二宮啓×東信、服と花をとことん突き詰める二人の共演 | Numero TOKYO
Interview / Post

二宮啓×東信、服と花をとことん突き詰める二人の共演

2018-19年秋冬、本格的なショーに初挑戦した「ノワール ケイ ニノミヤ(noir kei ninomiya)」。美しいコレクションと同時に目を奪われたモデルの頭や顔と一体化した花々。手がけたのは、フラワーアーティスト東信。そんな服と花の共演が、Numero.jpで再び実現。東なりの解釈で表現したビジュアルとともに送る、デザイナー二宮啓と東信、二人のインタビュー。

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デザイナー二宮啓が黒で新しい表現の可能性に挑み続けるブランド「ノワール ケイ ニノミヤ(noir kei ninomiya)」。これまでパリのオフィスでフロアショーとして発表してきたが、2018-19年秋冬、初めて本格的なショーを行なった。いつもながら精巧で強さとエレガンスを感じさせる黒い服を身に纏ったモデルたちは花々に覆われて登場。二宮が籍を置く、「コム デ ギャルソン(Comme des Garçons)」のDNAを体現しながらも新たな方向性を見せてくれた。そこで「ヘアメイク」として大きな役割を果たしていたのが、フラワーアーティストの東信だ。実は長年の付き合いがある二人。出会い、ショーまでの試行錯誤、これからについて語り合ってもらった。

ブーケのオーダーから始まった仲

──そもそもお二人の出会いは?

二宮啓(以下、二宮)「アントワープに留学していた時近所にすてきな花屋さんがあって、花が見せる一瞬の表情を切り取る、ということに興味を持つようになりました。それで帰国後お花を贈る機会に東さんのお店に行ってみたんです。以前から東さんの強い作品が好きだったので…」

東信(以下、)「10年くらい前になりますね。その時二宮さんはブルーのライダースを着ていて、ヘアスタイルはすでに今と同じモヒカン。ただ者じゃないな、と思いました(笑)」

二宮「たまたま東さんが店先にいらっしゃったんですよね」

「以来よく花を買っていただいています。かれこれ100個くらいになるのではないでしょうか?!」

──100個も!二宮さんはどんなオーダーをされるのですか?

二宮「贈る相手の人柄やイメージをできるだけ伝えます。なんのために贈るのか、といったこともお伝えします」

「もちろん贈る方のイメージが一番ですが、二宮さんのその時々のこだわりが伝わってきたりもするんです。以前は寒色系が多かったけど、最近はナチュラルな感じのオーダーが増えてきているような気がします。グロテスクに、とか強く、といったオーダーが集中した時期もありました」

二宮「東さんが作ってくださるブーケはどんな切り口であれ、使う植物が何であれ、全て美しい。そのつど驚きがあります」

「そのやりとりの中でいろいろな話をするようになりましたね」

二宮「共通の知り合いについてとか…」

「あとは精神論が多いかな?!ものづくりに対する姿勢についてとか…」

──東さんは二宮さんの仕事についてどう思われていましたか?

「展示会に行かせていただいたりしていたのですが、花が合う服だな、とずっと思っていました。強いのですが、めちゃくちゃエレガントできれいだし、花を服に落とし込んでいる感じがあるというか…」

二宮「自分の中で花は普遍的な存在なので、自然とにじみ出ているところがあるのかもしれません」


ドレス¥380,000/Noir Kei Ninomiya(コム デ ギャルソン 03-3486-7611)

フラワーアーティストにヘッドピース制作をオファー

──長年にわたって関係を深め、ついに今回のショーでご一緒されたわけですが、二宮さんは東さんにどのようなオファーをされたのでしょうか。

二宮「ショーをやることが決定してすぐにもう東さんにオファーの電話をしていました(笑)。東さんもすぐ“わかった”と(笑)」

「機会があればぜひ何かやらせてもらいたいな、とつねづね思っていたので即引き受けました。会場構成や展示というかたちでファッションショーに関わったことはあるのですが、今回はヘアメイクという違う切り口だったのがよかった」

──それにしても東さんにヘアメイクとして参加してもらう、というのは本当に大胆な発想ですよね…

二宮「東さんの作品はもちろん好きなのですが、ものづくりの姿勢にも共感する部分がありました。本当に花に人生を捧げている。だから一緒に仕事をするんだったらお互いに何か新しいことを持ち寄らないときっと面白いところにいかないな、と思ったんです。東さんはブーケだけに収まらずに、花の表現の意味合いを拡張してきた。その延長線上で、できるだけ服に近い部分の仕事をパートナーとしてやってもらいたいな、と。でも、実はオファーをしたのはショーのたった3週間前だったんです(笑)」

「ヘアメイクのテクニックは全くないので、この花をどうやって頭に付ければいいのか、という根本的なところから始めました(笑)」

──それは大変…どうやって作業を進めていかれたのですか?

