モデル仁香、16歳年下の彼と幸せをつかむまで
2018年7月にテレビ番組で16歳年下の彼からプロポーズを受け、10月9日に晴れて入籍をしたモデルの仁香が、彼と息子とともにメディア初登場。家族3人で歩み始めた新しい幸せのカタチを語ってくれた。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年11月掲載)
26歳の彼からテレビ番組にて、公開プロポーズを受けたモデルの仁香。彼女は現在43歳、1児の母。16歳の年の差カップルの誕生は世間から注目を集めた。彼との交際を公にした後、同じ葛藤に直面する女性たちからたくさんの声が届いたという。そのメッセージは賛否両論――いま彼女は勇気を持って戸惑いや苦渋、またその反面にある大きな幸福感など、自身の体験を自然体で語る。同様の苦悶を抱える女性たちに、“幸せでいるための選択肢”があることに気づいてほしいと。「こうして、今の二人の日々を伝えることで誰かの背中を押せるんだとしたら、やるべきことなんだと思います。平成も終わって新しい時代になるわけだし、もういいんじゃない?って(笑)」 社会のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を踏み越えて、自分らしく生きられる、本当の幸せに気がついた仁香が、彼と息子とともに揃って初めてメディアに登場してくれた。
はじまりは“絶対にありえない”
2018年7月、43回目の誕生日を迎えた仁香。この1年間を振り返ることは、彼女でさえ想定し得なかった現在につながる。それはインタビュー中の今も隣に寄り添う男性の存在、柴田翔平さん。彼こそ彼女の16歳年下のパートナーであり、テレビでの公開プロポーズも記憶に新しい。
「私はいわゆる普通でいるほうが居心地がいいし、家庭環境だったり、今まで自分が歩いてきた道のりにしてもすごく保守的だったと思います。当然16歳年下の男性とお付き合いすることになるなんて、人生のプランにはまったくなかった。ずっとファンでいてくれた彼に対しても、年の差のインパクトが強すぎて、素直に寄せてくれる好意が何かの詐欺事件なんじゃないか?って、当初は疑ってばかりで(笑)。出会った当時、彼は26歳。私にとっては“26歳”という響きがまぶしくもあり、同時に重たくもありました。“絶対にありえない”というのが第一印象でした」
彼女は離婚を経験したシングルマザー。モデルの仕事に加え、アパレルのデザイナーなど、多岐にわたって活動しながら10歳になる息子を育てている。シングルになり、恋愛をすることはあったものの、働いて子どもを育てる中では再婚につながるような真剣さを持てる余裕はなかった。
「例えば、子どもを預けて好きな人に会いに行ったとしても、街中で別の子どもを見かけたりすると『私、子どもを預けてまで何やってるんだろう……』とふと我に返ったり『今、あの子は何をしているのかな?』って、絶対に頭をよぎってしまうと思うんです。そうすると、隣にいる男性が急に取るに足りない存在に見えてしまう。今の私は恋愛を第一にはできないし、それは仕事でも同じことで、仕事をしていても仕事第一にはなりきれない。子どもとの生活がベースにあって、それ以外は仕事も恋愛もバランスで動いていくのが私のスタイル。でも、どこかでまだ40代前半なのに人生から恋愛を取り除いてしまうことには不安もありました。息子が20歳になって手を離れていったときに、私には何が残るんだろうと。同時にワンオペ育児をしていることで、ほんの小さな悩みやグチを誰かに相談できない孤独さも身に染みている時期でもありました。自分と同じ温度で『今日、こんなことがあってさ』と、ポロッとこぼせる相手すらいない状態がすごく心細かった。誰かそばにいてくれたらいいな、そばにいてもらうなら同世代の人がいいのかな? 恋愛をどう人生に組み込んでいけばいいのか迷ってました」
背中を押したのは息子だった
そろそろ恋愛を――。そんな矢先に現れたのが翔平さんだった。
