産めるカラダ作りの基盤は“腸”にある!
高齢出産、深刻な不妊問題を抱える日本人女性にとって早い段階で、食事を含めた正しい知識を持つことの大切さが問われる時代。実は意外にも腸と妊娠力には深い関係がある。予防医療コンサルタントの細川モモさんが「腸と子宮の付き合い方」を指南。妊娠力をあげるカラダ作りの基盤である、腸の働きを知り、腸内環境を整えましょう!(「ヌメロ・トウキョウ」2014年5月号掲載)
1.腸はそもそもどんな働きをするの?
妊娠力を上げるためには、日頃から予防医療の観点で体づくりをしておく必要があります(医療費負担の増額が予想される今後、子どもを産まなかったとしても、健康でいることは大きな資産に)。肌が荒れ気味、髪が痩せてパサパサといった美容面のサインから、便秘、PMSや生理痛がつらい、そして頭痛や眠りの浅さ、疲れが取れにくいといった不定愁訴、生活習慣病につながる太り過ぎ(あるいは痩せ過ぎ)まで、ほとんどは腸に関係するトラブルといえます。言い換えれば、腸での栄養の吸収が上手くいっていないということ。私たちは食べ物を口から体内に取り込んでいますが、すぐに食べた物がそのまま体内の栄養状態に反映されるわけではありません。食べ物は食道や胃などの消化器官を通り消化されてはじめて、栄養が腸から体内に取り込まれます。この消化のプロセスにおいて、消化液の量やpH、ピロリ菌などのバクテリアの存在、胃腸がどういうコンディションにあるかで栄養吸収に差が生じるのです。 つまり、産める体づくりは「食べ物を受け止める体づくり」。何をどう食べるかで終わるのではなく、食べた後にどう体内へ吸収されるかの認識が重要になってきます。腸は栄養吸収をはじめとして、脳神経や自律神経、免疫系とも関わりが深く、人の健康状態に大きな影響力を持っている器官。腸の全長は6.5~7.5m、そのうち5~6mが小腸、約1.5mが大腸。栄養の消化と吸収が行われるのは小腸の部分です。小腸の粘膜の表面にある絨毛(図下)は、消化酵素を含む腸液を分泌して食べ物をさらに細かく分解し、栄養をキャッチし体内に取り込みます。分子量の大きいたんぱく質は小腸でアミノ酸に、脂質は脂肪酸とグリセリンに、糖質はブドウ糖や麦芽糖などの単糖類にまで細かく分解され吸収されます。大腸は栄養の吸収は行わず主に、水分の吸収と排泄物の貯蔵を担います。
また、腸は体の組織を作ったり、さまざまな生体反応に必要なミネラル吸収の要。腸のコンディションが低下すると、カルシウム、マグネシウム、鉄といったミネラルの吸収率も低下してしまい、骨密度低下や貧血の原因となる可能性が。
小腸も大腸もぜん動運動を行っていて、食べ物が小腸を通過するのにかかる時間は3~4時間(種類によっては10時間ほどかかる場合も)です。この間に各種の栄養素と約90%の水分が吸収されますが、小腸や大腸のトラブルから栄養吸収の阻害や不要となった老廃物の排泄の停滞が起きれば、さまざまな形で健康状態の悪化を招くということは皆さんも容易に想像がつくはずです。
小腸の表面には輪状ヒダと呼ばれるヒダがあり、その表面には絨毛という栄養を吸収するための無数の小突起が存在。絨毛の面積を平らにすると、なんとテニスコート一面分! 細胞の結びつきを緩めたり、きつくしたりすることで、胃でドロドロのおかゆ状態にまで消化された食べ物から水、ビタミン、ミネラル、糖、アミノ酸などの栄養を吸収している。
2.出生から加齢に伴って変化する腸内細菌
小腸から大腸にかけて、人間の腸管の中には多種多様な細菌が生育しています。腸内細菌と呼ばれるそれらは、種類にして約100~1000種類、数としてはおよそ1000兆個。体重の1~1.5kgは腸内細菌が占めているといわれてます。腸内細菌は「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つに分類されます。腸内では同じ種類の菌が群をなして叢(そう)を作っていることから、腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼ばれてきましたが、最近はミクロビオータ(microbiota)と呼びます。
