シシド・カフカ インタビュー「強くてしなやかな女性に変わりたかった」
ミュージシャンで女優、モデルとして活躍するシシド・カフカ。7月にニューアルバム『DOUBLE TONE』をリリースし、9月21日にはイタリアのコンテンポラリージュエリーのイオッセリアーニとコラボレートした「IOSSELLIANI×KAVKA」が発売。さらに、10月21日自ら主宰するリズムイベント「el tempo」を新たにスタートするなど、精力的に活動する。しかし、その裏には表現者としての苦悩の日々、そこから自分で掴み取った変化があった。さらに進化し続ける、シシド・カフカの今の思いとは?
苦悩の中で変化を求めて出会った言葉
──イオッセリアーニとのコラボレーション「IOSSELLIANI×KAVKA」は、ギリシャ語の「PANTA RHEI(パンタ・レイ)」、万物流転がテーマですが、なぜこれをコンセプトに?
「実は、私自身が去年の後半から、何をしてもネガティブに考えてしまうような状態になっていたんです。考え方を変えるべきだと自分でもわかっていたので、いろんな人と話をしたり、本を読んだり」
──何が原因だったんですか?
「デビューして5年経ち、いつの間にか、こうあらねばならないという想いが強くなっていたのかもしれません。デビューが遅かったこともあって、肩に力が入っていたし、理想像に当てはまらない自分が苦しくて。理想と現実のギャップですよね。プロとしてステージに立ってはいるけど、理想には辿り着いていない自分への失望もありました。自分が置かれている環境がどれだけ恵まれているのか理解していても、それを素直に受け止められない自分も嫌で、強く変化を求めていたんだと思います」
──その苦しさから解放されたきっかけは?
「アルゼンチンの友人から、今、ブエノスアイレスでは『トランカ スタイル(Tranca Style)』という言葉が流行しているという話を聞いたんです。スペイン語の『tranquilo(トランキーロ)』は、穏やか、落ち着いていると言う意味で、そこに英語のスタイルを足した言葉なんですが、これだ、と。それがまさに私が求めているものでした」
──それが「万物は流転する」というテーマに繋がったんでしょうか。
「デザイナーの2人にお会いしたときに、『私は今、トランカスタイルだと言えるくらい、強さとしなやかさのある人になりたい。そのために、変わろうと意識している』という話をしたら、万物流転を意味する『PANTA RHEI(パンタ・レイ)』というギリシャ語を教えてくれて。なんて素敵な響きなんだろうと感動しましたね」
──そんな背景があったんですね。コラボレーションはデザインのディテールまで相談したんでしょうか?
「私からは、デイリーユースできて、そのアクセサリーをつけたときに少し強くなったり、女性らしさが際立ったりするものにして欲しいとお伝えしました。でも、私から2人が感じとったイメージがすべてだと思ったので、細かいデザインについてはお任せしました。ひとつだけ、以前から、イオッセリアーニのスネークチェーンが大好きなので、ぜひ使って欲しいとお願いしました」
──もともと、イオッセリアーニのファンだったんですね。
「女性らしい強さが表現されているところが好きなんです。私が感じる女性らしさとは、自分の好きなものや自分に似合うものを知っていて、それを表現できること。今は、女性が強い時代と言われますが、女性が持つ強さは昔から変わっていないんじゃないかと思うんです。活躍の場が家庭の中から社会へと、場所と方法が変化しただけ。私も本来持っている女性の強さを上手に選び取りながら、楽しんでいければいいなと思いますね」
大切なものを選択できる自分になる
──「選びとる」という言葉に、7月に発売されたアルバム『DOUBLE TONE』の中の1曲『特選』を思い出しました。自分で選択していくことを歌っていますよね。
「『特選』は、トランカスタイルを掲げて最初に書いた歌詞なんです。誰かに差し出されたものであっても、それを選びとるかどうかは自分の意思。選択した結果を納得して『特選』にしていくのも自分です」
──その強さが女性らしさの要素なんですね。「トランカスタイル」や「パンタ・レイ」という言葉に出会い、望む方向に変化できたんでしょうか。
「髪を切ったのもいいきっかけになりました。ストレートのロングヘアはものすごくシンボリックだったので、一度、そのパブリックイメージを手放してみようと思ったんです。予想以上に、心と身体が軽くなりました。それまでは、なぜ失恋したら髪を切るのか理解できなかったんです。別れた男のために、なんで大切な髪を手放さなくちゃいけないんだと。でも、髪を切るだけで、こんなに気持ちが軽くなるんだ、みんなが言ってたのは、これなんだと(笑)。周りにも、最近よく笑うようになったと言われました。イヤーアクセサリーをつけるのも楽しくなりましたし」
──外見を変えることが内面にもいい変化をもたらしたんですね。音楽にも変化はありましたか?
