ドリス ヴァン ノッテン 共鳴する、豪奢なモード愛
2020年春夏シーズンのドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten)は、豪華絢爛なクリエイションで知られる伝説のクチュリエ、クリスチャン・ラクロワとの共作を発表した。すべては、ファッションへの情熱と純粋に創作を楽しむ気持ちを取り戻すために。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年4月号掲載)
自由と気高さを纏って
メタリックなジゴスリーブトップは、アシンメトリーな仕立てでモダンに。シアトリカルなムードを宿すリボン付きのロングスカートやフェザーアクセサリーは、キューブリック監督作『バリー・リンドン』に登場する優美なレディ・リンドンを意識している。独創性が生むエネルギー
異なる要素を組み合わせたフローラルやドット、ラッフルの競演。フューシャカラーのグローブをアクセントにポジティブな装飾主義を貫いて。足元には、贅沢なパワーゴールドを。テクニックに躍動感を乗せて
ダークさを孕んだジャカードコートには、繊細なチュールにビーズ刺繍を施したトップ、鮮やかなイエローの花々を描いたサテンのローブをレイヤード。大ぶりなドットや指を覆うようなサイズのストーンリングで独自の個性と違和感をプラス。ドリス・ヴァン・ノッテン×ムッシュ クリスチャン・ラクロワ
最初で最後? 貴重なクリエイション5つのポイント
1.共作のきっかけ
新たなシーズンテーマを模索するなかでドリスの頭に浮かんだのは、“桁外れなほど想像力に満ちた、贅沢で、これまでにないボリュームの楽しいもの”だった。人々の心に訴えかける夢のようなドレスを思い描いたとき、クリスチャン・ラクロワ氏のアーカイブ作品や世界観につながることに気づいたという。「少し悩んでから直接彼に電話をしました。Yesと言ってくれたときはとても嬉しかった。オマージュではなく、今現在のこととして私たちの世界観を完全にブレンドして表現しようと思いました」とドリス。プリントや色の組み合わせなど、一着を完成させるまでのプロセスにも彼らの情熱が注がれている。
2.今季のテーマについて
テーマに選んだのは80~90 年代のオートクチュール。当時のエネルギッシュなファッション業界を知るラクロワとの共作で、ドレスアップする喜びや純粋にファッションを楽しむ気持ち、感情を取り戻したいと考えたからだ。あまりシリアスになりすぎず、自由なクリエイションを追うことを目指した。フェザーのアクセサリーやノーブルなモチーフをちりばめたピースは、キューブリック監督作の映画『バリー・リンドン』に登場するレディ・リンドンにヒントを得ているそう。
3.伝説のクチュリエ
舞台衣装やコスチュームのような華やかなデザインを得意とするクリスチャン・ラクロワ。彼が創る服は、幻想的で斬新だ。何にも縛られない自由な発想と想像を超えるファンタジックなアイデアは、少々窮屈な現代社会にこそ求められているように思える。今回コンビを組んだドリスについて、「私はいつもプレタポルテに失敗してばかりだったので、彼を尊敬しています。私には、舞台とクチュールのバランスをどうとったらよいかわかりませんでした。その感覚に優れ、クチュールのような作品を作り出すドリスには嫉妬してしまいますね」とラクロワ。
4.2人のコンビネーション
長い時間をかけて仕立てられる非現実的なドレスは、プレタポルテではなかなかお目にかかれない。特に商業的なファッションに視線が注がれる今、知らず知らずのうちに“着られる服”を意識し、クリエイティブの枠が狭められているのかもしれない。ドリスはルックの制作過程について、「『背中が前と比べて少しフラットだから、背中にドローストリングを付けたら?』とクリスチャンが提案してくれるんです。こういうやりとりが何度かありました。彼と仕事をしていると純粋にファッションを楽しんで美しい服を作ることだけに集中することができた」とラクロワとのやりとりを明かす。
5.創作を振り返って
ドリス・ヴァン・ノッテンとクリスチャン・ラクロワによる競演は、2020年春夏コレクションのビッグトピックとなった。この貴重な取り組みを振り返って、ドリスは「今日あるものはすべて非常にブランド化され、焦点が絞られて、編集されていますから、今回、一人のデザイナーがほかのデザイナーとともに一つのコレクションを作り上げることができるのかを確かめることができてよかったと思います。そして、実際にクリスチャン本人と一緒に仕事ができた。それこそが素晴らしいことなのです」とコメントしている。
非日常をリアルで愉しむ
楽しさ、喜びにあふれた百花繚乱のフローラルジャカードとアニマルプリントでクリエイティブへの探求心を満たして。多彩なイマジネーションを体現するラクロワと知的なドリスが声高らかに唯一無二のロマンスを謳う。
ドリス ヴァン ノッテン
Tel/03-6820-8104
Photos : Hirotsugu Soda Hair : Satomi Makeup : Maki Ihara Styling : Marie Higuchi Edit : Yuko Aoki