二階堂ふみ×GACKT「魅惑の別世界『翔んで埼玉』ができるまで」 | Numero TOKYO
Interview / Post

二階堂ふみ×GACKT「魅惑の別世界『翔んで埼玉』ができるまで」

漫画家・魔夜峰央の伝説的作品『翔んで埼玉』がまさかの実写映画化。初の男性役に挑んだ二階堂ふみと、作者直々のオファーを受けたGACKT。美しき二人が案内するのはこの世の常識を飛び越えた異次元の世界。本誌未掲載分を含む拡大版インタビューをお届け。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2019年3月号掲載)

──最初に伝説的作品『翔んで埼玉』で共演すると聞いていかがでしたか?

二階堂ふみ(以下二階堂)「まず、こんなにナイスなキャスティングがあるのだろうかと驚きましたし、麻実麗役をGACKTさんが演じることで、この作品の説得力が一気に増すだろうと思いました」

GACKT「ボクは魔夜峰央先生の原作を読んでいたから、ふみちゃんが壇ノ浦百美役と聞いて『そう来たんだ』と。原作では百美は男性だけど、女性に変更するのかと思っていたら、ふみちゃんが原作のまま男性を演じると聞いて、それは面白いだろうなと思った」

二階堂「魔夜先生の作品はギャグでコメディですが、少しゾクッとするほど美しい世界が描かれています。そのためには百美は男性のままがいいのではないかと思いました。でも、私は女性の役しかやったことがなかったので不安でした」

GACKT「それが普通だから(笑)。ボクなんか高校生役だよ。最初にオファーをもらったとき、高校生役はさすがに無理があるから断ろうと思ったんだ。でも『そもそもブッ翔んだ作品なので』と言われたし、それに魔夜先生が直々に指名してくださるなんて光栄なことだから」

──今回が初共演ですか?

GACKT「直接ではないけど ドラマ『テンペスト』でも一緒だったし、『ぐるぐるナインティナイン』でも共演した。今でもはっきり覚えているんだけど、ふみちゃんは飛行機の座席 が好きで、どんな機種のシートも全部わかると言っていて。ボクも飛行機が好きでいろいろと航空会社を変えて乗っているけど、そんなマニアックな人がいるんだと感動した」

二階堂「番組ではシートを見て航空会社を当てるクイズがあり、全問正解したのですが、GACKTさんが素晴らしいと拍手して褒めてくださいました。GACKTさんはミステリアスで高貴というイメージがありましたが、お話しすると優しくて、いろんなことを教えてくださって。そのギャップも素敵でした」

GACKT「今回の現場ではいろいろ深い話までした。ふみちゃんは興味深い人だから」

二階堂「ありがとうございます」

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近くても、心の距離が遠い埼玉

──ところで、これまで埼玉にはどんな印象を持っていましたか?

GACKT「20歳の頃に上京して初めて住んだのが池袋だったんだ。当時のバンドメンバーも全員池袋だったんだけど、当時、知り合いにそれを話したら『池袋? あんなところに住んでるの? ほぼ埼玉じゃん』と言われてなんだかよくわからなくて。『ほぼ埼玉』がどのくらいの意味を持つのか。ふみちゃんが上京したのはいつ?」

二階堂「12歳で仕事を始めて、15歳で本格的に上京しました」

GACKT「最初に住んだのは?」

二階堂「港区です」

GACKT「レベルが違うな!」

二階堂「東京の中心という実感はありませんでしたけど、東京タワーがいつも見えていたから、ここは東京なんだなと思っていたくらいです」

GACKT「ボクなんか、最初『西に東武、東に西武、これが池袋の七不思議』と聞いて、池袋ってすごい!と感動してたよ」

二階堂「私の父が東京の町田市出身なんです。板橋に親戚もいて、私自身、小さい頃は府中で暮らしていました。でも埼玉については漠然としていて。『さいたまスーパーアリーナ』があって、夏にロケをするとめちゃくちゃ暑い場所という印象だけでした」

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GACKT「町田や府中についての百美のセリフもあったね」

