川村元気インタビュー「先に愛した人が、甘い果実を手に入れる」 | Numero TOKYO
Interview / Post

川村元気インタビュー
「先に愛した人が、甘い果実を手に入れる」

映画プロデューサーで作家の川村元気にインタビュー。人々の心を揺さぶる作品を手がけ数々のヒットを生む彼に聞く、現代男女のリアルな恋愛論。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の名は。」「何者」「怒り」と、2016年に限ってもこれだけの大作に携わっている映画プロデューサー川村元気は、物語を紡ぐ作家でもある。今秋、自身3作目となる小説「四月になれば彼女は」を発表した。テーマは「恋愛」。出版業界では恋愛小説が売れないとささやかれているこの時代に、男女の物語を書き上げた理由とは?

──小説「四月になれば彼女は」の中に、「私たちはいつから恋愛することを忘れたのか?」という言葉がありました。恋愛小説が売れていないという事実もある今、なぜラブストーリーを手がけたのでしょうか?

「恋愛する大人が減っていることがミステリーだったんです。僕は小説を2年に1度しか書けないので、書くときは自分が切実に知りたいことを題材にすると決めています。簡単に“したり顔”で語れないテーマというか、探偵のように調べて驚きながら書くことが読者の驚きに直接繋がるだろうと思っているから。僕が恋愛小説を書くと言ったら、出版社の人みんなが『売れない』という反応でした。恋愛という一大ジャンルなのにです。その理由が知りたくて、その後100人への取材をはじめることになるのですが、分かったのは誰も熱烈な恋愛をしていないんだってこと。昔は男と女は恋愛しますというのが前提で、映画『冷静と情熱のあいだ』の世界が成立していた。でもいまは、男と女は全然恋愛できないという前提に変わっているんです。恋愛小説が売れないのは、どれだけ熱烈に恋愛をする男女を描いてもそれはファンタジーだから誰も共感しないというだけ。だったら、恋愛感情を失っていく人たちがどうそれを取り戻していくのか描くことで、現代の恋愛小説にしようと決めました。目の前にいる人との愛が失われていくことを止められないとか、そもそも好きな人ができないみたいな問題はみんな抱えていて、なのにインターネットに答えが出ていない。検索をかけても出てこない答えを探すことが小説にはできると思っているんです」

──恋愛が失われている理由、答えは見つかりましたか?

「まずはみんな、自己愛が強すぎること。そもそも自己愛が強い人が多いし、それを助長するSNSがある。誰かに好きになってもらいたくてやっているSNSなのに、リアルなライクに繋がらない虚無感がありますよね。Facebookの友達が一体何人、自分のお葬式に来てくれるか? という話。小説に出てくる主人公・藤代の婚約者、弥生が『一人でいるときの孤独は耐えられるけど、二人でいるときの孤独は耐えられない』と言う場面があるのですが、まさにそれです。それぞれが自分を好き過ぎるゆえに、みんなでいるのに孤独を感じる。そうすると、自分以外の誰かを愛するところまで余裕が持てない。二つ目は、恋愛が非効率で非合理的なものだから。時間を使うしお金がかかるし、無用な感情に振り回される。大人になるとそれぞれ自立していて世間体もあるからダサいことはしたくない。大人を恋愛から遠ざける理由がこれだけあったら、結構必然的なことなのかなとも思います」

──恋人や夫婦になっても、本当に愛し合っているのか分からないという状況もあります。

「愛という言葉の危うさですよね。例えば恋人同士で『愛』という言葉を挟んで向かい合ったときに、同じように向かい合ったつもりでもそれぞれが思っている愛は違います。感情はものすごく複雑なのに、ひとつの言葉に収容して共有しようとするのには無理がある。だから、恋愛感情が消えたんじゃなくて恋愛っていう言葉が通用しなくなっているんだと気づきました。ラブストーリーという言葉が通用しないんです」

──現代の恋愛は多種多様。小説には4人の女性が出てきますが、性格も恋愛の状況も四者四様で全然違うことがリアル。まるでノンフィクション作品を読んでいるかのようでした。

「特定の人をずっと想い続けている人もいれば、となりにいる彼のことを好きかわからなくなっている人、とにかく自由奔放に男性を愛せる人、はたまた全てを絶ってしまう人と、いろいろいますよね。本を書くときは探偵みたいに調べると言いましたが、この作品を書くために20代から50代まで約100人の男女に取材をしているので、ある種、実録小説という側面もあります。話を聞いていくと女性は多種多様で能動的。いまの状況に満足していない場合、打開策を考えている人が多かったです」

──女性が能動的なのに対して、男性から告白してくれない、なかなか結婚を決断してくれない、セックスレスなのに気にしていない…など、男性が保守的だというのはよく話題になります。主人公の藤代の行動は常に受け身。現代男子たちの象徴に見えました。

「取材をしていても男性は、ことなかれ主義で受動的。がんばるくらいなら今のままでいいか…という思考の人が思ったより多かった。このズレに女性の苛立ちがあると分かったので、主人公の藤代をとことん『何でこいつ何もしないんだろう』って思われる男性像にしたのはわざとです」

──男性が受け身になりやすい世の中なのでしょうか?