「二宮さんの中のイメージをより具体化していくために僕が手助けをする、という作業でした。話をして、面白そうかも、となったら花材を用意してトライしてみる。その繰り返しです。東京では3回か4回試作をしたでしょうか」

二宮「服づくりにおいては普通マッチングしないような異素材やパターンをぶつける時にできる新しい表情やエネルギーをコンセプトにしました。でも、イメージ的なテーマは掲げていませんし、ああいう感じにしてください、と具体例を出すことは一切ありませんでした」

「こういう仕事でムードボードを見せられなかったのは初めてだったので本当に新鮮でした。二宮さんは精神から作っているという感じがします。僕もアートや音楽からインスピレーションを得る、というよりは1日1,000個ブーケを作りまくったりするような、日々の積み重ねの方が新しいことにつながるような気がするんですよね」

二宮「東さんとは長年の付き合いがあるのでコミュニケーションが取れます。ちょっと話しただけでわかってくださることが多かったです」

──服と合わせてみながら検討することはできたのですか?

「服はパリに行くまで見せてくれなかったんですよね…」

二宮「見せないわけではなく、サンプルができていなかったんです…こういう感じのものを作っている、という話は少ししましたが、ほとんど参考にならないレベルでした」

「ショーの3日前にパリに入り、箱を開けて服を初めて見た時は興奮しました。二宮さんがぶつけたものが生でがーんと出ているのを感じたんです。それから一体一体花と合わせていきました」

──生花を使われていましたね。

「やっぱりこれだけ本格派の服だと、生花しかありえないと思っていました。造花の方が見せる幅はすごくあるのかもしれませんが、服に負けちゃうだろうな、と。花のほとんどは現地調達で、ランジス市場に買いに行きました。そしてまたああでもない、こうでもないと検討し、服が強くて隙がないので、ヘッドピースでは粗さを出すことにしました。簡単に頭に載せられるブーケにしようという案もあったのですが、きれいすぎると面白くなかったんですよね。それでひもでラフに束ねることに。くたくた感も出しました」

二宮「花だけを見ても、少しくたっとした方が自然できれいでした」

「新鮮すぎるとぴょんぴょん跳ねちゃうんです。だいたい作ってから6時間くらい経った状態がいいね、ということになり、本番から逆算して仕上げました」

二宮「実は、本番でベストの状態になるように、ショーの前日徹夜してくださったんです。ものづくりに対してそういうことも厭わない方なので、東さんにはコム デ ギャルソンのものづくりの精神と通ずる部分があると以前から感じていました」


ジャケット¥79,000 ブラウス¥66,000/ともにNoir Kei Ninomiya(コム デ ギャルソン 03-3486-7611)

「僕からするとコム デ ギャルソンは一つの憧れですからね。会社自体が服のために全てがある、という哲学なんですよね。オフィスに行くと、無音で、空気がピーンと張り詰めている。二宮さんもそれをしっかり受け継いでいて、服づくりを突き詰めて、突き詰めて、それをどんと出す。その繰り返しなんです。ワーカホリックというか、ジョブジャンキーというか、とにかくやりまくる。今こういうのできたんだけど、と連絡すると、日曜日でもすぐ見に来ますから」

二宮「いつも、何かを決めなければいけなかったり、いいものを作らなくてはならない時の瞬発力につながるような状態にしておきたいんです。休みの日にただただぼーっと過ごすのはちょっとこわいな、と思って」

──本当に同じ方向を向いて取り組むことができていたのですね! ファーストルックは顔が全て花で覆われていて衝撃的でした。

「まずは頭に載せてみたのですがインパクトが足りなくて」

二宮「顔を出す、出さないということは重要ではなく、ただ美しいもの、かっこいいものを作りたい、という思いだけでそうしました」

「僕はモデルさん顔を出さなくても大丈夫かな、とちょっと心配になりましたが…(笑)めちゃくちゃ重たいから付けられないかも、と思いながら作ったサボテンのヘッドピースも、二宮さんは“絶対やりたい”と(笑)。美しくてかっこよければそれでいいんです」

──本番は花が落ちてしまうこともなく(笑)、完璧に決まっていました。

「36体全て花を付け替えたので、バックステージは戦場みたいになってましたけどね(笑)」

二宮「細かいトラブルがたくさんありましたが(笑)」

──そうでしたか!ちなみにショーが終わった後、花はどうされたのですか?

