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濱田岳・水川あさみに聞く「幸せな夫婦のカタチ」とは?

結婚して10年。うだつの上がらない脚本家・豪太と、そんな夫に絶望する妻・チカ。四国を舞台にしたシナリオ執筆のために、幼い娘と3人で取材旅行に出かける。この旅行中、豪太はひそかに「セックスレス解消」を目論んでいた──。映画『喜劇 愛妻物語』は、『百円の恋』で第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した足立紳監督による“ほぼ実話”の物語。劇中は容赦ない罵声が飛び交うが、それでも切れない夫婦の絆について、主演の濱田岳と水川あさみにインタビュー。二人が考える幸せな夫婦像とは?

ダメな夫は監督自身? “ほぼ実話”を演じる不思議な面白さ

──足立監督の同名原作を元に、監督ご自身が脚本・演出を手掛けた作品ですが、言わば監督の分身とも言える豪太を演じていかがでしたか?

濱田岳(以下、濱田):「監督の実体験を基にしている映画ですけど、監督は豪太を自分とは似て非なるものと捉えていたので、僕もそこは区別しました。ただ、監督は豪太の演技について、そんなに強く指導してこなくて」

水川あさみ(以下、水川):「やっぱり豪太は自分でもあるから(笑)」

濱田:「似て非なると言いながら、監督も撮影しながら『こんなんだから、俺は怒られるんだろうなぁ』とつぶやいてました」

──撮影中は、豪太のモデルである監督が目の前にいるわけですが、監督本人から取り入れた演技はありますか?

濱田:「監督はいつも微笑んでいるというか、ヘラヘラしているんです。こっちが真剣に話していても、ちょっと笑っていて、『なんで今、笑ってるんですか』ってこっちが戸惑うくらい。もしかしたら、監督のこういうところに奥様は怒っているんじゃないかと思って、役柄のヒントにしました」

──水川さんが演じるチカは、豪太に対して、罵詈雑言を浴びせるシーンがたくさんありましたね。

水川:「普段、こんなに怒鳴ることはないから、ちょっと爽快でした(笑)。でも、毎日怒鳴っていると、だんだん程度がわからなくなって、普通の会話をしても怒り気味になってしまって」

濱田:「罵声を浴びる方も毎日だと慣れるんですよ。最初は憂鬱でしたけど、いつの間にか『今日の“死ね”はキレがあったなぁ』と思えるようになりました。きっと豪太もそのタイプだと思うんですけど、でも一言だけ、『雑魚(ザコ)』と言われると彼はキレるんです」

水川:「そうそう(笑)」

濱田:「この夫婦にとって、罵詈雑言もコミュニケーションなんですよね。字面だけでは、チカはとんでもない人に見えるかもしれないけど、水川さんはそこに愛情をのせてくれるから、こちらも安心して怒鳴られる姿勢がとれる。水川さんだから成立したんですよ。罵詈雑言も聞いている途中で笑えてくるんです」

「ダメ男なのに絶対に逃げない」「それで結局、許しちゃう」

──本作は、豪太とチカの姿から、つい足立監督夫妻の生活を想像してしまうという不思議な映画体験が起こりますが、自宅のシーンは、実際に監督のご自宅でロケしたんですよね。

水川:「そこで初めて監督の奥様にお会いしました」

濱田:「撮影の合間に、監督からご夫婦の面白エピソードをたくさん聞いていたんですが、監督はずっと『あいつは外面はいいんだ』とおっしゃっていて」

水川:「実際にお会いすると、想像以上に素敵な方でしたよね」

濱田:「そう。それで、監督の方をちらっと見ると『ほら、外面はいいだろ』みたいな苦笑いをしていて。ああ、こういう二人なのか、僕らの演技は間違ってなかったと、贅沢な答え合わせができました。もちろん、映画は“ほぼ実話”なので、面白く脚色していますけどね」

──劇中、チカが豪太を怒鳴った後、ふと優しい表情を見せるシーンがありますが、あれは監督の指示だったんですか?

