柴咲コウ インタビュー「ファッションの“矛盾”に向き合うものづくりを」 | Numero TOKYO
Interview / Post

柴咲コウ インタビュー「ファッションの“矛盾”に向き合うものづくりを」

女優・歌手として活躍する柴咲コウが、ファッションブランド「MES VACANCES(ミ・ヴァコンス)」を立ち上げた。「サステナブルで優しい服」をコンセプトに掲げ、環境に配慮したものづくりに挑戦する彼女に、ブランドに込めた想いを聞いた。

本当の豊かさとは何だろうという疑問から生まれた

──今年で芸能活動20周年。なぜこのタイミングでブランドを始めようと思ったのですか?

「20周年だからという訳ではなく、2016年の11月に会社を立ち上げて、その頃大河ドラマの撮影中だったので、撮影の合間を縫いながら、どういったものづくりしていこうかという会議を重ね、タイミングとして今年のリリースになったという感じですね。今は、食品もアパレルも飽和状態にあると思いますが、環境への保全意識が付加価値のような感じで、それがメインとなる企業がもっと増えればいいなと思い、自分の会社でそれをやりたいと思いました」

──もともと、環境問題に関心を持つようになるきっかけは何だったのでしょうか?

「もともと好きだったんですよね。好きなものって、例えば猫好きもそうですけど、集まるじゃないですか。だから自分の興味があるところに、また別の人が集まってきたり、情報交換が行われたりして、それが積もり積もって環境省の環境特別広報大使にも繋がってるとは思うんですけれど…。大きなきっかけがあったからというよりは、ふつふつと、自分がこれまで体感してきた感覚で、地球環境ってこのままいくとどうなっちゃうのかなとか、10年後どうなっちゃうのかなとか不安が増すばかりで…。たくさんのものに溢れているけれど、本当の豊かさって何なんだろう、真の幸せって何なんだろうっていう疑問がずっとつきまとっていたんですよね。だから、会社を作るイコール、そういったものに立ち向かう、向き合う企業でありたいなと思いました」

──確かにそこに注力している企業は、そこまで多くないですよね。

「例えば、枯渇資源を使い続けることも、どこで手を打つんだっけとか、問題を先送りにしているだけのような気がするんですよね。今の海洋資源の問題も、どんどん絶滅危惧種になっていく魚がいたり…、生態系が崩れていっている原因って人間だよなって。生態系の一部であるはずの人間が、どうしてこんなにそのサイクルからはみ出しちゃっているのかなっていうのには、興味もあるし、改善の余地も多分にあるだろうなと思っています」

──女優や歌手の活動だけでは、伝えきれないものを感じていたのですか?

「そうですね。女優や歌手として見てもらえる機会はすごく素晴らしいと思うんですけれど、それを活用できていないなっていう感覚になってきたんですよね。自分の生きる意義というか、使命みたいなものが満たされない。あとは、働き方改革と言うんだったら、年齢に関係のない動きをしてもいいんじゃないっていうところもありますし(笑)。他の仕事でのクリエイティブな思考が、また別のものづくりをする上でも、すごく役に立つし、循環するなと思うんです」

ものづくりのプロセスも大切にしたい

──ものづくりといえば、どのように進めているのでしょうか?

「こういうのが欲しいなというところから、スタッフと打ち合わせをして、襟があるならこういうのがいいとか、開いているのだったらこういうのがいいとか、ディテールも詰めていきます。特に素材にはこだわっていますね。私自身肌が弱くて、化繊のものを着て肌荒れを起こしてしまった経験があったので、天然繊維で作りたいなという思いがすごくあったんですよね。今後は、オーガニックコットンを作っている農家さんを訪ねたり、連携をとって視察などに行ければいいなと思っています」

──「旅をするように暮らす」、「暮らすように旅をする」というのも、ブランドのコンセプトですが、なぜ旅が重要な要素なのですか?

「ひとところに留まらないブランドのような印象にしたかったですし、私自身が動き回ることが多く、移動もたくさんしているので、移動着としても使いやすいものを作りたかったという思いもあります。着心地が良くてデザインもかわいい、そんな移動着で旅ができたら素敵だなぁと。旅をコンセプトにすることで、そのシーズンごとに自分が現地視察へ行く機会もあるので、連動して写真や動画も撮ることができればいいなと思っています。そうやって私自身がまさに旅をするように暮らしているので、旅をコンセプトにするのもぴったりだなと思っています」

──そういうプロセスも見せていきたいと。

「何を消費するにしても、その工程を知らない、作り手がわからない、どこで採れたものかもわからないっていうのは、食べ物もお洋服も同じ。そこが本当に健全な労働環境で作られたものなのか、ちゃんと分かるようなものづくりをもっともっとしていったほうが良いし、これだけSNSが普及して監視ができる世の中なのに、そういった重要さはあまり取り沙汰されていないなっていう。ファッションって、いかによく美しく見せるかみたいなところがあると思うんですけど、その制作背景が美しくないものを身にまとっていても、私は美しいとは思えないんですよ。その真の美しさを追求したいなと思います」

──少しの休みがあったら、いろいろな地域のものづくりや作り手の顔が見たいと思いますか?

「私は、すぐにはいろいろなことを信じられない人間だと思うんですよね。なんで体に良いのかとか、それが良いっていうのは誰の基準なんだろうと。何をもって良いとされているのかを自分の目で確かめたいですね」

理想は“楽だけど決まる”服

──柴咲さんにとって、ファッションとは?