腸内細菌の働きは非常に多岐にわたります。「善玉菌」が優勢な状態では、人間が持っていない酵素やビタミンB6、ビタミンKなどを生成したり、病原菌の定着阻害、免疫系の活性化、アンチエイジング作用など、人体に有用な働きをしてくれます。「悪玉菌」が優勢の状態が続いてしまうと、腐敗産物や発がん物質の産生、各種の腸疾患への関与など、人に有害な働きをします。「日和見菌」は、「善玉菌」が優勢なときは「善玉菌」寄りの働きをし、「悪玉菌」が優勢なときは「悪玉菌」に寄って悪さをします。
腸内細菌のバランスは年齢に伴って変化します。赤ちゃんが生まれる前は無菌の状態ですが、お母さんの産道で初めて菌を取り込み、生まれた後は母乳を飲むことで「善玉菌」が増え、腸内は「善玉菌」の一種であるビフィズス菌が90%を占めています。外界に出てあらゆる菌を取り込んでいくにあたり、赤ちゃんをしっかりと守る仕組みに。離乳食と同時にこの比率が変わりはじめ、食べ物に付着しているたくさんの菌が体内に取り込まれ、たんぱく質を中心とした食べ物が腸内に入ってくることで腸内環境は大きく変化します。
成人を迎える頃には「善玉菌」は全体の20%にまで減少、「悪玉菌」や「日和見菌」が腸内の80%を占めるように。一般的に大人の腸内細菌のバランスは「善玉菌」:「悪玉菌」:」「日和見菌」が2:1:7の割合で存在します。ただし、食生活や運動、睡眠といった生活習慣の影響によっても腸内環境の善し悪しには個人差が。40歳を過ぎると加齢により腸内環境が悪化しやすい状況になりますが、近年赤ちゃんがお母さんの腸内環境を受け継ぐ可能性が高いことが示唆されているため、加齢に対する食の知識もきちんと持ち、腸内を「善玉菌」が優勢の良好な環境に保つことは、妊娠においてもとても大切なことです。
3.便秘は老化自動発生装置!善玉菌で便秘を解消
日本人にとって根強い悩みである便秘は、大腸のトラブル。実は便秘の明確な定義というのはなく、便秘にはいろいろなタイプがあります。一時的なダイエットや旅行などで起こる急性タイプの「一過性便秘」は改善しやすいのですが、手強いのは慢性タイプ。「慢性タイプ」はさらにいくつかの種類に分かれますが(※1)、自分はどの便秘タイプかを知って適切な解決策を講じましょう。健康な人の便の内訳は、80%が水分、残りの20%は、食べカス・腸内細菌・剥がれた腸粘膜がそれぞれ約3分の1ずつという感じで構成されています。
スムーズな排便のためには、食物繊維の摂取が必須ですが、自分の便の状態に合った食物繊維(※2)を取れているかどうかが重要です。水に溶けない不溶性食物繊維は、腸内で水分を吸って便のカサを増やし大腸を刺激する働きがあるので、腸のぜん動運動が弱い「弛緩性便秘」の人には良いのですが、腸のぜん動運動が活発になり過ぎている「けいれん性便秘」の人には逆効果。また、いくら食物繊維を取っても日々の食事から善玉菌のエサとなる微生物や糖質(オリゴ糖など)を取り、善玉菌優位の腸内環境を保っていないと便秘の解消は望めません。もちろん、運動や睡眠の見直しも外せない要素です。
善玉菌は、腸の中で糖分や食物繊維を発酵させることで、エネルギーを得て生きています。善玉菌が作りだす「乳酸」「酢酸」「酪酸」などの「有機酸」は腸内を酸性に保ち、悪玉菌の増殖を止めて腸内腐敗による悪臭のガスの発生を抑えています。また、腸内の酸性化は、病原菌の感染や細菌による下痢を予防。「有機酸」は腸のぜん動運動を活発にする働きもあり、消化→吸収→排便を促してくれます。
外から摂取することで体に有益な働きをしてくれる善玉菌の代表としては、ビフィズス菌と乳酸菌があります。乳酸菌=ビフィズス菌と勘違いされがちですが、2つの菌は別の菌。腸内の善玉菌の99.9%以上を占めるのがビフィズス菌で、人や動物の大腸に分布して便秘や下痢を防いだり、免疫やビタミン合成に貢献しています。乳酸菌は腸内での占有率は0.1%以下ですが、人では小腸に分布してビフィズス菌のサポーター的存在として働いています。善玉菌の減少は食生活の影響のほか、ストレスや薬の服用によっても起こります。特にビフィズス菌については、40~50代になると急激に減る傾向に。
