのものですよね。
「プラダとかヴェルサーチェとか。基本的に冷川にはプラダが合うと思って、プラダの男性感を作ってみようと思いました。クラシカルで高貴な感じです」
──岡田さんの着こなしもとても似合っていましたね。
「そうですね、ハマっていましたね。お城の中で没落していく貴族を表現してみようと思って、良いシャツと古着の安いものをミックスしました。貴族の割に、足元はワークシューズを履いていたり。自分が没落していることや、みすぼらしい格好をしていることにすら、気がついていない人というイメージです」
──志尊淳さん演じる三角康介の眼鏡は、100個くらいの中から相談して選んだそうですね。
「まず、眼鏡チェーンが決定事項としてありました。幸い眼鏡チェーンが流行っていたので、いろんなパターンの中から選ぶことができました。よく“リアリティ以上のリアリティ”と言うのですが、平凡なものを選んでしまうと、それは画面の中で見たときに、あえて普通を意識して平凡なものを選んだはずなのに、結果としてダサく見えてしまう。平凡が伝われば良いのですが、ダサさの方が伝わってしまう。それはリアリティでは無くなるので、あえてデザイン的なものを選び、見ている人がそこに意味を持って、感じてくれる方がリアリティに繋がると思いました。また、その人物の癖がわかったり、キャラクターが見える方がリアリティに繋がるので、もちろん志尊くんが似合っていたのもありますが、持ってきた中では比較的デザイン性が高いものを選びました。その方が本人も眼鏡をかけている意識が強くなるので、より似合って見えますよね。平凡な眼鏡だとありがちな印象になってしまいます」
──平手友梨奈さん演じる非浦英莉可は原作のキャラクターとそっくりだと感じましたが、原作を意識したことはありますか。
「ないですね。作者が描いているキャラクターを二次元から三次元にする際に、例えば『ジョジョの奇妙な冒険』のようなキャラクター性が強いものだと、ある程度形をなぞる必要があると思いますが、この作品の場合、形が違っていても各キャラクターが原作と繋がって見えていれば、そっちの方が良いと思って、平手さんに限らず原作は意識せず準備していきました」
──森ガキ監督とは衣装について、どのようなお話をしましたか?
「物語終盤のある団体組織のシーンですが、監督は始めから、パープルで表現したいとおっしゃっていました。色々生地を探して、たまたまパープルで一番作りやすいものを見つけました。フラットに見たときに、白は平凡だし、黒もなんかなあという感じだったので」
──映像表現においても新感覚の映画にしたいと森ガキ監督がおっしゃっていました。衣装スタイリングにおいて今回新たに挑戦したことはありますか?
「いつも、限られた予算の中で何ができるかを考えます。主役だけではなく、色々なキャラクターが絡んでくると、体数が多くなりますから。また、海外の映画祭に出品されたとして、日本人といえば何だろうと考えた時に、やはり黒だなと思いました。黒は日本人が一番似合う色で、ファッション的に言えば、80年代にコム デ ギャルソンやヨウジ ヤマモトがパリコレで黒を打ち出し成功しています。ですから今回は、黒のセンセーショナルな感じを、もう一度日本映画で再現できたら良いなという気持ちがありました。そこで登場人物は全員黒の衣装にしてみようと。黒い服だったらエキストラも1着は持っているだろうし。予算がどうであれ、徹底して作り込めると思ったのが黒でした」
──今回、役者の皆さんが衣装でとてもテンションが上がっているようでした。なかでも滝藤さんは「こんなに良いもの着させてもらえる現場はないよ(笑)」とおっしゃっていたとか。
「やはり、役者さんにとって衣装とヘアメイクは演じる上で不可欠ですよね。そこに寄り添ってやっていかないと。作り手がもう少し考えてあげないとですよね。そう言う意味では、今回の作品はバランスが良かったと思います。滝藤さんが着ているスーツは良いものの方が、滝藤さん(半澤日路輝)の人柄を邪魔しないと思いました。マキタスポーツさんも良い味出していましたよね。最初のフィッティングの段階で、スポーツウェアですからって言いました。お名前の通り(笑)」
─映画を見たマスコミの方からも、衣装が凄いと評判です。
「ありがたいです。構築は念入りにしました。黒を基本にして、主人公に絡む女の人の女性感をどう作っていくか。やはり女の人が綺麗に見えて欲しいという想いがあるので、冷川と三角のお母さんや、半澤の奥さんたちのキャラクターをどうやって作り上げるかなどたくさん考えて練ったので、今回は私もすごく勉強になりました」
『さんかく窓の外側は夜』
原作/ヤマシタトモコ『さんかく窓の外側は夜』(株式会社リブレ刊)
監督/森ガキ侑大
脚本/相沢友子
出演/岡田将生、志尊淳、平手友梨奈、滝藤賢一、マキタスポーツ、新納慎也、桜井ユキ、和久井映見、筒井道隆
配給/松竹
2021年1月22日(金)ロードショー
©️2021映画「さんかく窓の外側は夜」製作委員会
©️Tomoko Yamashita/libre