ジョナ・ヒルが語る監督デビュー作! 90年代への愛と夢が詰まった青春映画『mid90s ミッドナインティーズ』
実力派俳優ジョナ・ヒルの初監督作『mid90s ミッドナインティーズ』が、9月4日(金)に全国公開となる。『ミッドサマー』『レディ・バード』のA24とのタッグでも注目を集める本作は、90年代半ばのLAを舞台に10代の少年がスケートボードを通して仲間と出会い、大人への扉を開いていくというジョナ・ヒルの半自伝的映画。90年代への愛とリスペクトを携えながら、あらゆる世代に共通する思春期の痛みや憧れを鮮やかに描き切り、監督デビューを果たしたジョナ・ヒルにインタビュー。
ジョナ・ヒルインタビュー「この映画は僕が当時望んでいたものが詰まってるファンタジー」
──『mid90s ミッドナインティーズ』自体が、監督自身が若くしてコメディ映画の役者として人気が出たことで、誹謗中傷を受けた傷を受け入れていくプロセスにもなっていたそうですね。
「僕の人生で最も辛くて今となっては最高と言える出来事は、僕自身の最大の不安を世間が批判として叩いてきたことです。だから、一歩離れてこの映画を書き始めて、自分がつくりたいものをコントロールしていくことは、本当にやりがいのあることでした。その過程で、『ああ、批判する側がめちゃくちゃなんだ。原因は僕じゃない』ということがわかり始めたんですよね。まだ痛むこともあるしまた傷つくこともきっとある、おそらく終わることのない旅みたいなものだけれど、僕は僕のままでいいし、このままでもいい人間なんだと思えるようになったんです」
──この映画は、当時は男性がすべきじゃないと言われていた、脆弱さを見せたり、感情について語っていたりして、すごく意味があることだとも思いました。
「今になって気づくのが、この映画は僕が当時望んでいたものが詰まってるファンタジーだということ。90年代のアメリカのいわゆる男らしさは、男は感情について表したり語らないもので、そうすることは女々しいと思われていたから。レイを演じたナケル・スミスは、思慮深くてはっきり物が言える人で、彼自身のキャラクターから引っ張られたものも大きいですが、年上のレイと主人公スティーヴィーが話し合うシーンなんか特に、僕が13歳のときに誰かがこう言ってくれていたら! と想像していたものです。あのお兄さん的存在の人が下っ端の自分のところにやってきて話してくれた瞬間、だいぶ気分がよくなる感じ。だから、今の子どもたちが、ソーシャルメディアを通じて若いラッパーが感情について話すことをクールと思えていることは、すごくいいことだよね」
──インターネットに馴染みがある若い世代の人たちのほうが、自分たちの脆弱さについて話すことによりオープンですもんね。
「子どもたちが脆弱であってもいいと感じられることは、世の中のためにも素晴らしいことだと思う。でも物事にはいい面、悪い面があって、ソーシャルメディアは自分の意見を自由に投稿できるけど、それが永遠に残ることにみんな自覚的ではない気がする」
──ソーシャルメディアは苦手ですか?
「いや、批判はしませんが、僕向きじゃないって感じ。私生活では使わないですね。一人で他人のことを見たり考えたりしていると、自分の人生に自分が存在していない感じがして。でも仕事では使いますし、BLACK LIVES MATTERのような活動の場としてはリスペクトしていますし、チャリティ先を知ることができたり、有益な記事もたくさんあると思っています」
──じゃあ、スマホを持たずに、常に“Discman”を持ち歩いていた時代が懐かしいですか?
「もちろん! 音飛びする部分を除いては(笑)。映画で歩いていて音飛びが始まるシーンも撮ったんですけど、実際にカットしたのは、その時代について語りすぎているというか引用してすぎているような気がしていたから。カッコいい気分になりたくて音楽を聴いてるのに、音飛びが始まって、いちいちそれに反応してたのはよく覚えてますね」
──スマホがなかった時代を思い返すと、会話に集中できたし親密な関係を持ちやすかったようにも思います。
「その通りだし、本来はそうあるべきだとも思う。ただ、スマホがあるから国境を越えたり、普段会えない人と深い会話をすることもできる。ただ、居心地が悪いと多くの人がスマホをいじり始めるじゃないですか。昔は逃げることができなかった会話から、すぐ逃げることができる。僕自身、誰かと話しているときにポケットの中で携帯が鳴り始めると、少し不安になるんです。重要なことかもしれないから確認しないといけないと思うと、会話に集中できなくなってしまう。そう考えると、ないほうがいいのかもしれないですよね。そもそも僕にとっては、人生でスマホを持ってなかった時代のほうが長いので」
──90年代のあなたにとってのヒーローはどんな人でした? レイのような存在の人だったのでしょうか?