二宮「東さんたちがブーケにしてくださって、スタッフに配ったんです。皆すごく喜んでいました!」

「二宮さんの発案なんです。ばっと飾ったらあとはめんどくさいから捨てよう、というところが多くて最近何だか残念に思っていたところだったので、さすがだな、と感心しました」


ドレス¥145,000/Noir Kei Ninomiya(コム デ ギャルソン 03-3486-7611)

気持ちがこもったものづくりが重なって生まれる強さ

──改めて今回のショーを振り返ってみていかがでしょうか。

二宮「東さんの仕事はディテールまですごくきれいで、本当に花が顔に付いているかのような仕上がりでした!すばらしかったです」

「かっこよかったですよね。花、あってよかったですよね」

二宮「今までは小さい規模で発表していましたが、関わる人が増え、気持ちのこもったものづくりがどんどん重なることによって出る強さを知ることができました。多くを語らずとも、東さんはどんどんすばらしいものを形にし、そして僕ひとりでは表現できない世界を持ち込んでくださいました。今回の経験は、自分が新しい、美しいと思うものを人に伝えて感動していただく、ということをこれからも続けていくためのモチベーションになりました」

「僕の仕事は自然を模倣して作ってもだめ。だからあえてそれとは全く違う振り幅として一時期ばかでかいものを作ったり、花を凍らしてみたり、燃やしてみたり、といろいろやってきました。そして最近ようやく“人と花”というテーマにたどり着いたところだったんです。人は花を贈り、花をもらったら喜ぶ。花は、人を介してこそ存在し、そこに本質的な意味があるのかもしれない。10年くらいの課題にしてもいいな、と思っていました。ですから今回人に直接的に触れるかたちで仕事をさせてもらって、本当に気持ちがこもりました。もっと可能性を広げたいな、と思っています」

──東さんにオファーするタイミングもばっちり合っていたのですね…!二宮さんはこれからも「黒」にこだわり続けていくのでしょうか。

二宮「テクニックや形を出す上で色の要素が視覚的に入ってくると違った意味合いを持ってきます。黒一本で表現の可能性を探る、というのがブランドの考え方なんです」

「二宮さんが色柄を使うとどうなるんだろう、というのは見てみたいですけどね(笑)。でも、スタイルを変えない、というところも好きなんですよね。ファッション関係者の中にはパーティピープルみたいな人も多いじゃないですか。「東ちゃーん」みたいな(笑)。二宮さんにはそういう匂いが全然しない。どっしり構えて、地に足をつけてものづくりしている。本物だな、と思います」

──お二人のお話を伺っていると、本当に互いにリスペクトされているのが伝わってきます。今回見事に双方のものづくりを融合させた一つの世界観を作られただけに、これを越えるのはなかなかハードルが高そうです…!次も楽しみにしています!

Art Works:Makoto Azuma Photos:Shunsuke Shiinoki Interview&Text:Itoi Kuriyama Edit:Masumi Sasaki

Profile

二宮啓(Kei Ninomiya)1984年生まれ。アントワープ王立芸術アカデミーを経て2008年コム デ ギャルソンにパタンナーとして入社。2013年春夏より「noir kei ninomiya(ノワール ケイ ニノミヤ)」のデザイナーに。今年モンクレールの新プロジェクト「MONCLER GENIUS(モンクレール ジーニアス)」に参加し、ダウンを用いたコレクションを発表した。
東信(Makoto Azuma)1976年福岡県生まれ。2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。また、フラワーアーティストとして国内外で精力的な活動を展開。05年からニューヨーク、パリ、ドイツなど海外を中心に個展を開催。09年、実験的植物集団「東信、花樹研究所」を立ち上げ、植物をキーワードにさまざまな分野で幅広く活動。東の活動のすべては花・植物のみが有している最も神秘的な形を見つけ、それを美的なレベルに変換し表現することで、植物の価値を高めることに一貫している。

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