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Fashion Post

90sムーブメントを振り返る
橋本徹、渡辺シュン、水原佑果のスペシャル対談

90年代にフリーソウルムーブメントを巻き起こした橋本徹と、その熱気を実体験したスタイリストの渡辺シュン、今またその頃の音楽シーンを沸かせた楽曲でDJをする水原佑果とともに、当時の様子を振り返る。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2017年4月号掲載)

──渡辺シュンさんは「グルーヴ」をテーマにスタイリングを手がけましたが、どのような思いからこの雰囲気のスタイリングになったのでしょうか?

渡辺シュン(以下S)「90年代は、僕自身ブラックミュージックに影響を受けていまして、当時はレコードも買ってたり。きっかけは橋本さんが主催されていたDJイベント『Free Soul Underground』(※01)だったんですよ」

橋本徹(以下H)「そうなの(笑)!?」

S「そうですよ! それで、97年にエリカ・バドゥ(※02)の来日ライブに行って」

H「それは僕も覚えてます。すごく印象的だったよね!」

S「それから20年後、今の20代の人たちが90年代ファッションに興味を持ち、当時のあの感じが戻ってきている印象を受けました。だから今の服だけどヴィンテージと合わせたミックススタイリングにしたんです」

──渡辺さんは90年代に渋谷にあったDJバー『インクスティック』(※03)での「Free Soul Underground」に行かれていたとのことですが、それはいつ頃ですか?

S「最初に行ったのは1995年11月だったと思います。15歳でした(笑)」

H「早熟~(笑)!」

水原佑果(以下Y)「私、そのとき1歳ですよ(笑)!」

H「ということは、94年生まれ?「Free Soul」と同じ歳ですね(笑)。今は音楽も90年代のあの頃の感じに戻ってきてるよね」

──いま最も注目されているバンドの一つSuchmos(サチモス)(※04)は、あの頃の音楽の雰囲気ですよね。

H「90年代のアシッドジャズ(※05)世代にもジャストだと思いますよ」

Y「リズムも格好いいですしね!」

H「20年たって、やっとまた流れが来た! みたいな(笑)」

──アディダスのジャージを着ているなど、ファッション的にも90年代のジャミロクワイ(※06)っぽさを感じますよね。

H「でも実は、ジャミロクワイもスティービー・ワンダー(※07)とかギル・スコット・ヘロン(※08)の音そのままって当時いわれてましたから(笑)」

Y「確かにスティービーっぽい!」

H「彼らが今の空気の中でそういうものを捉えているというのは、すごく好きですよ」

Y「それはリスペクトってことなんですね」

S「結局は、自分たちが90年代に格好いいと思っていたものは、実は70年代から来ていたということですね」

──しかし、ジャミロクワイが出てきたときは衝撃的でしたよね。当時はフロントマンのジェイ・ケイの服装を真似る男性も多かったです。

S「2015年にメンズ雑誌で“ストリート”をテーマにスタイリングをやることになって、僕が思ったのはジェイ・ケイだったんです。それで、渋谷とか原宿の古着屋に行ったら、そのカルチャーが流行りはじめていて」

H「90年代を思い出すね! 東京ではそれまでのDCブームとか、雑誌『ポパイ』などのアイビーを基調にしたキレイめファッションから、クラブカルチャーとか、ストリートカルチャーの影響がとても強くなった。それが90年代だと思うんです」

S「今のファッションって、皆が一緒の感じがありますが、当時は渋谷でもエリアによってファッションが違っていましたよね」

#105_groove_02
#105_groove_02

絶大な影響力があったアイコン、ローリン・ヒル

──聴いている音楽によって、ファッションも違っていた時代だったと記憶にあります。

H「『Free Soul Underground』を始める前はフレンチのアニエス・ベーとかA.P.C.のようなオリーブ少女的な服を着ていた人が多かったんです。その後、94年にイベントを始めたあたりから、エリカ・バドゥに連なっていくようなブラックや民族衣装っぽい要素を取り入れたり、古着を上手にミックスしたファッションになっていった記憶がありますね」

S「その感じはありましたね!」

H「当時ジャズといわれていた音楽も、実際にはレアグルーヴ(※09)の流れで、70年代のソウルやファンクの影響が強いものが多かったんです。あるとき、男の子がみんなダニー・ハサウェイ(※10)みたいなニット帽をかぶりはじめた瞬間があったり(笑)。それまではフリッパーズ・ギター(※11)みたいなベレー帽だったのに、94年になると、がらっとニット帽に変わったんです」