二階堂「あれはすごく心苦しくて。GACKTさんが埼玉に足を踏み入れたのはいつ頃でしたか?」

GACKT「ボクがソロになってすぐ、一緒に曲のアレンジをしていたメンバーが埼玉に住んでいて、初めて埼玉に行ったんだ。池袋から近いけど、心の距離は遠くて、それがボクの初埼玉。メンバーの家は埼玉でも田舎のほうで、家にパイプオルガンがあったんだ。曲のアレンジが終わって、食事に出かけたんだけど、埼玉なのに意外と雰囲気のいい店で。その店のトイレはドアがスライド式で自動開閉するシステムだったんだ。今なら普通だけど、当時はまだ東京のどの店も導入していなかったから『え? いま勝手に閉まった!』と驚いて振り向くと、トイレの蓋がフワーッと開いて。『ヤバイ!ここ何か憑いているのか』と驚いた」

二階堂「心霊現象のような?」

GACKT「そう(笑)。今なら普通なんだけど初めて見たから。あとで自動だと気づいて「埼玉ってボクが思っているよりもはるかに進んだ街なんだ!」と衝撃を受けた。トイレの自動水洗システムも初めて見たのは埼玉だったから、意外にも最新のものがあるという印象だった」

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間違えてはいけない埼玉千葉、茨城、栃木

 
二階堂「私は小さい頃から『クレヨンしんちゃん』が好きで、春日部は名前だけ知っていました。でも、よく埼玉と千葉を間違えてしまって、千葉出身の友達に『埼玉出身だよね』と言って、怒られることがよくあります」

GACKT「埼玉千葉神奈川は間違えちゃいけないポイント。ボクもよく茨城と栃木を間違えて、ファンに怒られるよ。ほぼ一緒に見えるんだけど」
 
──茨城と栃木は全然違います! 人口密度は茨城の方が高いんです!(※ライターは茨城県出身)
 
二階堂「栃木も茨城も、実際に行けば違いがわかりますよね。栃木には別荘地があるし、茨城には海があるし…」

GACKT「そ、そうだね。まったく別…。北関東でいうと、今回、群馬の描写が面白かった」

二階堂「あのシーンは、栃木や静岡でも撮ったんです。作品全体で見ても埼玉ロケは少なかったみたいですね」

違う星の貴族が県の誇りをかけて

GACKT「今回ロケが多くて、しかも毎回ロケ地が変わって、撮影は連日深夜まで。でも始まるのは早朝だから、ふみちゃんが体を壊さないか心配だった」

二階堂「ありがとうございます。私はGACKTさんとは違うシーンで撮影終了だったんですが、完成試写を観て、こんな大変なことが起こっていたんだと驚きました。台本で話の流れはわかっていても、まさかあんなことになっているとは」

GACKT「ボクは最初に撮ったシーンを観て、絶対にこの映画は面白くなると確信したよ。生徒会室のすさまじく豪華なセットにふみちゃんが衣装で 現れたとき、もう笑いが込み上げてきて。ボクは漫画好きでもあるから、漫画を実写化してそれが中途半端に終わるのは絶対に嫌だと思っていたんだ。でもそれは杞憂だった」

二階堂「武内(英樹)監督は『真面目に演じれば演じるほど映画は面白くなる』とおっしゃっていたので、私たちは変に小細工せずに真っすぐやるだけでしたね」

GACKT「そう。監督は『笑いを狙うと冷めるので、演じる側は真面目にやってください。それで観客がクスッと笑う映画にしたい』と」

二階堂「一回だけ、笑いが堪えきれずカメラのフレームから外れた瞬間に崩れ落ちたことがあったんですよ。クライマックスのGACKTさんのシーンなんですけど」

GACKT「そうだったんだ(笑)」

二階堂「皆さん、すさまじくて、百美が一番まともな役だと思いました(笑)」

GACKT「ボクも同じように思ってた、ボクが一番まともだって(笑)。やっぱり現場に京本(政樹)さんが現れたときは衝撃が走った」

二階堂「京本さんはすごかったです」

GACKT「京本さんの台詞に『小型春日部蚊が媒介する埼玉特有の熱病、サイタマラリア。放置すると死に至ることもある』というのがあるんだけど、京本さんが途中で嚙んでしまって『台詞が長いんだよ! それに小型春日部蚊ってなんだよ!』とブツブツ怒り始めるわけ。それがおかしくて。でも笑うわけにはいかないから 苦しかった。

二階堂「その分、熱の入ったシーンになっておりました。GACKTさん、京本さんという伝説の人物のような方々が、麻実麗やデュークを演じると現実味がどんどん薄くなり、ファンタジーの世界でした。お二人が揃うと本当に美しくて。伊勢谷さんとお二人のシーンも素晴らしかったです」