「スケートパークでもコメディの現場でも、年上の先輩との対話のなかで、彼らも自分と同じような子どもだったんだなと気づかされる瞬間はありました。レイは僕の人生で出会った、そういう人たちを組み合わせたキャラクターです。自分のことばかりに夢中になっていると、新しかったり、違う視点を持った人のことが見えなかったりするもので。人生、学ぶことばかりですよね」
──本作はネクスト・ジェネレーションのスケーターたちが登場していて、ほとんどが初めての演技に挑戦していますが、役者として彼らから学んだことはありますか?
「世界中の誰もがスケートボーダーをカッコいいと思うのは、自分らしさを持っているからですよね。でたらめや嘘のない文化だと思う。スケートボーダーに演技をさせた場合、彼らは真実を話すだろうし、演技に社会集団が持つ特徴的な習慣がないところが素晴らしいと思います」
──3年かけて脚本を仕上げ、90年代の雰囲気を真空パックするかのように再現したわけですけど、役者であるスケーターたちのアドリブも積極的に取り入れていますよね?
「クールだったのは、若い俳優たちが本気になって、リハーサルで真剣に演技をし始めたこと。僕は若い頃を思い出している30代なわけだから、もしこんなセリフは絶対言わないと感じるものがあれば、自分らしく変えていいと伝えていたんです。ほとんどが演技初心者だったにもかかわらず、正直に、リアルに本人たちらしい会話をつくりあげてくれたことに感銘を受けましたね」
──フォースグレードが構想を考えている映画の内容は、演じたスケーターのライダー・マクラフリンが実際考えている話だったとか。
「そうそう。『Strong Baby』ね(笑)。あれはすごくおもしろくて。僕、最近制作会社を始めたんだけど、『Strong Baby』って名前をつけたくらい気に入ってます」
──この映画の初号試写は、Qティップ、フランク・オーシャン、妹であるビーニー・フェルドスタインさんに見せたそうですが、ほかにもあなたにとってのレジェンドからのフィードバックはありましたか?
「SupremeやSpotifyなどと試写会をやったんだけど、たくさんの素晴らしいMCやヒップホップのアイコンたちが集まってくれて、興奮しました。僕に最も大きな影響を与えてくれた人たちがどう思うかが、僕にとっては重要だから。でも、完成してから2年経った今でも驚かされるのは、年配の映画監督たちがこの作品を観てくれたこと。僕らの時代だったりカルチャーで育った人ではない人が理解してくれて、感想をもらえるのはさらにクールなことですよね。この映画から影響を受けてくれた人が一人でも多くいる、という事実ほどうれしいことはないです」
──最後に、映画制作会社「A24」とのコラボレーションはいかがでした?
「最悪。もう二度としない! というのは冗談で(笑)、素晴らしい人たちでした。創立者のダニエル・カッツやデヴィッド・フェンケルをはじめ、働いているスタッフ全員が信じられないくらいクールで賢くて、いい人たちなんですよ。ものすごいセンスを持ったうえで映画製作者をクリエイティブにサポートしてくれる。A24が他の誰よりも安定していい映画をつくれる理由はそこにあると思う。A24が一貫したコンテンツをリリースする上質なブランドとして認知されているのはクールだし、彼らにとってもいいことですよね」
『mid90s ミッドナインティーズ』
監督・脚本/ジョナ・ヒル
出演/サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミスほか
配給/トランスフォーマー
© 2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
9月4日(金)新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイント、グランドシネマサンシャインほか全国ロードショー
http://www.transformer.co.jp/m/mid90s/
Twitter/@mid90s_jp
Instagram/@mid90s_JP
Interview & Text:Tomoko Ogawa Edit:Chiho Inoue