YOSHI、菅田将暉、仲野太賀が対談「僕らのアイデンティティ」
大森立嗣監督作の映画『タロウのバカ』で、刹那的に生きる3人の少年を演じたのは、演技未経験、16歳のモデルのYOSHI、そして、26歳の菅田将暉と仲野太賀。ジャンルを飛び越えて表現する彼らのアイデンティティとは?(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2019年9月号より抜粋)
10歳違いの奇才との出会い。
菅田将暉(以下:S)「YOSHIに最初に会ったときは、圧倒的なニュー・ジェネレーション感があった」
仲野太賀(以下:N)「うん。こんな人見たことない、何なんだと」
YOSHI(以下:Y)「びっくりしてたよね」
N「想像の遥か上をいってた」
S「情報がたくさんある中で育っているから選択できるし、何もないからこそ自分で作らなきゃという前時代の熱量も持ちつつ、突き進んでいける新人類って気がした。でも、きっと僕らと同時代に生まれていても、YOSHIはこうなんだろうね」
N「うん、明らかに他の同世代とは違う領域にYOSHIはいて、だからこそ、彼が感じていることと僕たちが16歳で感じていたことはたぶん違うけれど、今ここで巡り会えているのは、いい縁だったなと思う」
Y「僕はぶっちゃけ、上下関係は苦手で。だから、撮影前から、とにかく二人と早く遊びに行きたくて。衣装合わせの後に、『どうしても泊まりに行きたい!』って」
S「大変だったよ。急遽、親御さんに連絡してね」
Y「超真面目だなと思った」
S「そりゃそうだよ。世の中の大人がやるべきことだよ。それに、ある種、責任感みたいなものがあったんだよね。YOSHIという人のエンターテインメントは、どうしたってこの映画から始まっちゃうから。それがいい出会いであるべきだし、僕らもどう何を伝えたらいいのかはけっこう話し合ったよね」
Y「そうだったんだ」
N「まず、映画を嫌いになってほしくなかったし、お芝居を嫌いになってほしくなかった。僕らの世界のしきたりや空気感が一概に正解とは言い切れないし、それが変な刺激を与えてしまわないかとかは考えた」
S「こちらのルールを教えることは簡単だけど、それで狭まっちゃうのも怖いし、教えなさすぎても絶対にぶつかっちゃうし。そこでいなくなっちゃう子もいっぱいいるから。自由に楽しめる道を探そうと」
N「YOSHIの人生において、何かしらいい瞬間になればいいなって」
S「だから、寂しいアピールの度が過ぎたら、ちゃんと怒ってたし」
Y「言われればちゃんと学ぶんです、僕。けっこう変わったよ」
N「今回に関しては、将暉にめちゃくちゃ感謝で。僕は早めにYOSHIに対してNG出してて(笑)。玄関には入れるけど、上がらせはしないみたいな。そうすると、方向転換して将暉ん家に行くんですよ。将暉はバーンって開けても、『とりあえず入れ』と上がらせてくれるから」
S「単純に、環境から来る慣れだよ。僕は長男だから」
Y「将暉、泣くシーンの撮影のときのこと覚えてる?」
S「うん。いつもは叫んでるのに、柄にもなく緊張してて。涙を流すってシーンはさ、やっぱり俳優にとって気合のいる作業だから」
Y「僕、本番にはけっこう強いんだけど、あの日だけは唯一どうすればいいのか本当にわからなくて」
S「でも、何回も何回も戦って、乗り越えていくのを見てるだけで、僕は涙があふれてきちゃって」
Y「めっちゃ泣いてたよね」
S「『クララが立った!』だよ。あと衝撃を受けたのは、初めて二人で遊んだとき、もうすぐ家ってところで『腹減った!』って言うから、出前を取ることになって『何食いたいの?』と聞いたら、『生ハム!』って。出たー!って」
Y「探したんだけど、なかなかないんだよね、生ハムが」
S「そりゃそうだよ! でも、むちゃくちゃなように見えても、今の時代は、UberEatsで生ハムを届けられるわけ。その感覚が時代にフィットしているんだなって。そのときに、YOSHIを強く感じたよ(笑)」
Y「いろいろ、面白かったよね」
S「でも、好きなものに関する管理能力はすごいと思った。僕は洋服好きだけど散らかしちゃう。でもYOSHIん家は、整理整頓されてて、すっごくきれいなの」
Y「きれい好きなんですよ」
N「そこはギャップだよね」
S「お母さんがちゃんと躾けたんだって。きちんとされているご両親だから、YOSHIは突然変異なんだなと」
枠組みにとらわれない自由さ。
