元モデルでフォトグラファーの奇妙な”ホームレス”生活
一流ブランドのランウェイに登場するなどモデルとして活躍し、華やかな生活を送っていたマーク・レイ(Mark Reay)。その後、彼が俳優、写真家の活動をしながらホームレスという生き方を選んだ理由とは?
自らの生活をネタに映画監督に売り込み!?
──自らの経験を、映画を通して世間にさらけ出すことへの抵抗はなかったのでしょうか?
「もともと自分のことをストーリーテラーだと思っていたんだ。友人になにか話して聞かせるとき、手紙で伝えるときなど、ストーリーとして表現することが好きというか得意だったというか。周りからもそうだと言われていた。また、役者でもあり、写真家でもあるので、作品を通して人に何かを伝えるという意識は強いと思う。屋上での生活が始まって数カ月後には『あ! 今体験していることがアーティスティックな表現として、何かいいストーリーになるんじゃないか』って感じていたんだ。テイラー・スウィフトが、付き合ったダメな元カレのことを歌うのにちょっと近いかな。その自らの経験をネタに映画を作ったというのは」
──なるほど。そんな生活を続けていた頃に監督のトーマス・ヴィルテンゾーンと再会したのですね。
「トーマスとは、モデル仲間として若い時にお互い切磋琢磨し合った仲なんだけど、久しぶりにニューヨークで再会して近況を話す中で、『実はね』と自分の生活について打ち明けたんだ。トーマスは映画監督志望だったけれど、これまで長編映画は作ったことがなかった。彼は映像にするストーリーを探していて、そのネタを僕が持っていた。『じゃあやろうか!』ってすぐに話が決まった。映画監督としてはまだ経歴はないけれど、彼を友人として信頼していたから。ただ最初は2週間くらいしかきっと続かないだろうと思っていたのに、結果的に取材は150週も続いたんだ」
──劇中で「緊張」という言葉がよく出てきましたが、常に緊張している状態を逆に楽しんでいたということですか?
「それはあの屋上生活が見つからなかったから言えることでね。ただ、自分の感じていた緊張感とか恐怖は、実際に高い家賃を払うとか、ローンを払わなければいけないというほどのレベルのものではなかったと思う。特に2008年ごろなんて、リーマンショックでね。経済危機の真っ只中で、失業して家賃を払えなくなったら生きていけるのかって不安を抱えている人が本当に多かったから。僕はホームレス生活をオルタナティブなライフスタイルだと思っていたし、経済的な重荷がなく、ある種解放された、そして自分の好きなものを好きに追いかけられる生活を楽しんでいた側面もあった。いわゆる体制だったり、また社会のシステムっていうものに歯向かうというか、一枚上手を行くみたいな、そういうスリル感も少しはあったし」
華々しいファッション業界の魅力
──若いころはモデルとしてのキャリアを積んできた中で、他の職業ではなく、なぜフォトグラファーにキャリアシフトしようと思ったのですか?
「ファッション雑誌を見るだけではなく、実際にファッションビジネスに身を置いていた自分が、写真を始めるまでこんなに時間がかかったことのほうが不思議ではあるんだ。つまりごく自然な流れとして写真の世界に導かれていったんだ」
──リオ・デジャネイロで写真を学んだんですよね。
「当時住んでいたチェルシーのアパートが開発のために立ち退かされ、ヴァカンスも兼ねてリオに行った。写真を始めたころ、あまりにも腕が悪かったので、向上心もあって、写真を勉強しようという思いもあった。そのレッスンを取ったのが2003年。初めて撮った写真を見たときのスリルは今でも忘れないよ。フェルメールの絵画に近いような。まぁフェルメールの作品の美しさの1000分の1くらいではあったんだけれども、それでも忘れがたいものだったんだ」
──ファッション業界に身を置いてきたあなたにとって、この業界の光と闇についてどう感じていますか? 華々しくスポットライトを浴びる人がいる半面、地道な作業に追われる人々がいます。
「これは僕がよく口にすることなんだけれど、僕の選んだ、モデル、フォトグラファー、俳優という3つの職業は、成功するのがほぼ不可能、あるいは成功率が非常に低いものばかり。それでもまだこのキャリアを追いかけたいという情熱をもっているということは否めないんだ」
──写真や演技の世界へのこだわりがあるように、ニューヨークという街にもこだわりがあるのでしょうか。もしかしたら郊外でなら屋上ではない生活が送れたのでは?
「まぁニューヨークに対する僕の愛というのはもちろん否定できない。ニューヨークの街はすごく居心地がよくて、ここに住み続けていたいという気持ちには自信がある。それに自分が学んできた、役者としてそして写真家としての仕事は大都市にいないと成立しないしね」
──では最後にマークさんにとっての成功とは? そして理想の生活とはなんでしょうか?
「まず、充足を感じられるような仕事を通して非常に居心地の良い生活ができること。そして自分にとって重要な女性がそばにいること。屋上での生活を経験している僕には、理想な生活というもののハードルはすごく低いんです。ただ女性に関してのハードルは高いんだよね。常に美しい人々を対象に仕事をするフォトグラファーだからね」
Photos:Mark Reay
Interview &Text:Etsuko Soeda
Edit:Masumi Sasaki
Profile
クラウドファンディングによるマーク・レイ 日本就職活動支援実施中 motion-gallery.net/projects/hommeless