──ジャズ系は、スーツでクラブに遊びに行くなんてカルチャーもありましたね。

H「一方でU.F.O.(※12)の三人が世界で活躍したりして、クラブジャズ系もある種の男子のファッションに影響を与えてましたよね。もともとは、ブランド『プラネットプラン』を手がけた今西(祐次)さんが発端で、『メンズ・ビギ』からの流れですよ」

──90年代前半あたりからアシッドジャズのムーブメントが生まれて、エンディア・ダヴェンポート(※13)をはじめとする、アシッドジャズ系バンドのボーカルの女性がエスニック風のファッションでしたよね。

Hカーリーン・アンダーソン(※14)もそう」

──その流れがエリカ・バドゥにつながっていったということですね。

H「一昨年、エリカのライブに行ったときに、彼女と同じファッションの女子がたくさん来ていて。影響力がすごい。もちろん音楽的にも、彼女の審美眼だったり、ヒップホップやジャズとの距離感だったり、古いものと新しいもののバランスは、20年たってもイケてますよ」

Y「今も最高ですが、20年たっても健在ということだったんですね」

Hローリン・ヒル(※15)もロールモデルとしては絶大な影響力があったと思うんだけれど、音楽的な信頼感のところで、エリカに対するプロップスはすごいと思う。でも、ローリンも98年のソロアルバムのときは本当に格好よくて、魅力的だったよ」

S「髪形もスパイラルパーマとか、ドレッドっぽい女の子が多かったですよね」

Y「カワイイー!」

H「そういうのが可愛いという価値観が、東京でも認知された時代だと思うんですよ。道玄坂にクラブ『Harlem』(※16)とかができたりして、ストレートにR&Bとヒップホップの世界観が渋谷に入ってきた時期。だから、そのときローリンというのはロールモデルだったんだなという気がします。90年代って、ファッションを見ればその人がどういう音楽が好きなのかがわかったけど、ある時期からわからなくなったよね」

──そういった意味では、音楽アーティストが90年代のファッションに与えた影響はすごかったということですよね。

H「そうですね。エリカ、ローリン、宇多田ヒカルあたりは、女性のライフスタイルとかファッションに影響を与えた気がする」

S「UAもだと思いますが、皆そういう格好をしてました」

#105_groove_03
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90年代のミックスという文化

──今、なぜ90年代カルチャーのブームが来ていると考えますか?

H「90年代って、肩パッドが入ったDCブランドのジャケットを着て、マハラジャとかジュリアナとかで派手に遊ぶ、そういうバブルという時代に対するオルタナティブというか、アンチみたいな部分があると思うんです。だから小バコで古着で70年代の音楽を聴く文化が出てきた。2010年代と90年代は、時代的に似ているのかもね。個性の時代になってきているんでしょうか。94年のTLC(※17)のセカンドアルバムが象徴的だったと思うんだけれど『Crazy Sexy Cool』って言葉が輝く時代だったわけですよ。それがバブルの頃だったら、ちょっと違う。95年の夏に発表されたTLCの『Waterfalls』とか、スチャダラパー(※18)の『サマージャム95』とか…。あの感じだったんだよね」

S「そうですよね。ファッションも同じ動きだと思います」

Y「90年代が流行る理由がすごくわかります!」

──90年代という時代は、70年代のカルチャーが音楽にもファッションにもあったということですね。

S「ミックスという文化ですね」

H「それと温故知新。音楽も同じで、古い音楽だけではなく、新しい音楽も混ぜるのがイケてる時代だった。古き良きものを発見して、自分たちがミックスして楽しむということをやっていたのが90年代で、今はその20年後版なんじゃないかな?」

Y「ホント、それを感じます!」

S「まったく新しいモノはできないから、サンプリング(※19)というか、自分の好きなものを今の気分でアレンジしていく時代」

H「DJ的というか、編集感覚ってことだね。90年代は“編集の時代”といわれたんだけれど、より一般の人でもそういう編集ができる時代、ミックスができる時代になったと思う。だから、そういうモノを楽しいと思って、好奇心を持って遊んでいる人が増えたらいいですよね。その旗手として、DJとしても活躍するユカ・ミズハラが(笑)」

──ちなみに、水原さんがDJを始めたきっかけは?

Y「最初はテイ・トウワ(※20)さんがレコードを教えてくれたのとレコードのイベントに誘ってくれたのがきっかけです。レコードでDJできたらかっこいいし、楽しいだろうなって思って始めました。もともと音楽は好きだったので、レコード屋さんに行ったら、知らない音楽が無限にあって。いろいろ探したりするのにはまっちゃったんです」

──DJではどんな選曲を?

