かつて品格と慎ましさを美徳としたレディのイメージは、時代とともに書き換えられていった。現代の彼女たちは装うことを武器にする。上品なアイテムにエッジを効かせたスタイルが際立った2025年秋冬コレクションから、田中杏子がその自由な意志を探る。(

時を超え、ジェンダーをほどく1枚のドレス
ある日、目を覚ますと女性になっていた——4世紀を生きる主人公のオーランドーの物語を描く、ヴァージニア・ウルフの小説に着想を得たディオール。時代とジェンダーの解放を衣服によって表現した。ミニ丈のドレスにはメンズウェアのテーラリングに使用される素材を用いながら、ボディラインに沿って繊細なレースをあしらう。

正しさからの解放が導く、ありのままの美しさ
「現代の女性らしさとは何か」という問いかけをテーマにした今季のプラダ。自然な動きから着想を得たコットンシャツは、ボタンホールにリボンが通され、ギャザーを寄せることによって自在に形を変化することができる。造られた美しさではなく、ありのままの姿こそ魅力があると示唆してくれる。

力強さを呼び覚ますシルエットの魔法
角張ったショルダーラインのブラウスに、タイトなペンシルスカートを合わせて、逆三角形のシルエットで力強さを表現。大きく結ばれたリボンと特徴的なポインテッドトゥのヒールが女性らしさを加える。目立った装飾は排除し、カラーリングとフォルムのみで魅せる、サンローランのクリエイティビティが感じられるルック。

大胆不敵なコートの纏い方
クラシカルなロングコートは、「スタンダード」を再定義したバレンシアガから。一見するとシンプルなデザインだが、裾がハの字に広がり、さりげなくユニークな構築美を宿す。ボディスーツの上から羽織って、センシュアルに着こなすのが今らしい。

永遠の定番に、新たな息吹を
シャネルが大切にしてきたシグネチャーを大胆に再解釈したコレクション。コスチューム パールのネックレスを拡大したようなバッグがひときわ存在感を放つ。淑女が愛したツイードのセットアップも、今を映すクロップド丈のジャケットとパンツスタイルで軽やかに、そしてアクティブに纏いたい。

ブラックに宿るモダンエレガンス
ブラックのワントーンの中に、ウールフェルト、ラムスキン、ナイロンの3つの生地がドッキングされた、巧みなクラフツマンシップが光るコート。マイクロミニ丈のパンツを合わせ、コンテンポラリーなバランスを楽しんで。

マチュアな余韻、ネオレディの嗜み
鮮やかなオレンジのドレスながら、ベロアが持つ柔らかな艶と重みが品格をもたらし、凛とした佇まいに昇華させる。ドレスと同生地のロングリボンがしなやかに流れ、動きにニュアンスを添えて。ベルトには大ぶりのホースビット モチーフをあしらい、存在感ある輝きを放つ。

優美なドレスに潜む秘密
風を味方に、しなやかに揺れるリュクスなドレスは、ランジェリーを想起させる繊細なディテールが魅力。そこに先が尖ったビスチェをレイヤードし、女性の芯の強さを際立たせるスタイルに仕上がった。

舞台の記憶に誘われて
コンテンポラリー・ダンスの振付家であるピナ・バウシュの作品を想わせるフェラガモ。束縛のない自由な動きを表現するように、軽く着心地の良いドレスが登場した。フロントのみにベルトを覗かせた、ミニマルかつ機能的なデザイン。コレクション会場に埋め尽くされた赤い花びらを彷彿とさせるヒールを履いて、ドラマティックなランウェイの続きを。

マスキュリンとフェミニンの調和
かつてのパターンを起点に、その技術やクラフツマンシップに立ち戻ったサラ・バートンによるジバンシィのデビューコレクション。ジャケットを再構築したドレスは、ビッグシルエットでマスキュリンな要素を残しつつ、前後を反転させて背中を見せるデザインや絞られたウエストで、女性的な美しさも強調する。

意思を貫く、現代の淑女のためのワーキングスタイル
今シーズンのステラ マッカートニーは、働く女性の人生に寄り添う斬新なワードロープを提案した。パワーショルダーの真っ赤なドレスは、レディボスの凛としたエネルギーをはっきりと映し出す。シューズはあえてロングブーツを合わせ、足元にもエッジを効かせて。現代の淑女は、自分の意思で働き、力強く歩み続ける。
Photos:Seiji Fujimori Fashion Director:Ako Tanaka Hair:Tomihiro Kono Makeup:Kie Kiyohara Model:Anastasia Kapustina Edit & Text:Makoto Matsuoka