水川:「最初は偶然でした。チカが真剣に怒ってるのに、豪太はヘラヘラしていて、『何なの?』と思ってるうちに、少し笑っちゃったことがあって。それを監督が面白がって、『今回も怒鳴った後、笑ってください』と演出がつくようになりました」

──あの笑顔があるから、チカは豪太にまだ愛情があるんだなと思いました。

水川:「まんまと策にハマりましたね(笑)」

濱田:「チカと豪太って、あれだけケンカしても離婚しそうにないんです。豪太はかなりダメな奴ですけど、いいところを挙げるとすれば、チカちゃんが好きで、チカちゃんがいないと生きていけないと自覚しているところです」

水川:「チカはずっと怒鳴ってますけど、心の奥底に豪太への愛情と、彼の才能に期待しているところがあって。家計のやりくりや家事・育児で、それが見えなくなってるけど、ずっとその気持ちがあるから一緒にいられるんです。それに、豪太はどれだけ怒られてもヘラヘラ笑って、結局チカも許しちゃう。豪太は強力なポジティブ精神とすごい人間力の持ち主ですよ」

濱田:「この男は姑息だし卑怯なのに、決して逃げないんですよ。これだけダメな奴なら、妻子を置いて出ていきそうなものなのに、そんなことはしない。そこが人として好きなところではあります。こんな風に豪太を擁護するのは、100%勝てない被告を弁護してる気分ですけど(笑)」

罵り合いも大喧嘩も、好きでやってるならそれも幸せ

──これから結婚を考える方に、この作品はひとつの夫婦の形として参考になりそうでしょうか。

水川:「そう思ってくださると嬉しいです。結婚生活はきっとキラキラしたものだけではないでしょうから」

──今回、チカと豪太を演じてみて、夫婦にとって一番大切なことは何だと思いましたか。

濱田:「コミュニケーションなのかな。この二人の罵り合いも、多分、本人たちにとっては、毎日のなんてことない会話なんです。もし、チカちゃんが相手をしてくれなくなったら、豪太はいよいよキツいですよ」

水川:「確かに、チカが怒らなくなった時が怖い。全く話をしなくなるくらいなら、ケンカしている方がいいのかもしれないですね。罵り合いも、これがこの夫婦のあり方なんだと考えると、素敵だと思う部分がなくもないです」

濱田:「例えばトムとジェリーの関係だって、不幸には見えないですよね。どちらかが止めることも可能なのに、それでも毎日ドタバタやってるんだから、それもひとつの幸せの形です。チカちゃんの親友も『早く別れなよ』とは言わずに、『あんたたちはずっとそうでしょ』と見守ってる。だから、この罵り合いも二人にとっては通常営業なんですよ」

──なるほど。ネタバレになるので詳しくは言えないですけど、エンドロール直前のチカの表情が印象的でした。

濱田:「あれは問題のシーンですね」

水川:「監督が撮影中に思いついた演出なんです。このシーンの意味を監督に聞いても『わからない。でも、やってみたい』と言うから、私もいろいろ考えて演じたんですけど、解釈は映画を見た方にお任せします。最後の最後まで、チカと豪太はドタバタやってるので、全て含めて、夫婦っていいもんだなと思ってくれたら嬉しいです」

衣装(水川あさみ):ワンピース¥125,000 ブラウス¥68,000/ともにPlan C(パラグラフ 03-5734-1247)

倦怠期夫婦を描く、涙と笑いの痛快コメディ

年収50万円。うだつの上がらない脚本家の豪太と、情けない夫に絶望している酒豪の妻・チカ。結婚10年目、倦怠期真っ只中にいるセックスレス夫婦が、幼い娘と、四国にシナリオ執筆のための取材旅行に出る。なんとしてもセックスレスを解消したい豪太だが、チカは家計を支え、子育てに仕事に忙しくいつも不機嫌。果たして旅行中に二人の関係は変化するのか。足立紳監督の自伝的小説を映画化。

『喜劇 愛妻物語』

原作・監督・脚本/足立紳
出演/濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、大久保佳代子、坂田聡、宇野祥平、黒田大輔、冨手麻妙、河合優実、夏帆、ふせえり、光石研 ほか
配給/キュー・テック/バンダイナムコアーツ
9月11日(金)全国ロードショー
http://kigeki-aisai.jp/

©️2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

Photos: Takao Iwasawa Styling:Norihito Katsumi(KoaHole inc.)(Gaku Hamada), Miho Okabe(Asami Mizukawa)Hair & Makeup: Misato Ikeda(Gaku Hamada), Tamae Okano(Asami Mizukawa) Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto

Profile

濱田岳Gaku Hamada 1988年、東京生まれ。1998年『ひとりぼっちの君に』でデビュー。2004年ドラマ『3年B組金八先生』出演。『青いうた〜のど自慢 青春編』(06)で映画初主演し『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)で第22回高崎映画祭最優秀主演男優賞を受賞。近年の主な出演作に『引っ越し大名!』『決算!忠臣蔵』(19)『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』『コンフィデンスマンJP-プリンセス編-』(20)など。
水川あさみAsami Mizukawa 1983年、大阪生まれ。『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』(97)で女優デビュー。近年の主な出演作に『バイロケーション』『太陽の坐る場所』『福福荘の福ちゃん』(14)『後妻業の女』(16)『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』『滑走路』『ミッドナイトスワン』(20)など。

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