DaughterのボーカリストがEx:Re名義で歌う“元カレについて”
ロンドンを拠点とするバンド、ドーター(Daughter)の紅一点メンバーであるエレナ・トンラ(Elena Tonra)による、「Regarding Ex(元カレについて)」から名付けられたソロプロジェクト「エクス:レイ(Ex:Re)」が始動。2019年1月に発表した同名アルバム『エクス:レイ(Ex:Re)』リリースに先立ち、4ADプレゼンツ・ライブ公演のため来日した彼女にインタビュー。
ロンドンを拠点とするバンド、ドーター(Daughter)のギタリスト、ヴォーカリスト兼リリシストであるエレナ・トンラ(Elena Tonra)によるソロプロジェクト、エクス:レイ(Ex:Re)。「Regarding Ex(元カレについて)」から名付けられたこのプロジェクトは、恋人との関係が終わった後の時間を綴った、極めてパーソナルかつテーマ性の強いアルバム『エクス:レイ(Ex:Re)』を生み出すためのもの。2019年1月、リリースに先立ち、4AD Presents『DEERHUNTER / GANG GANG DANCE/ Ex:Re』公演のため来日したエレナに話を聞いた。
──ドーターの結成から8年以上になり、アルバムも3枚リリースしています。ソロ活動については以前から考えていたのですか?
「実はドーターの前にもソロで音楽をやっていたんけど、なんだかしっくりこなくてバンドをやりたくなった、という経緯があるの。実際、バンドでの活動を楽しんできたから、あまり考えたことはないかも。でも、『Ex:Re』に関してはひとりじゃないと表現できない内容だったから、こういう形でしか発表しえなかったというか」
──バンドにはそれぞれの役割やスペースがあると思いますが、改めてソロ作に向き合う上で何かチャレンジはありましたか?
「エクス:レイというプロジェクトは、私の人生のパーソナルな物語を伝えるためのものなので、船の舵取りというか、全てを自分でコントロールする必要があった。その点はやはりバンド活動とは違うところね。それから、幸運にも制作の後半にはファビアン(・プリン/4ADの社内エンジニア兼プロデューサー)と組むことができたけれど、デモのレコーディングもひとりでやらなければいけないし。制作中に他のメンバーの反応が得られないのは不安だったわ」
──そんな時にはどうしていたのですか?
「今作で大事にしたのは、自分の感情を正しく伝えられているか、表現できているかどうかということ。サウンド面については、ファビアンと相談しながら進めたの」
──2017年の秋にドーターの3rdアルバム『Not to Disappear』とゲームのサントラをリリースしているので、今作の制作期間はなかなかタイトだったのではないでしょうか。
「曲を書き始めたのは2017年の初めだったかしら。でも当時はサントラに集中したかったので、ひと通り作業を終えてから本格的に取り掛かったの。そういう意味で、サントラのムードも影響しているかもしれない」
──ひとりじゃないと作れない作品を、ご自身の名前でなくエクス:レイ名義としたのは?
「本名で発表するというアイデアもあったけれど、特定の人物、そしてその人と過ごした時間は私という人間のすべてではない、と感じて。“Regarding Ex”についてのアルバムだからこの名前、というわけ。それからエクス・レイの“Re”の部分は、メールの返信タイトルにつく“Re:”も意識しているの。メールやテキストは現代のコミュニケーションツールであり、頻繁にやりとりをしていたのに今はもうコンタクトがなくなってしまった、そういう存在も表しているわ」
──「Crushing」の歌詞にも、“It’s a lesson in humans using machines to show their feelings”という一説がありましたが、今や当たり前のこのツールに、何か思うところがあるのでしょうか?
「そうね。私自身、ダイレクトなコミュニケーションが好きだからなのか、メールやSNSの返信や反応が遅いほうで、やりとりからうっかり離脱してしまうこともあって。テキストからは声や感情が見えにくいから、難しいところもあると思う。最近はデートアプリもあるわよね?都会ではなかなか出会いのチャンスもないと言われたりもするから、他の人が使うことには意見はしないけど、私は無理だと思う(笑)!」
──歌詞には悲しみ、葛藤や怒りを表現した強い言葉があり、テーマもテーマですし、今作にはかなり産みの苦しみがあったのではと思います。制作期間はどんな日々を過ごしていたのですか?