「柴咲コウって、そんなにファッションという感じじゃないですよね(笑)。だから『柴咲コウがアパレルか。ふーん』って感じだと思うんですけど、こういう風に取材やらなにやらで、たくさんのお洋服を着させていただく機会もあって。求められているものに合致するか、という被写体であるので、自分自身のお洋服ってやっぱり相手に対しての敬意というか、品格を表す武器みたいなツールだなと思っているんですよね。なのでどっちかというと、相手のために着るものですね。相手に喜んでもらうツールという感じです。だから私、自撮りとかもしないですし(笑)」

──普段のご自身のファッションは?

「お洋服に求めるものは本当に人それぞれだと思うんですけど、私は“楽だけど決まる”っていうのが一番ですね」

──「PREMIUM ECOMFORT」(エコとコンフォートに、上質という意味のプレミアムを組み合わせた造語)というブランドのキーワードにあるように、ただ楽で環境にやさしいだけじゃない、デザイン性にも優れているということも、こだわりの一つですよね。

「はい。デザインに関しては、これから発展させていくべき点だと思うんですけれど、秋冬のファーストシーズンはスタンダードなところから始まって、また春夏になってちょっと遊び心が出たり、色が出てきたりとか、あとはディテールにこだわってみたりというのを考えています。素材にちゃんとこだわっていてギャザーがいっぱいあるとか、すごく贅沢だなって思うんですよ。もちろん私ひとりが思う贅沢さとか豊かさとかってことではなくて、このプロジェクトに携わっているみんなの知恵で作っていけたらいいなと思ってます」

──価格についてはどうお考えですか。

「安い方が良いというのも、私にとってはちょっと疑問なんですね。そうすると、やっぱり価格破壊が起こって、じゃあ原料っていったいいくら?という話になっちゃうんですよね。そこに従事している人たちの賃金も抑えないといけなくなったり、それって本末転倒で。じゃあ自分が働き手だったら、どう思うのかなって。そう意味でも、やっぱり作る工程を知ったほうが良いんじゃないかと思うんですよね。どうしてそれだけお金がかかるのかって。だから、その価格を理解してくださって、その意義を買ってくださる方にまずは賛同してもらいたいなと」

──洋服だけでなく、食品もプロデュースされていますが、他にもライフスタイルの面などで、何か展望はありますか?

「個人的にはこれもあったらいいな、あれもあったらいいなというのは思うんですけど、それを会社としてやるべきかというのは、考えています。衣食住の住ってすごく大きな枠だなと思っていて、生活雑貨や美容もそうですし、いろいろ発展できそうだなとは思っていますね。細かいことですけど、こういうのって意外と無いな、不便だなとか、まだあるような気がして。でもだいたいアマゾンで探してみたら、あった!という(笑)」

ファッションの“矛盾”にしっかり向き合う

──ブランドを通して伝えたいメッセージは?

「ファッションって、自分がそれを着てどう気持ちが高まるか、ワクワクできるかというのが最重要だとは思うんですけど、一方でたくさんの犠牲が出ているということをきちんとテーマとして掲げて、どういう風に社会を変えられるのかっていうのを、議題に挙げられる世の中を作りたいんですよね。何かを犠牲にして得るものっていうのは、やっぱり終わりがありますし。持続可能な世の中を、衣食住を通じて作っていけたらなと思います」

──問題提起をしていきたいということ?

「でも、一方でその“矛盾”というのもテーマにしていて、やっぱり欲しいっていう欲求はある、私だってある。一体いつになったら満足するのかなっていう。でも、それがかっこいい、クールだって思われている限り、欲しいって思う気持ちも抑え切れないので、そのクールと思う対象や価値観がやっぱり変わっていくべきなんじゃないかなって思いますね」

──女優業との両立はうまくいきそうですか?

「前例がない分、やってみなきゃ分からないところはありますが、私自身が暇を持て余すのが苦手なタイプなので、今はこのサイクルでできそうだなと思っています。あとはもちろん、3ヶ月や4ヶ月、映画なりドラマの撮影に入った場合の体制も整えていきたいですね」

──柴咲さんの熱い思いが伝わってきました。

「お金儲けをしたいだけなら、やっていないんですよね(笑)。だから、その真意をきちんと伝えつつ、そのものづくりで出来たプロダクトを通して伝わっていけばいいなと思います」

ワンピース ¥42,000/Mes Vacances ピアス ¥32,000 ネックレス ¥170,000/Cadeaux(カドー伊勢丹新宿店 03-3351-5586)

MES VACANCES

URL/https://mesvacances.jp/

Photos: Taka Mayumi Interview&Text: Yukiko Shinto Edit: Masumi Sasaki

Profile

柴咲コウ(Ko Shibasaki)1981年8月5日生まれ。東京都出身。数々の映画やドラマで女優として活躍。2017年大河ドラマ『おんな城主直虎』では主役を務めた。女優業と並行して、音楽活動も精力的に行っている。2016年自身が代表を務める会社「レトロワグラース」を設立し、社会を多面的に捉えたビジネスを展開。2018年7月には環境省の環境特別広報大使に就任。映画「ねことじいちゃん」(2019年2月22日公開)では、ヒロイン・美智子役を演じている。

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