魂の熱演でオスカーを受賞。『ジュディ 虹の彼方に』レネー・ゼルウィガーにインタビュー | Numero TOKYO
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魂の熱演でオスカーを受賞。『ジュディ 虹の彼方に』レネー・ゼルウィガーにインタビュー

ミュージカル映画の大スターとしてハリウッドに永遠の名を遺すジュディ・ガーランド(1922-1969年)の最晩年を描いた2020年3月6日(金)公開の映画『ジュディ 虹の彼方に』で、アカデミー賞主演女優賞に輝いたレネー・ゼルウィガー。素顔は全く別人なのに、特徴的なメイクと独特の姿勢、訛り、そして歌い方、パフォーマンスでの動きなど細部まで晩年のジュディになり切り、映画の肝となる歌唱シーンも一切吹き替えなしで撮影したレネーには、生粋の女優魂を感じずにはいられない。

破天荒な生き方ゆえに幼い子供たちから引き離され、孤独の淵に追いやられながらも芸の世界で輝き続けたスターの人生は切なく、感動的なエンディングの描き方も加わって、スクリーンの前では涙が溢れてきてしまう。『ブリジット・ジョーンズの日記』『シカゴ』で大きな名声を得た大女優ながら、2010年以来ハリウッドから引退に近い形で遠ざかっていただけに、この映画の大成功には驚かされた。脆くて繊細で、哀れを誘うほどピュアなカリスマの素顔を演じ切ったレネーは、見事な「性格女優」というべきだろう。オスカーは、彼女にこそふさわしかった。

──映画でのジュディは47歳ですが、すでに背中は歪み、喋り方も喉が少しつぶれていて独特です。あなたにとっては一種の「老け役」だったと思うのですが、この完璧な役作りはどのようにして準備していったのですか?

「彼女の仕草や喋り方を自分の習慣にしていました。YouTubeでたくさん映像を見たり、彼女について監督を含め色々な人と話したりして作り上げていったんです。演技には選択が必要ですが、彼女がパフォーマンスをするときの言語は何なのか、どんな選択をしたのか考えるんです。色々な本を読んで、彼女の振る舞いのようなものに触れて…悲しいとき、喜んでいるとき、ちょっと酔っぱらっているとき、神経質になっているとき、心が乱れているとき……どんな風だったか全部自分の中に入れて、メンタルな地図みたいなものを作り上げていきました。それを自分の中に入れるので、習慣になり、考えずに済むのです」

──アカデミー賞のスピーチでは「女優のキャリアの中でものすごく有意義な作品で受賞出来て嬉しい」と語られていました。この映画はあなたのキャリアの中でどのような意味を持ちますか? また、『コールド マウンテン』(2003年/アンソニー・ミンゲラ監督)で助演女優賞を獲ったときとどのような違いがありますか?

「前回の受賞とは違った旅、違った道のりを経験しての受賞になります。今回の映画はテルライド映画祭が初披露だったんですけれど、その時から温かい形で観客に受け止めてもらえました。皆さんがジュディの物語に感動して、その反応が自分の演技に寄せられていたのでしょう。オスカーの夜、ステージに立って、そのことを考えて泣けてきました。ステージに立っていなければならないのは、私ではなくジュディだったのかも知れない。ジュディの代わりに自分がいたことに対して涙が出そうになりました。でも、ジュディへの愛ゆえにこの作品が気に入られるのは嬉しいことです。作り手である私たちも彼女を祝福したいという気持ちだったので、彼女のもつ希望や美しさをみんなと分かち合えたことに感動しました」

──映画ではあなたの歌唱シーンが圧倒的でした。吹き替えなしで素晴らしい歌を聴かせてくれましたが、特にラストの2曲は色々な意味で大きな緊張を強いられたのではないかと思います。

「それは……ずっと考えないようにしていました(笑)。ジュディがパフォーマンスをしている部分はまとめて撮影されたのですが、そのスケジュールはひたすら考えないようにしていましたね。準備には1年くらいかけました。2017年にプロデューサーのデヴィッド・リヴィングストーンと会ってから段階的に準備を進めていったのですが、あんな歌い方をしたことはなかったし、初めての経験でした。ヴォーカル・コーチについて一週間に数回レッスンを受け、あとは車中で誰にも聞かれないようにひたすら歌を練習したんです。そういうことを積み上げていくうちに『こういう風に歌うべき、というスタイルに近づいたかな?』と思えるようになりました。それでも、本当に撮影スケジュールがきつかったので、考える暇がなかったんですよね…それがかえってよかったのかも」

──ジュディ・ガーランドの人生を描くにあたって、最晩年を選んだということに関してはどう思われていますか?

