山田孝之×長澤まさみ 対談「大人になってからの純愛」
映画『50回目のファーストキス』で共演した山田孝之と長澤まさみ。映画を再現するような、恋人同士の仲睦まじい幸せな時間を捉えたビジュアルと、 息ぴったりの二人が語り合う、30代の恋愛の形、ファーストキスの思い出とは?(「ヌメロ・トウキョウ」2018年7・8月合併号)
30代になった今、純愛を演じる意味
──今回、山田さんが王道ラブストーリーを演じることに少し驚きました。
山田孝之「やりたいとはずっと言っていたんです。10〜20代の人には、もはや僕が連ドラでラブストーリーをやっていた人ってイメージはないと思うんです。だからその世代にとっては新鮮だろうし、もう少し上の世代にとっては懐かしいだろうなって。コンスタントにやっていた頃は、僕自身そんなに短期間で中身が変わらないから、どれも差が出なかったんですよね。でも年齢を重ねて、人生経験をしたことで出てくる表現の違いがあると思っていました」
──お二人とも30代になり、『30回目のファーストキス』という純度の高い恋愛映画に照れや違和感はなかったですか?
長澤まさみ「私はたくさんラブストーリーをやってきているので、特になかったですね」
山田「僕は少し離れていたので不安はありました。果たしてぐっと気持ちが入れられるのだろうか、つらいという気持ちになって涙がこぼれるのだろうかと。でも今のほうが楽しめるようになったと思います。若いときは、純粋なラブストーリーみたいな恋愛をしていないじゃないですか。大人になってからのほうが、人に対して真っすぐ好きと言えることの素晴らしさが分かったから」
──福田雄一監督が初めて手がけるラブストーリーはいかがでしたか?
長澤「この映画は福田さんじゃなかったら撮れなかったと思います。笑えるシーンがあるからこそ、シリアスに見えるシーンがある。笑いも狙って 演じるのではなく、リアルに演じることで、逆に面白さが出る。私が思いつかない表現を演出してくださいました」
──山田さんは福田組常連ですが。
山田「誰が演出するかというのは関係なく、大輔という役を素直に演じました。ただ(佐藤)二朗さんとの真剣な芝居のシーンや、ムロ(ツヨシ)さんと真面目に将来の話を語るシーンでは、福田組で何やってんだろう?と面白かったですけど(笑)」
──監督がモニターを見ながら号泣していたとか?
山田「何度か泣いていたみたいですね(笑)。最後のほうのバーッと走って出ていくシーンで、カットがかかったら隣に監督がいたんですが、僕と同じくらい泣いていました(笑)」
11年前はお互いに不器用で、ほとんどしゃべったことがなかった
──共演は映画『そのときは彼によろしく』(2007年)以来、11年ぶり。お互いの印象は変わりましたか。
長澤「昔はほとんどしゃべっていなくて。 私もすごく人見知りだったので、頑張って話しかけたつもりだったんです。でも公開前の宣伝のときに「長澤さんはすごく壁があって」と言われて、全く仲良くなれてないじゃないか!と思ったのを覚えています(笑)」
山田「当時は僕が勝手に壁を作っていたんだと思います(笑)。あまりしゃべらないほうがいいと思っていたから」
長澤「共演していない間もずっと山田さんの作品を見ていたので、久々に会っても今の山田さんをすんなり受け入れられた感じです。でも昔とお芝居の取り組み方は何にも変わっていなくて。集中するとその場の空気をつくろうと、一切しゃべらなくなったりされるので、昔これ見たことある、と。あらためて山田さんのすごさにも気づきました」
──すごさというのは?
長澤「すごく自分がある人。人に左右されないし、ブレない。それくらい精神が強い。俳優でここまで人の言葉に対して揺らがない人って珍しい」
──職人気質みたいな?
長澤「そうなのかもしれないですね。監督とかプロデューサーにいそう。俳優って、基本的には女子も男子も繊細な人が多い気がします。でも山田 さんはいい意味で図太い」
──山田さんから見た長澤さんは?
山田「ずっと変わらず魅力的な人だなって思います。“長澤まさみ”が芸能界の中でいる位置というか、人としての空気感というか。今回、シーンの 段取りをしているときに、まだ役に入らずに“長澤まさみ”に近づいたら、本当に緊張してしまって、台詞が出なくなってしまったことがあって。照 れて台詞が出てこないって、なかなかない経験でしたね」
──山田さんご自身は、この10年で変わったと思われますか?