Y「そのときの気分で選曲することが多いですが、基本はR&B、ヒップホップ、ソウル、ディスコ系です。なかでも90年代のダンス系のDeee-Lite、En Vogue、La Boucheはお気に入りでよくかけます。あとは和モノ(※21)も好きなので、山下達郎さん、松任谷由実さん、細野晴臣さん、ピチカート・ファイヴ、Tin Pan Alleyとかもかけますね」

H「思えば和モノを混ぜ始めたのも90年代なんだよね。佑果ちゃんのおかげでこのカルチャーも広がるね(笑)」

S「佑果ちゃんを通じて音楽を聴くような子たちもいるわけだからね」

Y「ガンバリマース(笑)!!」
 

橋本徹(Toru Hashimoto)

編集者/選曲家。イベント「フリーソウルアンダーグラウンド」主催のほか、伝説的なフリーペーパー『サバービア・スイート』の発行、タワーレコードのマガジン『バウンス』の編集長など、90年代音楽シーンを語る上での中心人物。

渡辺シュン(Shun Watanabe)

国内外の雑誌、広告、ショウなどでスタイリストとして活躍する。10代の頃からレコードを収集し、90年代には当時のエリカ・バドゥからインスパイアされたターバン&斜め掛けバッグスタイルをしていたというエピソードも。

水原佑果(Yuka Mizuhara)

ピンクヘアがトレードマークのモデル、DJ。2015年、テイ・トウワのシングル「LUV PANDEMIC」にボーカルとして参加。またMETAFIVEにもゲストボーカルとして参加するなど、アーティストとしても活躍する。DJはレコード派。

Profile Photos : Yuji Namba Special Thanks : Café Après-midi
Visual Hair : Taku Makeup : Tomohiro Muramatsu Manicure : Eichi Matsunaga Cooporation : Backgrounds Factory, Ease、Propsnow

90年代を振り返る用語集

01 : エリカ・バドゥ

1971年、アメリカ・ダラス生まれのミュージシャン。97年にアルバム『バドゥイズム』でデビューし、同作が全米最高2位を記録する。97年のグラミー賞でベストR&Bアルバムを受賞するなど、新世代のネオ・ソウル界のリーダーとしての地位を確立。ヒップホップやジャズの要素を取り入れつつ、ブラックミュージック特有の重低音と緩いエリカの歌声が芸術的観点からも評価を受ける。ファッション面でも、奇抜でアーティスティックなヘアスタイルやトレードマークのターバン、個性的なファッションを抜群のスタイルで着こなすなど、ファッションアイコンとしても支持される。

02 : Free Soul Underground

1994年3月に「DJ Bar Inkstick」から始まった、橋本徹の主催イベント。ソウルやジャズ、ブラジルやラテンの旧譜に新譜も混ぜ自分たちが好む曲を選曲し、ジャンルにとらわれない新たな「フリーソウル」というカテゴリーを確立させた。

03 : インクスティック

渋谷・公園通りにあったDJバー、クラブの「DJ Bar Inkstick」。クラブジャズ系DJの小林径がブッキングを手がけた。1989年オープン、95年に閉店。

04 : Suchmos

2013年に結成された6人組グループ。アシッドジャズやヒップホップ、ブラックミュージックからインスパイアされた音作りで注目を集める。17年1月に発表したセカンドアルバム『THE KIDS』でBillboad JAPANアルバム・セールス・チャート首位獲得。

05 : アシッドジャズ

70年代ジャズファンクにヒップホップやソウルジャズといったさまざまな要素を混ぜ合わせた音楽ジャンル。

06 : ジャミロクワイ

フロントマンのジェイ・ケイによって1992年に結成されたグループ。フューチャーファンクのジャンルにおいてパイオニアとなる。シングル「Virtual Insanity」の独創的なMVは日本でも話題に。アルバム7作がUKのトップ10入りし、グラミー賞受賞。全世界で2600万枚以上のアルバムセールスを記録し、最も売れたファンクアルバムとしてギネスにも掲載される。ファレル 、タイラー・ザ・クリエイター、インターネットなどがファンと公言するなど、現代のアーティストからも絶大な支持を受ける。2017年3月に7年ぶりとなる8作目のアルバム『オートマトン』を発表。ニット帽やMVでもお馴染みのハット、ライブパフォーマンス時のヘッドピースなど、帽子がトレードマーク。その他、オーバーサイズのフリース、アディダスのスニーカー「Campus」やジャージ「ATP」なども愛用する。

