伝説のコレクターによる、クセ強めなメンズリング展覧会 | Numero TOKYO
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伝説のコレクターによる、クセ強めなメンズリング展覧会


18世紀になるまでリングは男性のものだった!? 現代ではリングは女性のもの、そう思うのが一般的。けれどそもそも権力やその象徴としてリングを身につけていたのは、むしろ男性だったのです。現在六本木で開催中の、ちょっとマニアックなメンズリングの展覧会の耽美な世界へご案内します。

このエキシビジョンは2012年からヴァン クリーフ&アーペルがサポートする、ジュエリー文化を探究し紹介する「レコール ジュエリーと宝飾の学校」の一環。フランスのコレクターで、アンティーク家具の先駆的ディーラー、伝説のギャラリーオーナーであるイヴ・ガストゥの、400点にも及ぶメンズリングの貴重なコレクションを公開しています。 きっとNumero.jpの読者は偏愛指数高めで、収集癖もあるはず。生涯で1000点近くもメンズリングを集め、2018年パリでの同展で披露するまで、これらリングの存在をひた隠しにしていたというマニアな師匠、イヴ・ガストゥの言葉から見えてくる奥深き世界を見ていきましょう。 「でもね、お母さん、あんなに綺麗な指輪なんだもの!」 世界の美を知るオークショニアの父親、美意識の高い母親のもとで、子供の頃から視覚的知性が培われたイヴ・ガストゥ。幼少期を過ごした南フランスで、子どもながらに大きな宗教行列に魅了されたイヴ少年。教区の司教にはめられた見事な指輪を崇め、接吻しようとする信者の列に混じり、何度も何度も列に加わろうとし……。これはその時、母親に止められ、抗議したときの言葉。彼のメンズリングへの情熱の出発点であり、それを見て取れる宗教的なリングも。

「これが私の初恋であり、そして最初に購入した作品群だった。子どもの頃にもらった自分のイニシャル入りのシルバーの指輪に次ぐものだ。刻印がイニシャルだったのは、我が家には自分の紋章がないから」

カメオや古い硬貨などを使った新古典主義、ロマン主義のリングをこよなく愛したイヴ・ガストゥ。1930年代から1950年代に、ルイ14世〜16世の時代の様式を再解釈し昇華したアンドレ・アーバス、エミリオ・テリー、ジオ・ポンティらの装飾家、建築家の作品に関心を寄せていたそうです。

中央の巨大なシルバーリングは19世紀の「ヴェネツィア元首の指輪」。蓋が開閉し、中には蜜蝋を入れ、表面で刻印するなどしていたそう。
中央の巨大なシルバーリングは19世紀の「ヴェネツィア元首の指輪」。蓋が開閉し、中には蜜蝋を入れ、表面で刻印するなどしていたそう。

「世界中の男性がジュエリーを身につけていたし、なかには女性よりも男性のほうが多く身につけていた国もある。旅に出るたびに、私は最新流行やブティックや土産物屋、あるいは市場に立つ行商人から得た新たな発見を携えて帰路につくことを決めていた。こうして、その国の文化の一端を持ち帰ってきたのだ」

彼にとって指輪の収集は旅行記代わり。生涯を通じて世界中を旅して指輪をコレクションしてきたそうで、
ユニークなデザインの数々に興味津々。
日本でも恵比寿に本店を構えるMARSや、日本人クリエイターToshiによるロンドン発のDOG STATEといったジュエリーブランドの作品を見出したのだとか。

「好奇心を抱くことに理由などない」

「(ラテン語で)好奇心の語源=curiosusは、何かを『気にかけて大切に世話をする=care』ことを意味している。好奇心旺盛な人は、世界を大切にする人」とは、図録の冒頭の「レコール」校長の寄稿。残念ながらイヴ・ガストゥは2020年に亡くなりましたが、このコレクションを目にすれば、感性のまま美の追求に命を燃やした彼の生き様に触発されるはず。重厚なゴシックからキッチュなキャラものまで、ひとクセもふたクセもある膨大なメンズリングをご堪能あれ!

イヴ・ガストゥと子息のヴィクトール・ガストゥ © Galerie Yves Gastou
イヴ・ガストゥと子息のヴィクトール・ガストゥ © Galerie Yves Gastou

メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション
期間/2022年1月14日(金)~3月13日(日) 会期中無休、予約不要
開館時間/10:00〜19:00
会場/21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
住所/東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内
TEL/0120-50-2895 (レコール事務局/平日11:00〜19:00)


※2022年1月27日(木) 20:00〜21:00には、ZOOMによるオンライントークも開催予定。詳しくは公式サイトにて

Profile

古泉洋子Hiroko Koizumi コントリビューティング・シニア・ファッション・エディター。『Harper's BAZAAR』『ELLE Japon』などのモード誌から女性誌、富裕層向け雑誌まで幅広い媒体での編集経験を持つ。『NumeroTOKYO』には2017年秋よりファッション・エディトリアル・ディレクターとして参加した後、2020年4月からフリーランスとしての個人発信を強め、本誌ではファッションを読み解く連載「読むモード」を寄稿。広告のファッションヴィジュアルのディレクションも行う。著書に『この服でもう一度輝く』(講談社)など。イタリアと育った街、金沢をこよなく愛する。
Instagram: @hiroko_giovanna_koizumi

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