「トランカスタイルを掲げてから、以前よりもっと楽しめるようになりました。今までは、曲の隅々まで神経が行き届いているべきだとシリアスになりすぎていましたけど、音楽は、楽曲、パフォーマンスの全てを含めた総合芸術だと客観的に見られるようになったし、歌詞も歌い方も変わったと思います。昔なら、『特選』みたいな歌詞は書けなかったかもしれない。でも、今は自分にとって何が大切なのか、よくわかりましたから」
──ニューアルバム『DOUBLE TONE』では、横山剣さんやm-flo、金子ノブアキさんなどのミュージシャンとコラボレートしていますが、そこにも変化はありましたか?
「以前も楽しんでいましたけど、ご一緒してくださる方に恥をかかせてはいけない、でも負けてもいけないと気負っていたところがありました。今回は、これまでよりもっと楽しめるようになったと思います。『羽田ブルース』を作ってくれた横山剣さんには、シシド・カフカというイメージをそのままぶつけてくださいとお願いしたんですよ。そしたら、やっぱりこういう女性像なんだと(笑)。この曲には、剣さんの優しさや遊び心も感じたので、ぜひ聴いて見てください」
──m-floとの「SYNERGY m-flo feat.シシド・カフカ」はEDMを取り入れていたりとバラエティ豊かですよね。
「自分自身を客観的に見たときに、強みは多様性だと思うんです。私はシシド・カフカとして、しっかり立っていればいい。私のプレイスタイルだからこそのバリエーションの豊かさだと思います」
音楽のある大人の社交場「エル・テンポ」を主宰
──10月21日(日)のイベント「エル・テンポ」にも参加するんですね。これを主宰することも新たな試みですが。
「そうですね。このイベントは、ブエノスアイレスのパーカッション奏者、サンティアゴ・バスケスが開発したハンドサイン『リズム・ウィズ・サイン』を使って、打楽器のアンサンブルを作り出し、会場のみなさんと共有するというイベントです。(金子)ノブアキさんをはじめスカパラの茂木欣一さんなど、私を含めて11人のミュージシャンが参加します」
──豪華ですね。打楽器のアンサンブルというのは、ジャズのセッションみたいなものでしょうか?
「ジャズはベースとなる曲があって、曲の中で各パートにソロを回すという流れがあるんですが、これは、ベースの部分も即興で作ります。コンダクター(指揮者)が、一人のプレイヤーに今日の気分で叩いてと指示します。そして、次の人に、自由に重ねてもらったり、フレーズをリピートしたり。コンダクターが何も指示しないで、みんな好きにアンサンブルを作ることもあります。だから、プレイヤーそれぞれのグルーヴを持っていないと成り立たない。それをコンダクターが少しだけ料理するんです。説明が難しいので、まずは体感してください」
──イベントを日本で始めようと思った理由は?