07 : スティービー・ワンダー

1950年、アメリカ・ミシガン生まれのミュージシャン、作曲家、音楽プロデューサー。63年にアルバムデビューし、数々のヒット曲を発表。16年にはアリアナ・グランデとコラボレーションし話題を呼んだ。17年5月、ミュージック・シーンを代表する超名盤『Songs In The Key Of Life』がリイシュー。

08 : ギル・スコット・ヘロン

1949年、アメリカ・シカゴ生まれのミュージシャン、詩人、政治コメンテーター。70年にアルバム『Small Talk At 125th And Lenox』でデビュー。ジャズ、ソウル、ファンク、ブルース、ラップを混合したオリジナルの音楽を演奏する。メッセージ性の強い楽曲で、多くのアーティストからもカバーされる。

09 : レアグルーヴ

過去の音楽を現在の価値で捉え直し、再評価を受けた過去の音楽。主に70年代に生まれたソウル、R&B、ファンク、ディスコのカテゴリーから、その当時は光を浴びなかったが、80年代後半から90年代にかけてクラブDJやヒップホップアーティストが発掘し、ブームに。

10 : ダニー・ハサウェイ

1945年、アメリカ・シカゴ生まれのミュージシャン。音楽ジャンルはソウル、R&B。カーティス・メイフィールドらの下でキャリアを積む。マーヴィン・ゲイとともに「ニューソウル」と呼ばれる新世代の黒人アーティストとして脚光を浴びた。

11 : フリッパーズ・ギター

1988年に結成された小山田圭吾と小沢健二によるバンド。オリジナル・ラブやピチカート・ファイヴらとともに呼ばれる「渋谷系」の代表格。雑誌『Olive』にモデルとしても多々登場し、彼らのベレー帽やボーダーシャツ、ホワイトジーンズといったファッションが当時の若者たちに強い影響を与える。91年の解散以降は、それぞれコーネリアス、小沢健二としてソロ活動を行う。

12 : U.F.O.(ユナイテッド・フューチャー・オーガニゼイション)

90年に矢部直、ラファエル・セバーグ、松浦俊夫により結成されたニュージャズを代表するDJグループ。アメリカの名門レーベルVerveと契約するなど、世界的に活躍する。91年にクラブ・パーティ「JAZZIN’」をスタート。

13 : エンディア・ダヴェンポート

1966年、アメリカ・アトランタ生まれのヴォーカリスト。90年代半ばにアシッドジャズ界で世界的に話題をさらっていたバンド「ブラン・ニュー・ヘヴィーズ」の初代歌姫。

14 : カーリーン・アンダーソン

1957年、アメリカ・ヒューストン生まれのシンガー。91年にアシッドジャズ系バンド「YoungDisciples」としてデビュー。93年にソロデビュー。

15 : ローリン・ヒル

1975年、アメリカ・ニュージャージー生まれのシンガー、ラッパー。88年に、ワイクリフ・ジョン、プラズとともにラップユニット「The Fugees」を結成、94年にアルバム『Blunted on Reality』でデビュー。97年にソロ活動に移行、「DooWop」が全米シングル1位、アルバムチャートでも1位を獲得する。映画『天使にラブソングを2』に出演するなど女優としても活躍。

16 : Harlem

1997年に渋谷にオープンしたクラブ「ハーレム」。日本におけるヒップホップの聖地として支持される。

17 : TLC

1990年にT-ボズ、レフト・アイ、チリの3人で結成されたR & Bグループ。92年シングル「Ain’t 2 Proud 2 Beg」でデビュー。セカンドアルバム『CrazySexyCool』がグラミー賞最優秀R&Bアルバム賞を受賞、全米売り上げ800万枚以上を記録する。2002年レフト・アイの事故死により、現在は2人で活動する。

18 : スチャダラパー

1990年にデビューした、Bose、ANI、SHINCOの3人からなるラップグループ。94年、小沢健二と共作した「今夜はブギー・バック」が話題となる。

19 : サンプリング

過去の曲や音源の一部を引用し、再構築して新たな楽曲を制作する音楽制作法・表現技法。

20 : テイ・トウワ

日本のDJ、音楽プロデューサー、アーティスト。パーソンズ美術大学でグラフィックデザインを学んでいた留学中の1990年にDeee-Liteのメンバーに加入し、Jungle DJ Towa-Towaとしてデビュー。94年に活動の拠点を日本へ移し、アルバム『FUTURE LISTENING!』でソロデビュー。

21 : 和モノ

日本人アーティストによる過去から最近までの楽曲を含めた、シティポップスを中心とするJ-AORや和製レアグルーヴ。

Photos:Takay
Fashion Director:Shun Watanabe
Interview & Text:Hideshi Kaneko
Edit:Fumika Oi 

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