「初めて会ったときから『ずっと好きだった』と言われて、そのテンポの速さに『なんて浮かれた男のコなんだろう』って、とても信用できなかったんです。そこで彼は、言葉だけじゃなくて行動で誠実に気持ちを示してくれるようになりました。住んでいた茅ヶ崎から都内まで1時間半かけて、たった30分だけ私の家の近所でお茶をするために、毎日仕事が終わったあとに来てくれたんです。それがしばらく続いて、少しずつお互いのことを知るようになってきて、初めて真剣に考えてみてもいいのかもしれないって気持ちが動きました。友人からは『絶対に自分が成長したら、おばさんになった仁香は捨てられるよ』と反対もされたけれど、周りの友人やママ友達は『流れに身を任せてみてもいいんじゃない?』と背中を押してくれたこともあって、もう少し関係性を深めてみようと思ったんです。でも2、3回目のデートのときかな? 翔平が『ごめん、息子くんって今どうしてるの?』と切り込んできたんです。普通なら付き合ったとしても、その先にある家庭にまでは踏み込んでこないから、私のほうがびっくりしちゃって。しかも『今度は子どもも連れてくればいいよ』とこともなげに言うんです。そんなに簡単に言わないで!って」 隣に座る彼いわく「もうそのときは腹をくくっていて、仁香と結婚したいと思ってたんで」と、きっぱり。自ら彼女の人生に飛び込んだ。
「とはいえ、息子と彼を急に会わせるのはリスクが大きいと思ったので、翔平のことは“海でサーフィンを教えてくれる先生”という設定で会わせることにしました。ちょうど若い男性の家庭教師をお願いしていた時期と重なっていたので、お兄さんに何かを教えてもらう流れなら、違和感なく息子が会えるのではと思ったんです。その日は初対面なのに二人とも海から6時間も出てこなくて、ずっと二人で遊びっぱなし。息子のほうから彼に『うちに来てご飯食べなよ』とか、『一緒にゲームしようよ』と誘うくらいの仲の良さ。そうやってフラットに二人を出会わせたおかげで、思いがけないほどスムーズに通じ合ってくれました。今までの取材でも『息子さんにはどう説明されたんですか?』とよく質問をいただきます。でも結局のところ、今の関係になるまでのすべての過程で息子が背中を押してくれたんです。『ママのことが好きだから、付き合ってもいい?』と彼が息子に聞いたら『いいよ』と即答してくれたこと、『一緒にいるのに結婚してないのは変だから、結婚しなよ』と息子が私に言ってくれたり……。私のほうが逆に『えっ! いいの』の繰り返しで慌ててましたから(笑)
ただ、まだ子どもだから、子どもがいる女性が男性とお付き合いすることを“浮気”だと勘違いしていたんです。息子なりに彼と過ごすことは楽しいけれど、それは“浮気”で、他の人に知られちゃいけないことなん だと思っていたみたいで。あるとき、近所のスーパーに3人で買い物に行ったんです。友達の親子に会ったときに、見つかっちゃいけないと思ったのかバーッと走って逃げちゃったことがあり……。そんな息子の姿を見て切なくなったし、申し訳ない気持ちにもなってしまって。『旦那さんがいないママは翔平と付き合っても恥ずかしいことじゃないし、隠すことでもないんだよ』ときちんと説明して、理解できるまで向き合う時間が必要でした。そのやり取りを見て、彼も真剣にプロポーズを考えてくれたみたいです。以前は最大の壁に思えた26歳という年齢も、いざ結婚を視野に入れるようになるとプラスに働きました。私は息子と築いてきた今のライフスタイルを崩すつもりがなく、私たちの在り方に寄り添ってくれる人が理想。そういった意味でも、明日にでも一緒に暮らしていけるような彼の身軽さがありがたかった。それに、彼が息子に愛情を注いでくれる姿を見て『彼の将来のために、私は何を返してあげられるんだろう?』 と考えるようになったんです。
ごく自然に頭の中に浮かんだ“3人で歩む未来”。一緒に生きることが最善の選択だと疑わなかった。ただ頭の片隅には「世間の声に子どもが傷つくことがあるかもしれない」と不安を拭いきれなかった。
「当事者の私たちは間違いなく幸せだし、納得して選んだ道だとしても、世の中の人全員に理解してもらうのは難しいかもしれないなと。でも、実際にはありがたいことに、テレビでの公開プロポーズの後、息子の同級生が『おめでとう! よかったね』って声をかけてくれたんです。息子が10歳の今、彼がそばにいてくれたのもベストなタイミングだと思っています。父親がいない寂しさを素直に言ってくれるのも今のうちだと思うし、10代の男の子にとって、父親の存在は何にも代えがたいもの。今までの10年間は母親でどうにかなったけれど、これからの10年は男としての何かを教えていかなきゃならない時期。それを教えるのは私一人には難しいなと思い始めていたから。私は上手にキャッチボールをしてあげられないし、力だって及ばなくなってしまう。親として足りていない自分を痛感する場面に、これからどんどん直面するんだろうと落ち込むこともありました。彼は『今まで頑張ってきたんだから、それを半分にしよう』と言ってくれた。『仁香にできないことは、オレの役割にしてほしい』って。私の恋愛や人生、息子のこれから……すべての不安を埋めるように、ひょいっと飛び込んできてくれました」