「3年前にブエノスアイレスで、ハンドサインを使ったリズムイベントに行く機会があったんです。ミュージシャンがひとり1つずつ打楽器を担当してアンサンブルを作る。それが面白くて、日本でやりたいと思ったのがきっかけです。いつも、『やりたいけど』で止まっていたけど、思い切って行動してみたら、去年の年末にやっと動き出して。今年の4月に、サインシステムを学びにブエノスアイレスの学校へ短期留学したんです」
──ハンドサインの学校もあるんですね。
「ブエノスアイレスでものすごく流行っていて、セラピーでも使われているんです。今回のイベントでは、サンティアゴ・バスケスも来日します。ブエノスアイレスでは、大人たちがお酒を飲みながら喋ったり踊ったり、いいフレーズが来たらみんなで盛り上がったりと、自由に楽しんでいました。居心地がとにかく良くて、日本でもそれを再現したい。私はこのリズムイベントで、大人の社交場を作りたいと思っています。腕を組んで見るライブや、若者向けのクラブじゃなくて、大人が本当に楽しめる場所が少ない気がするんですよ。若者たちが、あのイベントに行きたいから早く大人になりたいと、憧れる場所になったらいいなと思います」
──他に挑戦したいことはありますか?
「割れたドラムスティックと、シンバルをリサイクルしたアクセサリーブランドを始めました。木材としては使えるのに、折れたからと捨てるのはもったいない。売り上げは、自然災害の義援金や動物保護などに寄付します」
──女優業はこれからも続けていくのでしょうか。
「面白いお話があれば。音楽と演技、モデル、どれもミュージシャンのシシド・カフカとして、取り組んでいるのでスタンスは同じなんです。どれも100%の力で取り組んでいるのですが、スイッチのありかは違うようで、音楽と女優の仕事を同じ日にはできないんですよ。不器用なことに、スイッチは1日に1個しか上げることができないみたい」
──結婚や家族を持つことへの憧れは?
「いつか心休まる人と出会えて、人生を一緒に歩んでくれたらいいなあというくらいで、特に焦りもなく。昔は、ジャニス・ジョプリンみたいに27歳で死のうと思っていたんです。それが、27歳でデビューすることになって28歳からは誕生日がどうでもよくなっちゃって。30代になって体力が落ちたと感じることもありますし、出産のタイムリミットがあるけれど、子供は授かりものですし。ここ3年はそんな感じです。これも、トランカスタイルで行ければいいなと思っています(笑)」
シシド・カフカ×「イオッセリアーニ」カプセルコレクション
イタリア人デザイナー、ロベルタ・パオルッチとパオロ・ジャコメッリの男女2人組「イオッセリアーニ」。彼らがシシド・カフカと会話する中で浮上した言葉「PANTA RHEY(パンタ・レイ)」をコンセプトに、ネックレス、ピアス、イヤリング、リングをデザインした。
「パンタ・レイ」は古代ギリシアを代表する哲学者、ヘラクレイトスの思想を表現した「万物は流転する」を意味する言葉。自分自身の変化を強く求めていたシシド・カフカにインスパイアされたこのカプセルコレクションは、繊細に揺れるスネークチェーンのフリンジと光を受けて輝くシルバーが、変化し続けるしなやかさと、それを受け入れる女性たちの強さを象徴するかのようなデザイン。
発売開始/2018年9月21日(金)
販売店舗/H.P.FRANCE各店、公式webサイト
URL/www.hpfmall.com/
シシド・カフカ『DOUBLE TONE』
¥3,800/cutting edge
シシド・カフカ主宰イベント「el tempo」
日程/2018年10月21日(日)
時間/開場 17:00 / 開演 18:00 / 終了19:30
会場/東京 寺田倉庫G3-6F
チケット/スタンディング 5,000円(1ドリンク付き)
※年齢制限 20歳未満入場不可
出演者/シシド・カフカ、SANTIAGO VAZQUEZ(サンティアゴ・バスケス)、伊藤大地、IZPON(BANDERAS,Orquesta Nudge! Nudge!,鎮座DOPENESS & DOPING BAND)、岩原大輔(旅猫油団,小沼ようすけtrio)、歌川菜穂(赤い公園)、岡部洋一(ROVO)、金子ノブアキ、Show(Survive Said The Prophet)、はたけやま裕、MASUO(BACK DROP BOMB.PONTIACS.J)、茂木欣一(東京スカパラダイスオーケストラ)、芳垣安洋(ROVO,Orquesta Libre,Orquesta Nudge! Nudge! etc.)
URL/https://eltempo.tokyo/
Photos:Gen Saito Interview&Text:Miho Matsuda Edit:Masumi Sasaki