「そうなんですよ。取材した結果、男の人のがんばらなさとか、何を考えているか分からないことに女性たちが疲れ果てている印象をすごく受けました。男同士でも結婚を言い出せないとかセックスレスっていう議題は絶えず挙がるのだけど、全く議論を深めない。なぜ人は、欲しがったり失ったりする人をかっこ悪いとバカにするのだろうという憤りはかねてから感じて、それは僕自身に向けられた刃でもありました。ただ、男性の本音を聞いていると、自信がないだけのケースもかなり多い。一緒にいる女の人を幸せにできるのだろうか? この人のことをずっと愛し続けられるのだろうか?と調べたときに、インターネット上に溢れているのは恋愛の悪いシナリオばかりだから、考える能力だけ進化してしまって全く動けないんですよね」

──全く動けなかった藤代が一歩踏み出すシーンが印象的です。川村さんのつくる世界は、小説でも携わっている映画でも、現実を突きつけられた後に光を見せられる感覚がありますが意図的なものですか?

「今回の場合は、きれいごとではなく、取材した女性たちが誰一人諦めていなかったんです。それが事実だとしたら、諦めていない姿を描こうと。本当はこのままじゃだめだと思っているけど大人だから何もできないという男性の本心を描こうと。僕の小説は1作目から一貫して幸福論なんです。人は何をもって幸せだと感じるのか?の追求。今回の作品では、『大人になって恋愛感情をセルフコントロールできるようになり安定した状態』と、『学生時代に誰かを好きになってじたばたしたり無様な姿を晒したりアンコントロールな状態』では、どちらが幸せだっただろう?という二択を読者にゆだねました。これを読んでも、自分は保守派だと思う人はいるだろうし、セルフコントロールしながら波風のない人生を送るのが幸せなのかもしれないけど、僕はどこかで、今の大人たちも誰かのために走ったり泣いたりしたいんじゃないかなって思っているんです。幸せを判断基準にしたときに、みなさんどちらを選びますか?って」

──きっかけがないと踏み出せないのが大人かもしれません。『君の名は。』も、ある意味そのきっかけのような映画でしたね。

「『君の名は。』を見て、僕より年上の男性たちがかなり泣いていたんですけど、好きな人のために走るとか、叫ぶとか、大人になってできなくなってしまったことをあの映画が代替えしたからなんですよね。ティーンエイジャーの子は『いまの僕たち私たち』を投影しているから全然違う見方ですが、大人たちはかつて自分の中にもエモーションがあったと、昔のつぼを押されている気がします。動員数が1500万人を超えましたが、その中に子どもと大人の両方がいることに希望を感じます。火は消えていないんだなと。あとたぶんこれから数年で、インターネットに感情を逃げ込ませていた我々は気持ちの置き場所をオフラインにしていく時代が来ると思っています。だから『君の名は。』のヒットは予言めいているところがある。インターネットに預けてきた人間関係も欲望も飽和状態でみんな飽きてきているから、生身の感情の方が面白いって、そういう反応だと思うんです」

──消えかかった灯火を蘇らせる、というのが川村さんの作り方なんですね。

「最強の物語って、見た人の人生に混ざって定着する物語ですよね。心の奥で思っているけど言えないことが公になると人は反応するから、『それ、誰か言わないかと思っていたんだよね』という石を投げ続けることがヒットの構造だと思っています。今回の小説では『誰も恋愛していないじゃん』という石を投げました。男が何にもしないよねって、言ったらおしまいだと思われていることをあえて描く。そう考えると、男性って『蹴りたい背中』(綿矢りさ作 2003年)に描かれた10代から、何も変わっていないと気づくんです」

──変わらない男性と付き合っていくには、女性は何をしたらいいのでしょうか?