「この映画は、彼女がどのようにスターになったかを描いている映画ではないし、彼女の人生についての物語でもありません。彼女の人生の状況がどうしてそうなってしまったのか……その文脈を一瞬で理解させる作品なのです。フラッシュバックのシーンが、それを饒舌に語っていますよね。私は、この映画はジュディの人間的な経験をハイライトにした作品だと思っています。一般の人々からは見えない、公的なイメージの裏側にあった状況を描いているのです。小さな作品だけど、物語は大きい。一人の人物が経験した葛藤に焦点を当てた映画だと思います」

──ジュディは映画の中で、プライバシーがない状況や、仕事に自分が殺されている状況について台詞で語っています。レネーさんご自身も、女優として同じような感覚を持っていたり、その焦燥感を台詞に込めたりしたことはありましたか?

「同じ文脈ではありませんが、彼女が経験している要素の一部分は理解できます。でも、彼女の状況は私よりずっと複雑だったと思います。私には子供がいないけれど、彼女にはいます。彼女はライブで歌わなければならないし、自分の楽器である声を保たなければならない。人生の晩年、疲弊しきった彼女にとってそれらを守ることは大変なことでした。そんな中で歌い続けていた…そういう責任は、私にはなかったのです。プライバシーに関しても、今は時代が違っていて、私生活をシェアしようと思えばインスタグラムでいくらでもできますよね」

──彼女の人生から女優として学んだことは何でしょう? あなた自身は1969年生まれで、ジュディが亡くなったのも同じ年です。何か運命的な縁を感じますか?

「脚本を読んだ時点で、深い共感を得ていました。彼女から学んだことは、“境界線”ということの意味、粘り強さ、勇気、リスクを取ることを喜ばしく感じる勇敢な感覚です。彼女はステージでパフォーマンスをする人物で、私は普段そういう経験をしていないので、彼女の姿を借りてその瞬間を経験できたことが大きかった。ステージで歌っているとき、観客との間に生まれる魔法が経験できたのも、ジュディのおかげです。考えずに実行する、ということも学びました。私とって、“先生”のような存在ですね」

『ジュディ 虹の彼方に』

原作/舞台「End Of The Rainbow」 ピーター・キルター
監督/ルパート・グールド
脚本/トム・エッジ
キャスト/レネー・ゼルウィガー、フィン・ウィットロック、ルーファス・シーウェル、ジェシー・バックリー、マイケル・ガンボン ほか
配給/ギャガ
2020年3月6日(金)より全国公開
gaga.ne.jp/judy

© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019

Photos: Kaori Suzuki Interview & Text: Hisae Odashima Edit: Yukiko Shinto

Profile

レネー・ゼルウィガーRenée Zellweger 1969年4月25日、アメリカ・テキサス州生まれ。舞台やCMなどを経て『バッド・チューニング』(93)で映画デビュー後、『リアリティ・バイツ』(94)、『ザ・エージェント』(96)、『母の眠り』(98)、『ベティ・サイズモア』(00)、『ふたりの男とひとりの女』(00)、『恋は邪魔者』(03)、『シンデレラマン』(05)など次々と話題作に出演する。01年、『ブリジット・ジョーンズの日記』でアカデミー賞®主演女優賞にノミネートされ、その後のシリーズ2作品でも主演し人気を不動のものとする。『シカゴ』(02)では2度目のアカデミー賞®主演女優賞にノミネート、『コールド マウンテン』(03)でアカデミー賞®助演女優賞受賞するなど演技力も高く評価される。2010年以降、俳優業を休業していたが、2016年『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』でスクリーンに復帰。2019年、『ジュディ 虹の彼方に』で第92回アカデミー賞®主演女優賞を受賞。

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