現在の日本人女性の死亡率第1位は大腸がん。たかが便秘と侮っていると、腸内腐敗が進んで発生した毒素が血液に吸い上げられて全身を巡り、腎臓や肝臓にダメージを与えることに。病気に至らずとも、便秘は肥満や疲れやすさ、肌荒れ、加齢臭、冷えといったお悩みとも深い相関関係に。やはり、アンチエイジング目線で見ても、善玉菌や食物繊維を補って腸内環境を良く保つことは最重要課題といえます。
※1
弛緩性便秘腸のぜん動運動が弱く便を先に送り出せなくなるタイプ。長時間のデスクワークなど運動不足傾向の人に多い。
けいれん性便秘腸のぜん動運動が強くなりすぎて、けいれんを起こして便がつっかえてしまうタイプ。職場や家庭などでストレスを強く感じている人に多い。
直腸性便秘排便のリズムが乱れることで、便が腸に辿り着いても便意が起こらないタイプ。忙しさや、環境条件によって排便を我慢してしまう人に多い。
※2
組み合わせてバランス良く取りたい食物繊維
不溶性食物繊維―玄米、納豆、さつま芋、雑穀、枝豆、大豆
水溶性食物繊維―にんじん、キウイ、昆布、切干し大根、干ししいたけ、アボカドなど
善玉菌が元気に働いたときの嬉しい効能
免疫活性化 解毒作用 コレステロール除去 メンタルの安定 ビタミン合成 がん予防 アミノ酸合成 たんぱく質分解
4.とれない不調の原因は
“遅発型フードアレルギー”“グルテン過敏症”にある?
腸のコンディションを良く保つ食事ができているかの、一番簡単な目安は便秘をしていないこと。和食中心の食生活なら、自然に便秘とは縁遠くなるはずです。それほど、和食は日本人の体調メンテナンスにフィットした内容。腸内細菌のエサになるのは糖質なので、糖質+食物繊維で構成される炭水化物は必要ですが、取りすぎると肥満や老化の原因となる糖化を招きます。
洋食は小麦が中心のため、洋食が続くことで炭水化物の取りすぎに。また、洋食の献立に多く登場する小麦、乳製品、卵は、美味しく食べているつもりでも、日本人の腸にとっては消化に負担がかかる食べ物なのです。特に小麦、乳製品、卵は「三大アレルゲン」といわれる食材で、小麦に含まれるグルテンや、牛乳に含まれるガゼインといったたんぱく質は分子量が大きく、抗原になりやすいため、身体がIgE抗体を作りアレルギー反応が起こります。一方で、IgE抗体は関係しないフードアレルギーも存在します。このアレルギー反応は、すぐに明らかな反応が出る“即時型アレルギー”とは違う“遅発型のフードアレルギー”です。
さらに、小麦や大麦、ライ麦に含まれるたんぱく質のグルテンに対する免疫反応が引き金となって起こる自己免疫疾患を“セリアック症候群”といい、重症度は違いますがセリアック病に酷似した反応を示す“グルテン過敏症”といいます(もともとセリアック病が知られている米国では、小麦製品の多くがグルテンカットした「グルテンフリー」が主流に)。セリアック病やグルテン過敏症は小腸内に炎症が発生し、栄養を取り込む腸の絨毛が萎縮してしまうことで水やミネラルの吸収障害が起きて、「食べているのに栄養失調」の状態に。
食べていても体内の栄養状態が悪化していく、炎症性の腸の病気としては遅発型フードアレルギーやLGS(リーキーガット症候群)なども挙げられます。LGSは別名「腸漏れ」と呼ばれ、食品や添加物、医薬品、嗜好品、バクテリアや酸素の欠乏など、さまざまな原因によって腸の絨毛の表面を保護している粘膜に穴があき、通常は体内に取り込まれることのない病原菌や未分解のたんぱく質、有害物質が体内に漏れ出してしまう症状です。食べているのに体の不調が続もしかしたら腸が慢性的に傷ついてしまっている可能性が考えられます。
Supervision : Momo Hosokawa Illustration : Izuru Aminaka Text : Kumiko Ishizuka, Hisako Yamazaki Edit : Hisako Yamazaki