GACKT「伊勢谷くんとの絡みでは、ボクが監督に提案したシーンがあるんだ。魔夜先生のファンとして、先生の世界観なら絶対にこのシーンは入れたほうがいいだろうと思って。映画を観た人には、それがどこか予想してほしい」

二階堂「あのシーンは、本当に本当に素晴らしかったです! 最高でした!(拍手)」

GACKT「それならよかった(笑)。それにしても今回、ボクは京本さんに終始、圧倒されっぱなしだった」

二階堂「こんなにも違う星の高貴な方々が集まることは珍しいと思います。GACKTさんもそうですが、皆さん少し地上から浮いているというか。本当に同じ人間なのだろうかと思ってしまいました(笑)」

GACKT「そんなことない(笑)」

二階堂「百美の母親役の武田久美子さんにもそれを感じました」

GACKT「久美子さんはふわっと宙に浮いてるみたいで、すごく不思議な人だなとボクも思った」

二階堂「でもやっぱり、武内監督が一番おかしかったです(笑)」

GACKT「監督はモニターを見て、一人でゲラゲラ笑うんだ。ボクはそんなに面白いことしてないのに。最初はその笑い声に振り回されたよ」

二階堂「監督一人だけが現場で笑っているので、なんだか異様でした(笑)。しかも、モニターを見ずにOKを出すこともあって『こういうときは大体OKだとわかるから』と言っていました」

GACKT「監督はクリエイティブな人だから、最初から映画の全体図が見えていたんだろう。こういう映画はしっかりしたヴィジョンがないとバランスが取れないから。一つ一つのシーンに武内監督のこだわりが詰まった作品になったと思う」

作品が二人の今後に与える影響

──二人のキャリアにとって、本作はどのような位置付けでしょうか?

二階堂「キャリアという小難しいことではなく、観ていただいた方に『埼玉はいい場所だな』と思っていただけたらうれしいです。武内監督のこだわりも含め、邦画のいい部分もあり、洋画のような現実にはあり得ないことを力技で成立させてしまうところもあって、すごく面白い作品になりました。この作品に携わらせていただいたことには感謝しかありません」

GACKT「この世界観を実写化するのに、ボクには荷が重いんじゃないかといろいろ悩んだんだけど、結果的にこのキャスティングは正解だったと思う。それに、あらためて日本映画の底力を感じたよ。そういう意味でも、この作品は漫画原作の実写化映画の中でもトップ5に入る」

──今後、埼玉に行くことになったら、特別な気持ちになりそうですね」

二階堂「この前、埼玉に行ったんですが、それが意外と普通でした」

GACKT「そう(笑)。埼玉に対する感情は何も変わらない。今までも、これからも」

『翔んで埼玉』

東京屈指の名門校・白鵬堂学院を舞台に、生徒会長・壇ノ浦百美(二階堂ふみ)と、アメリカ帰りの転校生・麻実麗(GACKT)の出会いから生まれる伝説の物語と、それがラジオで流れる現代パートで展開される。漫画家・魔夜峰央による“埼玉県をディスりまくっている”と話題になった80年代の作品が原作。

監督/武内英樹
出演/二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介、京本政樹
原作/『このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉』魔夜峰央(宝島社)
URL/www.tondesaitama.com/
2019年2月22日(金)より全国公開

©2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

Photos: Takaki_Kumada Styling: Eri Takayama(Fumi Nikaido), Rockey(GACKT) Hair&Makeup:Mariko Adachi(Fumi Nikaido), Kohta Tanabe(GACKT) Cooperation: Props Now Interview&Text: Miho Matsuda Edit:Sayaka Ito

Profile

二階堂ふみ(Fumi Nikaido)1994年生まれ、沖縄県出身。2009年に映画『ガマの油』でスクリーンデビュー。代表作に映画『ヒミズ』『私の男』『SCOOP!』『リバーズ・エッジ』など。ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞ほか受賞多数。19年は『翔んで埼玉』のほか『ばるぼら』などが公開予定。
GACKT(ガクト) バンド活動を経て、1999年にソロ活動始動。自らを“表現者”と称し、ミュージシャンという枠にとらわれない多才ぶりを発揮する個性派アーティスト。NHK大河ドラマ『風林火山』などに出演し、俳優としても活躍。「GACKT's -45th Birthday Concert- LAST SONGS」Blu-ray & DVDが発売中。

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