「ひとりで曲を書いていた前半は、毎日スタジオに通っていたんだけど、自分の感情を外に出したいという一種の中毒のような状態だった。それからある意味、スタジオに隠れていたと言ってもいいかもしれない。結果的に作り出したものはポジティヴなものだと思うものの、自分の状況は全く違っていた。一方、私が書いたデモと歌詞を持ち込み、ファビアンと作業を始めた後半はすごくスムーズに進んで、数ヶ月でアルバムが完成したわ」
──1枚のアルバムとして発表しようと思うほどに、その恋愛あるいは別離はあなたにとって特別だったということですか?
「そう思うわ。彼みたいな人はなかなかいないと思う。たとえ関係性が長くは続かないものだとしても、出会ったことにすごく衝撃を受けて、運命の人なのかな、と思っていたし。彼がいない、という現実がすごく辛かった」
──その体験はあなたを変えましたか?
「別れることになった時は実はツアー中で、パフォーマンスに影響を与えたくなかったから気持ちをぐっと抑えつけていたの。そんな日々が数ヶ月続いたけれど、制作に打ち込める環境になって、やっと悲しみや怒りを解放することができた。だから当時の私の気持ちは全部アルバムに入っていると思う」
──生の感情が詰め込まれているとはいえ、このアルバムは辛い別れを乗り越えていることも感じさせます。ミュージシャンとして、次にやってみたいことは?
「ドーターではゲームのサントラを手がけたけれど、今度、映像に合わせた音楽も作ってみたい。エクス:レイで自分の記憶や意識の流れを音で再現したことで、イメージと音楽の関係性に興味が出てきたの。それから音楽に限らず、詩や文章など言葉での表現もチャレンジしてみたい」
──今作はテーマ性の強いアルバムとなりましたが、今後、エクス:レイあるいはソロプロジェクトとしての活動は考えていますか?
「別れのアルバムを作るのはもうたくさん(笑)!だからエクス:レイは終わりにしたいけれど、今回一緒に仕事をしたファビアンとジョセフィーヌ(・スティーヴンソン、作曲家)とはまた機会があれば何かできたら、と思うわ。それにパーソナルなアルバムを作ること自体はすごく面白い経験だったので、別れがテーマではないとしても、もしかしたら何かまた作るかもしれない。とはいえ、ドーターの3人での曲作りはとてもスペシャルなものなのでで、これからもバンドは続けていきたいと思ってる」
──最後に、今日も黒い服がよくお似合いですが、ステージでも黒い衣裳を身につけている姿をよく目にします。黒にとって黒い服とはどんな存在?
「ええ、黒は好き。喪に服しているみたいなイメージもあるかもしれないけど、昔から、着ていると落ち着くの。でも歳を重ねるにつれ、少しずつ色も楽しむようになってきたわ。今日のアウターがネイビーで、説得力がないかもしれないけどね(笑)」
Ex:Re『Ex:Re』
¥2,400(Beat Records/4AD)
シンフォニックなメロディが導く切迫感とカタルシス
英国バンド、ドーターのフロントウーマン、エレナ・トンラによるソロデビューアルバム。恋人との別離をテーマに、生の感情をさらけ出したパーソナルな作品でありながら、透明感のある乾いたボーカルに、ギター、ピアノやチェロのオーガニックなメロディが美しく響き合う。
エクス:レイが選ぶお気に入りミュージック
Rosalia『El Mal Querer』
「スペインのシンガーソングライターのアルバムでとても美しかった。彼女の声が素晴らしいし、プロダクションも興味深いの。エレクトロニカとフラメンコを融合した感じで、聞いたことのない新しい音楽だと思う」
Nils Frahm『All Melody』
「先日、ロンドンのバービカンでこのアルバムを再現したライヴを観たの。シンセやピアノをレイヤーで重ねていくクリエイティブなライヴで、アルバムもオーケストラにヴォーカルやエレクトロニクスとミックスしていて、すごくよかった」
Sister Sledge『We Are Family』
「友人のイベントでDJをすることもあるんだけど、そういう時は踊れる曲をかけるのが好き。このアルバムには彼女たちのヒット曲が詰まっていて、どんな気分の時でも、聞いたらきっとハッピーになれると思うの」
「ヌメロ・トウキョウ」おすすめミュージックリスト
Photos:Gen Saito Interview&Text:Minami Mihama Edit:Masumi Sasaki