想定外の人生だけど、悪くない
翔平さんとの出会いで、結婚観も大きく変化したという。 「昔は、それこそエリートで経済的に安定していて……と、結婚の条件がたくさんありました。それって、自分一人では生きる力がなかったから、男性に頼ろうとした結果だった。自立していないと、我慢を少し強いられることもありますよね。でも、お金持ちでなくてもいいから、一人で生きられる力があれば、純粋に自分の好きな人と一緒にいられるし、相手も自分を愛してくれるならそれで十分なんだって気づけた」
今、自分が“普通”の外側にいる自覚がある。だから彼女自身が誰よりも冷静にこの関係を築こうとしている。
「私も息子を持つ母親だから、お義母さんに初めて会った瞬間に言いました。『自分の息子が26歳になったときに、突然バツイチの42歳の子持ちを連れてきたら、戸惑うのは当然のことだと思います』と。でも、お母さんはフラットに接してくださって、それがすごく嬉しかった。『さすがにびっくりしたわよ』って笑ってはいましたけど。息子のことも、翔平の小さい頃に似ていると可愛がってくださる。私が53歳になったとき、彼はまだ37歳。まだまだ20代の女の子とも十分に付き合える年齢ですから。私の実家はというと、反対というよりは戸惑いが大きかった。ただ、息子がここまで翔平になついている姿を見て何も言えなくなったのが正直なところだと思います。
『最初から、こんないい男性を見つけてくれればよかったのに!』なんて、今では言われたり(笑)。今後どうするかは、自分たちの気持ちだけじゃなく、お互いの家族が納得したカタチで進められたら」
今、彼女の恋愛と結婚の動向を見守り、勇気づけられる多くの人がいる。
「ジャンヌ・ダルクのように旗を振って、先駆けとなるような存在になろうなんてつもりはまったくないの。最初に言ったように私は保守的な人間で、社会がどう見ているのか、世間にどう映っているのかが気になるのは変わっていません。ただ、結果的にマイノリティになっちゃった今の自分を少しずつだけど認めることができ、歩み寄れるようになってきただけ。世間一般の常識だったり、価値観もわかった上で、この道を歩んでいます。SNSで公表した時点では、正直そこまで深く考えてなかったんです。家族のカタチとして女性が16歳年上でも別にいいし、もっといろんなカタチがあっていいんだよねと、思いがけずたくさんのコメントが寄せられました。“こうじゃなきゃいけない”と いう風潮に縛られて、持たなくていい劣等感を植え付けられたりしている人がたくさんいることもわかったし、私の何げない投稿に救われた人がいることも知りました。『誰かのためになるかも』と思えるから、こうやってインタビューを受けることも意義のあることなんだろうなと。もちろん賛否あるけれど、私は“賛”のほうに目を向けて、私たち家族のカタチも日本で珍しくないねっていう世の中になればいいと思っています。こうして、今の二人の日々を伝えることで誰かの背中を押せるんだとしたら、やるべきことなんだと思います。平成も終わって新しい時代になるわけだし、もういいんじゃない?って(笑)。私たちには、他人から見たらわからない凸と凹があって、お互いがしっくりとハマるから年齢なんて関係なく、共存できているんです。そこに恩とか感謝とかが加わって、2人でいることがお互いの生活にプラスに働いている。想定外の人生だけど、悪くない。40代、50代とハッピーでいられるための選択ができたと信じています」
Photos: Kisimari Hair: Katsumi Matsuo(for Nika)Makeup:Yuka Washizu(For Nika)Hair & Makeup : Yusuke Nakajima(for Shohei & Son)Direction : Ako Tanaka Styling : Aika Kiyohara Edit & Text : Hisako Yamazaki