ファビアン・バロンが監督「Bottega Veneta」アートムービーの世界
“アート・オブ・コラボレーション”として常に時代をリードするクリエイティブなアプローチでの広告キャンペーンを行っている「ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)」。2018年春夏は、ファビアン・バロンをディレクターに迎え、コアとして動画を使い、雑誌などのADヴィジュアルも動画からのキャプチャ画像を使うといった新な試みを展開している。
「リフレクションズ」と題された映像は6つのチャプターで構成されており、まるで連続したTVドラマを見ているような感覚の作品となっている。制作の指揮をとったのは長年ファッション業界で活躍し、数々のハイブランドでレジェンダリーな広告キャンペーンを世に送り出してきたクリエーティブディレクターのファビアン・バロン(Fabien Baron)。そしてクルーも映画や音楽業界のトップクリエーターを揃えた。その仕上がりは特殊効果なども含めて長編映画に匹敵する出来栄えとなっている。
なかでも今回のストーリーをリードする大切なエレメントは音楽といっていいだろう。音楽監督にはレコードレーベル「イタリアンズ・ドゥー・イット・ベター(Italian Do It Better)」を主宰し、映画「ロスト・リバー(Lost River)」やTVドラマ「ツインピークス(Twin Peaks)」などにも楽曲を提供しているジョニー・ジュエル(Johnny Jewel)を起用。春夏キャンペーンのキーパーソンとなるバロンとジュエルに話を聞いた。
──おふたりはどうやって出会われたのでしょうか?
ファビアン・バロン(以下、ファビアン)「もともと彼の音楽のファンだった。でも実際会うのは実は今日が初めてなんだ」
ジョニー・ジュエル(以下、ジョニー)「ファビアンから送られてきたラフを見て、すぐにやりたい、と思ったよ。サウンドがストーリーをリードしていく、というコンセプトと聞いたので、本当に何百ものアイディアが即座に浮かんできた」
ファビアン「これまでもたくさんコマーシャルフィルムを作ってきて、ロックやクラシックなど多くの音楽家と仕事をしてきたけれども、コンセプトを理解してもらうのはいつも簡単なことではないんだ。でも、ジョニーとのやりとりは、本当にリアルな美意識のある人とコミュニケーションしているという実感があった。僕はイメージが送ると、それにあった彼が音を返してくれる、といったようなやりとりを行った」
ジョニー「まるでテニスのラリーみたいだったね。イメージと音の交換を何度も重ねていくうちに、だんだん熱がこもっていった。本当にナチュラルなプロセスで、夢のようにスムーズだったね。ミュージシャンにとっては音がどう使われるか、例えばインスタグラムなのかユーチューブなのか、といったことはあまり考えないのだけど、今回の企画は6つのチャプターがどれも独立していて、それぞれにムードやエネルギーが溢れていると感じた。だからひとつの音楽を6つに分ける、というのではなくそれぞれの音源を考えていった」
ファビアン「音楽が完成した後は、実際に撮影の現場ではそれを流しながら映像を作っていったんだ。この音にはどういったイメージがいいか?といったような試行錯誤を重ねながら、照明やスローモーションのペースとかも音楽に合わせている。全体のヴィジュアルがサウンドにインスパイアされている、という点ではミュージックビデオを作るプロセスに似ている、といってもいいかもしれないね」
──今回のキャンペーンでは紙媒体用の画像も動画からのキャプチャ画像を使うという新しい試みがされていますが、通常の手法で撮った写真とはどのような違いがありますか?
ファビアン「画像を選ぶのは大変苦心しました。というのも動画でみるといいけど、静止画像にすると、ヘアがいまひとつだったり、服の見え方がよくなかったり。これまで僕のモットーとしてはいつも完璧な絵を追い求めてきたし、おそらく(クリエーティブディレクターの)トーマス・マイヤーもそういうタイプの人だと思う。
でも、イタリアンブランドとしては、どこかルースなところも必要なんじゃないか? 普通の撮影だったら200カットも撮れば、必ずベストショットがある。でも、映像はいろいろ準備したとしても、撮り始めたらもうハプニングしかない。コントロールは不可能、でもだからこそ面白い。パーフェクトじゃないかもしれないけれど、その分テクスチャーや感情がふんだんに表現されている、それが生き生きとしたストーリーとなる」
──最近では媒体はもとより、広告の手法でもデジタル化が進んでいます。この状況についてはどう感じていますか?
ファビアン「これまで雑誌でもビルボードでもプリントによる広告を作るためには、ブランドのアイデンティティをいかに研ぎ澄ましていくか、といったことに多大な労力と時間、バジェットが費やされてきた。そのブランドのイメージを作るためには、服やモデルはもちろん、セットの壁の色は?とか本当に細かな部分にまでメッセージが込められていたんだ。
しかし、デジタル時代の今、インスタグラムとかセルフィーとか、もともとのブランドイメージの立ち位置とは違ったものがどんどん流されるようになった。そのゆるさ、が消費者にとっては身近だったり、またオープンだと感じたりするのかもしれない。
ただ、自分自身の意見としてはそんな状況はブランドとしてはアイデンティティ喪失の危機といってもいい。今こそ、人々が憧れるようなハイレベルのヴィジュアルランゲージを取り戻すべき。人々の記憶に残るようなブランドの女性像、イメージ、それをデジタルの手法でも作っていかなくちゃいけない」
ジョニー「消費者もどんどん若くなってきて、プリントが少なくなっている今、人々の記憶にもイメージはあまり残らなくなってきているんじゃないか? 最近では若い人たちがあえてレコードを買い集める、という状況も出てきているのは興味深いね」
ファビアン「僕らの世代にとってレコードは音楽を聴く手段として普通だったけれど、若い層にとってのそれはオブジェといってもいいかもしれない。レコードを聴くプロセスを楽しんだり、所有欲を満たしたりするようなもの。雑誌もそういう方向性に向かっていくのは間違いない。昨今のヨーロピアンマガジンはより本に近いものになっているけど、読者がずっと取っておきたくなるようなものだけが生き残っていくんじゃないかな。単にコマーシャルな雑誌、というのはもう難しいと思う」
──その意味で今回のキャンペーンはエポックメーキング的なものといってもよさそうですね。
ファビアン「そうですね。特に今回製作した動画は、一般的にソーシャルメディア用に制作されているものとは異なり、シュールレアリスティックでありながら強い物語性があるのが特徴です。6回シリーズのTVドラマを見ているかのような連続性もあり、回を追うごとに期待感を高めていく、という効果もあると思います」
Bottega Veneta
ボッテガ・ヴェネタ ジャパン
TEL/0120-60-1966
URL/www.bottegaveneta.com
Interview & Text:Akiko Ichikawa
Photos:Courtesy of Bottega Veneta