山田「仕事に関しては分からないですが、人に対しては相当変わったと思います。20代の頃は映画『クローズZERO』(07年)のときでさえ、連絡先の 交換はしたけれど、メールは一切しないし電話も出なかったですし」
──仕事以外で関わりたくなかった?
山田「相手がどうこうではなくて、20代前半のときは人に会いたくなかったんです。長澤さんと共演したのもちょうどその頃。でも30代に入ってから変わりましたね。鹿児島にいた小学生の頃の感覚。いつも何かいたずらしたい、クラスでいちばん目立ちたいって思っていて、今がまさにそん な感じ。20代の頃だけが異常だった気がします」
──何か思うことがあったのでしょうか?
山田「田舎から東京にいきなり出てきて、さらに芸能界に入って、慣れない環境でどんどん閉鎖的になっていったんでしょうね」
──それが変わったきっかけは?
山田「いろいろなことに慣れたんじゃないですか。もう鹿児島より東京のほうが長くなりましたし」
長澤「昔は暗い役も多かったしね。重めの役に現場で引っ張られたのもあるんじゃない?」
山田「ああ、それも絶対にあるね」
好みのタイプは、 感性や感覚が近い共鳴できる人
──1カ月以上のハワイロケだったそうで、一緒に過ごす時間も長かったと思います。お芝居のほか、個人としてもどこか共鳴するものがないと、息の合った一つの作品を作り上げられない気がします。
山田「それは本当にそうですね」
長澤「また福田組で二人の違うストーリーをやったら楽しそう! お互い、おじいさん、おばあさんになってからラブストーリーをやるのもいいんじゃないかな」
山田「そんなに先なんだ(笑)」
長澤「じゃあ40代を挟んで、3部作で」
山田「40代の後、結構空くんだね(笑)」
長澤「『きみに読む物語』みたいなのいいよね。シリアスにもコメディにもどっちにも振れるから!でもその頃、でもその頃、福田(雄一)さんは…70〜80歳?」
山田「痩せちゃったりしてね(笑)」
──映画では運命的な出会いをするところから始まりますが、お二人はどんな人がタイプですか?
長澤「私は話をしていて楽しい人がタイプだと最近気づきました。長い人生を考えたら大切なことだなあって」
山田「一緒にいて楽しむためには、共通点がないと無理だよね。食事をするにも、景色や美術品を見て楽しむにも、感覚や感性が近いところがないと。おいしいね、この服いいねとか共感してくれるのってうれしいし」
──共鳴って相性かもしれないですね。相手のどこに魅力を感じますか?
山田「うーん、少し時間をください(笑)」
──では何かに幻滅した経験は?
山田「女性に対してはないですね。そもそも僕はあんまり人のことを嫌いにならないんですよ。でも嫌だなって思うのは、クチャクチャ食べる人。 まあ女子にはいないですね(笑)。男性は若い人でも結構います!それはもう我慢するしかないですが」
長澤「我慢できる?私、顔に出ちゃう。あと口元すごい見ると思う(笑)」
山田「我慢するね。年下だったりしたら、タイミングを見て言うかもしれないけれど、目上の人だったら絶対に言えないから諦める。でもそういう人は、そもそもいろんなことに対して気配りが足りないんですよ!」
──つまり、気が回らない人は嫌なんですね?
山田「あ、それはすごくありますね」
長澤「自分がよく気がつくからじゃない?現場でもすごく気を使ってくれるんです。いつも我慢して許してるってことですね」
山田「基本的に、僕はいろんなことが気になりすぎるんです。許さなきゃ生きていけない」
──意外です。ワイルドで細かいことを気にしなさそうなイメージです。
長澤「私は割と神経質なイメージある(笑)。毛玉が付きやすいトレーナーを着ていたら、毛玉取り器で取ってくれました(笑)」
山田「いや、でも嫌がられたらやらないですよ?潔癖症とかではないんです。でも毛玉とかはその人の見え方に影響するじゃないですか。別に自分は鼻毛が出てても気にならないですし」
──自分の見え方は気にならない
山田「チェックしますけれど、鼻毛が出てたからといって『ああ!』とはならないです。特に毎日撮影してると気にならなくなってくるんですよ」
長澤「鼻毛がどうとかいうところで仕事してないからね」
──どこに魅力を感じるかって話だったんですが(笑)。
山田「可愛いとは思いますけど、魅力…」
長澤「許容範囲は広そうだよね」
──ストライクゾーンが広い?
