鏡リュウジ × スカパラ 谷中敦 対談「200年に一度の転換期“グレート・コンジャンクション”とは?」(前編)
新曲『Great Conjunction 2020』をリリースした東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦と、心理占星術研究家の鏡リュウジ。今年の12月22日に迫った「グレート・コンジャンクション」という占星術のキーワードの導きによって引き寄せられた二人が語る、「グレート・コンジャンクション」と音楽と星の関係とは?
──今回お二人の対談が実現するきっかけとなったのがツイッターだそうですね。一体どのようなやり取りがあったのでしょうか?
鏡リュウジ(以下鏡):「僕がスカパラの新曲が『Great Conjunction 2020』だというツイートを見たのがきっかけです。思わず『えー!?』と声をあげるくらいの衝撃を受けました。そこで、スカパラのみなさんが新曲について話をされているインタビュー動画を観たら、リアルにグレート・コンジャンクションに基づいてタイトルがつけられていることを知り、まったくの冗談半分で、『僕にも取材をしてほしかったな』とつぶやいたところ、まさかのご本人さまからリプライをいただいてしまいまして。占星術用語がこんなにメジャーな方々の楽曲のタイトルになることが一番の驚きでしたけど、そこにご本人自らのリプライが来たことで驚きが重なり、どうしたらいいのか分からずに舞いあがってしまいました」
谷中敦(以下谷中):「いえいえ、僕は昔から占星術に興味があるので、鏡さんが反応してくださったことがめちゃくちゃ嬉しかったんです。これは素敵なチャンスなので、ぜひ鏡さんに御教授賜りたいと思ってDMさせていただきました」
──そもそも「グレート・コンジャンクション」とは?
鏡:「およそ20年に一度訪れる木星と土星が大接近する現象のことをいいます。次のグレート・コンジャンクションはもうすぐ、2020年12月22日です。ただし、今回のコンジャンクションは特別。というのは、この200年あまりグレート・コンジャンクションはほぼ『地の星座(牡牛座、乙女座、山羊座)』で起きていましたが、2020年のグレート・コンジャンクションは『風の星座(双子座、天秤座、水瓶座)』である水瓶座で起こるからなんです。このようにコンジャンクションの星座のエレメントが変わることを『ミューテーション』と専門的には呼んでいるんですね。そう、今はまさに200年単位での時代の転換点、というわけです」
谷中:「これまでの『地の時代』から『風の時代』への移行が『ミューテーション』で、今後約200年間のグレート・コンジャンクションは風の星座で起こるということですね?」
鏡:「はい、まさにその通りです。ところで谷中さんはなぜこの言葉を楽曲のタイトルにつけられたのですか?」
谷中:「スカパラの曲作りは先に曲があって、そこに僕が歌詞をつけるというスタイルなんです。インストゥルメンタルの曲も同じで、曲が完成した後に『谷中なんか題名をつけてくれる?』と言われることが多いんですけど、今回はトロンボーン奏者の北原雅彦が作曲した曲にタイトルをつけて欲しいと言われたんです。そのときに北原が、『自分的には「〇〇ジャンクション」みたいなのがいいと思ったんだよね』と丸投げされたんですよ(笑)。それで『ジャンクション』でいい言葉があれば、それを生かしてタイトルをつけてあげたいなと思って色々と調べていたら『グレート・コンジャンクション』という言葉がヒットして。それも今年じゃん! と。確かに今年は考えられないような変化を体験した年だったので、『ああ、これはグレート・コンジャンクションがやってくるすごい年なんだ』というのを確信し、『Great Conjunction 2020』と名づけたんです」
鏡:「ものすごく軽快なサウンドで、宇宙を感じさせる楽曲ですよね。楽曲を聴くとタイトルのほうが後だった、というのが驚きです。タイトルに合わせて曲を作っているように聞こえますから」
谷中:「いや、嬉しいですね。ただ、本当に北原は『宇宙的なムードにしたい』と言っていて、イントロや途中のテナーサックスソロのバックもスペイシーな感じだったりするんですよ」
鏡:「しかし、メンバーのみなさんもよく、聞いたことのない言葉をタイトルにすることに同意されましたね。メンバーの方の包容力も素晴らしいです」
谷中:「僕のプレゼン力なんでしょうね(笑)。って、それは冗談で、メンバーにはきちんと説明をしたら、『今年は目に見えないような大きな変化があったし、その言葉には本当に意味があるかもしれない』と納得してもらっての採用となりました。ただ、僕がよく分からないのが、グレート・コンジャンクションには二つのものが出合う、融合するという意味があると読んだのですが、木星と土星が出合うってどういうことなんですか? 人に話すときにうまく説明できなくて」
鏡:「もちろん、星空の上で視覚的に木星と土星がぴったり重なる、ということではないんですが、それでも今回はかなり接近します。木星と土星は惑星の中でも公転周期が長いので、この二つが接近するのは20年ごととまれ。とくに中世アラビアの時代から占星術では重視されてきたんです」
──なぜ木星と土星の出会いがそんなに大切なのでしょう?
鏡:「一つの星座を約1年かけて移動する木星は最大の吉星と言われています。一方の土星は移動に約2年半かかる凶星。昔の教義、神話レベルでいうならば、土星はクロノスという神様で、木星は最高神ゼウスであり、二人は親子なんです。父クロノスはもともと自分の息子に権力を奪われるという予言を受けていたので、自分の子どもたちを飲み込んで若い芽を根こそぎ摘まんでいた。ただ、ゼウスだけはうまいことこれを逃れて、父親を倒します。ですから神話的なイメージからいうと、土星(クロノス)はオールド・キング、木星(ゼウス)はニュー・キングであり、世代交代を象徴するこの2つの星が重なるときに、価値観や時代の流れが大きく変化するといわれているんです」
谷中:「今年は『グレート・ミューテーション』とおっしゃっていましたが、今の『地の時代』の前はどんな時代だったんですか?」
鏡:「ざっくり言ってしまうと1600年~1800年あたりが『火の時代』、1800年~2020年くらいが『地の時代』、そして2020年からが『風の時代』となります。面白いことに『火の時代』の特徴は『獲得・拡大』なんですけど、そんな『火の時代』の最後はナポレオンが死んだ1821年なんです。(注:1802年から『地の時代』に入っているが、1821年に例外的に火の星座の牡羊座でグレート・コンジャンクションが起こっている)。1770年代後半にアメリカが生まれ、1789年にはフランスで革命が起こり、近代国家がスタートしている。そして今終わろうとしている『地の時代』は産業革命などによる近代国家の始まりだし、今の形の経済ができあがった時代でもある。そして迎える『風の時代』はコミュニケーションや情報などがキーワードになってきます」
谷中:「つまり『地の時代』の約200年間は物質時代で、社会的にも経済的な豊かさや目に見える発展や変化が多かったのに対し、『風の時代』にはコミュニケーションや情報、ネットワークなど目に見えないものが大事になってくるんですね」
鏡:「はい、そうです。そういう意味では、音楽も『風の時代』になったら今まで以上に大きな意味や役割を持ってくるかもしれませんね」
Photos: Koji Yamada Interview & Text: Rieko Shibazaki Edit: Naho Sasaki, Chiho Inoue, Yukiko Shinto