Y「僕、表面はけっこう頭おかしいけど、裏面は、真面目っちゃ真面目なの。例えば、今は、俳優、アート、音楽、ファッション、デザインをやってて、ジャンルを絞ることはないけど、くくるとすればアーティストなんだよね。一つ一つのことはちゃんとやるし」
S「決められた枠組みに本能的にアレルギー反応を起こして、自由に生きていたい人だよね。僕もそもそも、カテゴライズする意味やその必要性も、よくわからない。単純に、いろんなことをやりたいというのがあって。もちろんやってみて失敗することや、環境に身を置いてわかることもいっぱいあるけど、やってもいないのに自分はこの分野じゃないと決めつけるのも違うなと。今のアー写、撮影してるの太賀だし」
N「あれはちょっとグッとくる依頼だった。たぶん一番最初に表に出たのも、将暉の写真で。いろんなことをやるときにいつも勇気づけてくれるのは、将暉だったりする。その頃、ミュージシャンとか異業種の人がポンッと俳優をやったときに、自分たちにはないものを表現しているのが、すごく魅力的に映って悔しい、という話はよくしてたよね」
S「何百回としゃべった」
N「彼らと何が違うんだろうとか、自分が積み上げてきたものが正しかったのかとか。だったら、逆に自分もいろいろやってみてもいいのかなという話は若い頃にしてて」
S「当時の僕からすれば、太賀の写真はセンセーショナルで、『こんなレベルのものを撮れるのに、何で表に出さないの?』って。みんなに教えたい!って思ってたから」
何者かになる必要なんてない。
N「10代の頃は、確かに何者かになりたかったし、なれると思っていたけど、違う山を登ってもしょうがないんだよね。自分には自分の登るべき山があって、年を重ねてハンドルの握り方も少しずつわかってきて。ゴールの設定はしていないし、とにかくいい風が吹いているところにハンドルを切ってみる。アクセルを踏むときもあれば、休憩するときもあるけど、そうやって行き着いた先で誰かに決めてもらえばいいと思う、自分が何者かってことは」
S「うん。どんなビッグスターに憧れたとて、本当の意味でその人のことを知ることはできないし、いまだに俳優ってどんな仕事かを言葉にするのは難しかったりする。だから、結果論でしかない気がする。YOSHI、最後にいいこと言って」
Y「僕は何者かになりたいというより、最終的に世界一有名になって、お金持ちになりたいんですよ。それこそ今までアジア人が行けなかったところまで、僕は行きたい」
S「お母さんも聞いてたもんね。『あんた、学校どうするの?』って。そしたら、『俺、8億円稼ぐ!』って。『ありがとね~。楽させてね~』って、お母さんは優しかった」
Y「毎回スルーされてるから(笑)」
S「すごくいいコントだったよ」
YOSHI(よし)
2003年生まれ。香港人の父、日本人の母を持つ。ブランドのモデルやショーへ多数出演。アクリル絵の具や油絵の具を使い、創作活動も行う。初の配信アルバム『SEX IS LIFE』をリリース。300人以上の候補者の中から、映画『タロウのバカ』の主役に抜擢。
菅田将暉(Masaki Suda)
1993年、大阪府出身。映画『共喰い』(13)で注目を浴び、『あゝ、荒野』(17)で第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞。ミュージシャンとしては、2ndアルバム『LOVE』を引っさげ、「菅田将暉 LIVE TOUR 2019“ LOVE”」ツアーを開催。
仲野太賀(Taiga Nakano)
1993年、東京都出身。2006年に俳優デビュー。『淵に立つ』(16)で第38回ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞受賞。NHKで放送中の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」に出演。『LOVE』のジャケット写真を撮影するなど、写真家としても活躍中。
Photos : Chikashi Suzuki Styling : Shogo Ito(Masaki Suda), Koji Oyamada(Taiga Nakano) Hair&Makeup : Emiy(Masaki Suda), Masaki Takahasi(Taiga Nakano) Text : Tomoko Ogawa Edit : Yuko Aoki