セシリー・バンセン、フェミニンな一着のドレスに込めた想い
ボリュームシルエットにクチュールライクな素材のドレスで知られる、デンマーク・コペンハーゲン発のブランド、セシリー・バンセン(Cecilie Bahnsen)。英国発ECサイト、マッチズファッション(MATCHESFASHION)の展示会のためにデザイナーが来日した。ロマンティックな世界観で多くの女性たちの心を掴んでいる彼女が、ドレスにこだわる理由とは? そのクリエーションの美学に迫るインタビュー。
──「セシリー・バンセンといえば、ふわりとボリューミーなシルエットが特徴的なドレス」。ここ東京でも、モード好きの間ではすでにそんなイメージが定着しています。LVMHプライズのファイナリストにノミネートされたことも影響していることと思いますが、あなたの作る服はすでに多くの女性を虜にしていますね。 「とても光栄です。ブランドを立ち上げたのが2015年で、16年春夏からコレクションを発表して……と4年半やってきたのですが、多くの人にブランドを認知してもらえるようになったのは、2018年のことだと思います。コペンハーゲンファッションウィークがインスタグラムなどを通じてよく知られるようになったことも大きいですね。私のドレスはロマンティックでビッグボリュームなデザインが中心ですが、エアリーで軽く、快適な着心地だということにこだわっています。イージー、ナチュラル、コンフォータブル……大事にしているのはそんなキーワードですね。そこには、着る人が自由に、自分らしくいられるドレスを作りたいという思いがあるんです。ドレス一着一着にも、女性の名前をモデル名として付けています」
──あなたの描くドリーミーな世界観はとても独特ですが、そのルーツはどこからきているのでしょう?
「幼い頃からフェミニンなドレスが好きでした。というのも、私には妹がいるのですが、祖母がよく私たち姉妹にお揃いのドレスを作ってくれたんです。それがドレスをメインにしているという、私のクリエイションのルーツと言えるかもしれませんね。それから、大学を卒業した後にパリやロンドンに渡って、ファッションの経験をさらに積んでいたのですが、その頃に出合ったクチュールの影響も大きいですね。ラッフル、レースのような素材……そういったものの魅力に恋してしまったんです。そうした繊細なエレメンツと、デイタイムのリアル感やミニマリズムが入り混じって生まれたのが、セシリー・バンセンのスタイルなんです。フェミニンだけど甘い世界ではない、ガーリーすぎない、というバランスを常に見つけ出そうとしています」
2019年5月に発表された、MATCHESFASHION限定コレクションより
──デザインもさることながら、素材も凝ったものが目を引きますね。
「そうですね、私はファッションデザイナーですが、ファブリックデザイナーの役割も兼ねていると思います。毎シーズンのコレクションは、素材作りからスタートします。そのシーズンのイメージを表すスペシャルな生地を、オリジナルで作るんです。もともと手を動かして何かを作るのが好きだから、刺繍にジャガード、ビーズワーク、プリント、キルティングなどというように、ひとつのコレクションの中にはさまざまな素材の表情が同居しています。同時に、最新のファブリックメイキングの技術も積極的に取り入れています。素材の美しさを表現するために、あらゆる可能性を探りたいんです。でき上がった生地がアトリエに届いたら、スケッチを描いたりトワルの上で形を作ってみたりと実際の作業を始めます。それぞれの素材がいちばん生きるスタイルやシルエットを探し始めるんです」
──コレクションの多くを占める白という色については?
「私にとって白いドレスというのは、まだ何も描かれていないキャンバスのような存在。白はディテールワークやシルエットの完成度をとてもはっきり映し出すので、いつも好んで最初にデザインするのは白いドレスですね。だけど、ひとえに白と言っても、透け感のある白、ヘビーな質感の白、軽やかな白……というふうに、素材によってとても異なる印象を放つので、そのコントラストも大事にしています」
──近頃はコラボレーションも話題になっていますね。まずはこの春夏シーズンにスペシャルピースを手がけたMATCHESFASHIONのプロジェクト、そしてスイコック(Suicoke)とのコラボレーションにについて教えてください。
「MATCHESFASHIONと出会ったのは、LVMHプライズに選ばれた2017年秋冬コレクションがきっかけでした。彼らはセシリー・バンセンを初めて買いつけてくれたオンラインストアで、ショールームに見に来てくださり、そこから今のような良い関係が生まれたんです。今回のコラボレーションでは、この春夏シーズンのためにカプセルコレクションを手がけ、プレフォールと秋冬にもいくつか限定ピースを展開します。通常のコレクションよりもブルーやグリーン、イエローなどの色を打ち出していて、自分にとっても新鮮なチャレンジだったと思います。スイコックとは、ブランドの代表作として知られているスポーティなサンダルに、ビーズの装飾をあしらった限定モデルを作りました。私が作る服はとてもフェミニンなデザインですが、コーディネートするのはフラットシューズが理想的。そのバランスが気に入っています。だから、こうしたサンダルや、もしくはコンバースのようなスニーカーを合わせた着こなしをおすすめしたいですね」
──あなたのホームベースであるデンマークは、デザインの先進国として知られていますね。ファッションについてはどんな動きがありますか?
「そうですね、デンマークといえば建築や家具が有名です。私がミニマリズムや構築的なシルエットを取り入れているのも、デンマークのデザイン感覚に由来するものだと思います。そういったお国柄だけど、ファッションは今まさに走り出したというところ。デンマークのファッションがどういうものを指すのかが、まだ定義されていない段階なんです。つまり、私もデンマークファッションを表現しているけれど、それはあくまで自分なりのやりかた。コペンハーゲンで服作りをしている私の友人たちは、また別のスタイルを発表していますから。そうやって、人々がさまざまなことにトライしている、とてもクリエイティブな時期にあると感じます。今後どう成長していくのか、みなさんにぜひ注目してほしいですね」
2020年春夏コレクションより Photos: MATHIAS NORDGREN
──あなたにはフェミニンという一貫したテーマがありますが、今後はどのように進化していくのかについても気になります。
「そうですね。この20年春夏は、これまでのフェミニンなスタイルにスーチングの要素をミックスしました。スーツはもともと興味を持っていた分野です。マスキュリンという相反する要素が加わることで、新しい形のフェミニティを描けましたし、シルエットに違った動きやフォルムをもたせることができました。それから、ニットウェアに、アウター。こうした新アイテムを手がけてみたのは、ボリュームシルエットのドレスの上に重ねたときにどういったフォルムを映し出すのかが気になるという興味から。私はいつも新しい表現や手法にトライするのが好きなので、アイデアはいろいろあります。今後も、ベースにある自分らしさやスタイルは守りつつも、毎シーズンクリエイションの領域を広げていけたらと思っています」
Interview & Text: Chiharu Masukawa Edit: Yukiko Shinto