山田「うーん、ストライクではないです。あくまでも許容(笑)」
長澤「じゃあ、ストライクは何?これだっていうのは?」
山田「なんでそっち側なの(笑)。やっぱり共感できるかどうか。何かあった瞬間に、プッと噴くのが一緒だったらグッときますし、感覚を共有できるかどうかですよね」
──長澤さんはどんな人に惹かれますか?
長澤「ちょっとダメな部分とか、人間らしい部分が見えると、いいなあ、好きだなあって。完璧すぎると怖いです」
山田「嘘っぽいしね」
長澤「ハワイロケ中も太賀くんが移動中に口を開けて寝ていて(笑)。そういうのを見ると、人間らしいし可愛いなあって思いますね」
──長澤さん演じる瑠衣のムキムキの弟を演じた太賀さんですね
山田「ガリガリでしたけどね(笑)。筋トレ頑張ってましたよ」
長澤「もう弟が可愛くて仕方なくて!」
ファーストキスの頃は、本当の愛なんて分からなかった
──タイトルのように、記憶障害を抱えた瑠衣にとっては毎回がファーストキス。ご自身のファーストキスの思い出は?
長澤「私はいつだったかな。何だろう?って感じでしたね。ギリギリまで恥ずかしかったのに、キスしてみたら、なーんだって。女子だから少女漫画とかを見てるじゃないですか。だから期待しすぎちゃって、感動もなくて。愛情のあるキスがどんなものかっていうのは、経験を経て分かっていくことなのかなって」
山田「へぇ…」
長澤「だから、瑠衣がファーストキスに感動しているのは、純粋でいいなあって。自分にはそれを大切にできる心がなかったのかと思ってショックでしたね(笑)」
山田「たぶん僕は中学生の頃だったと思うんですけど、あまり覚えていないですね」
──そのときの感情も?
山田「どこでしたかも覚えてないのに、感情はもっと覚えてないです」
──相手は覚えてます?
山田「いやあ…、でも付き合おうってな った人だと思いますけどね」
──では思い出深いキスは大人になってから?
山田「思い出深いキス?それ思い出すのちょっと嫌じゃないですか(笑)」
長澤「じゃあ、キスに感動できるようになったのはいつくらい?」
山田「うーん、難しいなあ。仕事でいっぱいキスしてきましたし、キスって何?みたいな感じにもなってきます」
長澤「あ、でもね、それは情報伝達。この人は自分に害があるかないかって本能的な部分で確かめるらしいよ。だってすごい柔らかそうって思ってたのに、カッチカチの唇だったら嫌じゃない?(笑)」
山田「それは見て分からない?乾燥してるのは(笑)」
長澤「いや、緊張してとか?(笑)でも 違和感がある人とはきっと合わないんだよ!」
──映画でも素敵なキスシーンがたくさんありましたが、どのキスがいちばんグッときましたか?
山田「ああ、博物館のシーンですね。瑠衣のオフショルダーの服が個人的に 好きだったというのもあるんですが(笑)。公共の場で、こそっとキスするというのはいちばん照れました」
長澤「あれは福田さんの演出。福田さんにしてやられたね!」
山田「まあ、そうなんですかね…」
<山田孝之>シャツ¥49,000 パンツ¥44,000/ともにVivienne Westwood Anglomania ネクタイ¥17,000/Vivienne Westwood Accessories(すべてヴィヴィアン・ウエストウッド インフォメーション 03-5791-0058)シューズ¥58,000/Paraboot(パラブーツ青山店 03-5766-6688)
<長澤まさみ>ワンピース¥107,000/Kalita(スーパー エー マーケット 03-3423-8428)中に着たワンピース、リング/ともにスタイリスト私物
©2018『50回目のファーストキス』製作委員会
『50回目のファーストキス』
記憶障害で前日の出来事をすべて忘れてしまう瑠衣(長澤まさみ)と、彼女に一目惚れをしたプレイボーイ弓削大輔(山田孝之)の恋の行方を、ハワイ・オアフ島を舞台に描く。原案はアダム・サンドラーとドリュー・バリモアの共演で大ヒットした2005年日本公開の同名ハリウッド映画。
脚本・監督/福田雄一
出演/山田孝之、長澤まさみ、ムロツヨシ、勝矢、太賀、山崎紘菜、大和田伸也、佐藤二朗ほか
URL/www.50kiss.jp
2018年6月1日(金)より全国公開
Photos : Taka Mayumi Styling:Kazuhiro Sawataishi(Takayuki Yamada), Hiroko Umeyama(Masami Nagasawa) Hair&Makeup:Toh(Takayuki Yamada), Masayoshi Okudaira(Masami Nagasawa) Interview&Text : Saori Asaka Edit : Masumi Sasaki