「絶望を前提に置くこと。『世界から猫が消えたなら』では、人が死ぬという究極の状況になったときに、はじめて人生の優先順位が決まるっていう描き方をしたんですが、恋愛の幸福論も同じ気がしています。絶望のどん底までをイメージすると何をするべきか、何を守るべきか見えてくる。みんなが恋愛を求めていないことを前提だと認めるというか。例えば、恋に悩んでいる女性が対男性へ『あなたたちも恋愛したいでしょう』という視線を送っていたらそもそも成立しないし、分かってくれる人がいるとか、結婚しなければいけないとか、前提から違うということに気づくと根本解決に繋がるかもしれない。女性が、誰も恋愛を求めていない世界を認めた瞬間に、火を見るように選んじゃいけない男性って分かるようになると思うんですけどね」

──「なかなか付き合ってくれない」「結婚したいのに彼が煮え切らない」という女性の声をよく耳にしますが、相手が恋愛しようとしていないのであれば気持ちをぶつけても決断してくれないのは当然のこと。そこを見極めて、分かり合えないことを認めたほうが楽なのかもしれないですね。

「この話をするとそれ自体がすごく絶望的に聞こえるかもしれないのですがそうじゃなくて、現実を見たらあとは光しかない。分かり合えない人たちがハグし合おうとするという方が、生きていく上では感動的だと思うんです。恋愛対象を丁寧に探すようにもなりますよ。『飲み会に来てるからあの人は恋愛したいはず』じゃなくて、恋愛したい人ゼロの日があるのが当たり前だと思うと目を凝らす。でも一方で、女性ってどこか男の人の空白を埋めてあげたいっていう不思議な気持ちがあったりするから、藤代みたいな多くを語らない男の人って僕のまわりでもとてもモテていたりするんです。この人何考えているんだろうな? 何かを求めているけど何も見つからないんだろうな… じゃあ私が!みたいな。そこには行くな地獄だぞ!ってことには、気づいた方がいいかもしれませんね(笑)」

──ヒロインを写真家にしたのには何か想いがあったのですか?

「そこは小説を書いていて一番面白いと感じた部分でした。何となく写真で何となくフィルムカメラだったんです。書きはじめはその理由が僕には分からなかったのですが、書いている途中に適当に組んでいくパズルがちゃんと正方形にはまるみたいな瞬間がありました。写真って恋愛なんです。恋愛は記憶の中にしかないから。自分が今どんな恋愛感情かということがリアルタイムでは分からないのってフィルムカメラに似ていて、撮った瞬間は何が写っているか分からないけど後になって現像して見たときに『あ、こういう顔していたんだ』『自分ってこういう気持ちだったんだ』と分かってくるのが恋愛だと思うんです。だから、女性写真家にもたくさん話を聞きました」

──取材して見えてくることって、日常でもあるかもしれませんね。

「そう。だから、恋愛したい大人は取材した方がいいですよ。この小説自体、自分がこうだろうって勝手に決め付けていたり、甘くみていたことがぶっこわされ続けてきた僕の体験をそのまま書いたようなもので、自分の頭で考えていることって前提から違うことだらけ。ただ言い切れるとしたら、一番甘くていい果実を手に入れているのは『先に愛する』というのをやっている人です。今回書いたフレーズで、男の人から一番刺さったって言われたのが『私たちは愛することをさぼった』で、女性からは『私は愛したときにはじめて愛された』というセリフ。先に愛することの難しさは男女共通みたいです。愛されるのを待ってリターンエースを打とうというのは、虫がよすぎるのかもしれない。はたまた、『愛を失わない方法はひとつしかない。手に入れないことだ』というフレーズが刺さったという人もいるから、考え方は本当に多様ですけどね」

──『四月になれば彼女は』のどのフレーズにマーカーを引くかで、自分の本質的な恋愛観を知ることができますね。そして、みんながどこにマーカーを引くのか気になります。

「僕はタスクくんに共感しますね。女性のストッキングの伝線は絶対指摘しないですから(笑)。読んでくれたらその意味が、きっと分かると思います」

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Photos:Shuichi Yamakawa
Interview:Sayumi Gunji
Text:Yukiko Shinmura

Profile

川村元気(Genki Kawamura)映画プロデューサー、作家。1979年横浜生まれ。『電車男』『デトロイト・メタル・シティ』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2012年ルイ・ヴィトン・プレゼンツのCGムービー『LOUIS VUITTON -BEYOND-』のクリエーティブ・ディレクター、同年に初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。2014年小説第2作『億男』で2作連続の本屋大賞ノミネート。小説3作目『四月になれば彼女は』が発売中。

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