【エディターズレター】とっておきの一点に出合えるのは、ものを語る、豊かな視点があるから。 | Numero TOKYO
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【Editor’s Letter】とっておきの一点に出合えるのは、ものを語る、豊かな視点があるから。

2024年4月26日(金)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2024年6月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。

一生のうちに、どのぐらいの数の“私のとっておき”に出合うだろう。とっておきだから、その人にとって“特別なもの”のことを指すのですが、その“とっておき”がどうしてその立ち位置になるのか、その理由に触れたくて特集を組みました。

そもそもの始まりは、プレタポルテコレクション(既製服)にオートクチュールのような逸品感が増し、アート作品のように昇華していることでした。誰もがアクセスして購入できたりもしくはすでに手に入れているアイテムではなく、自分だけの一点に価値を感じているというところでしょうか。でもその希少性は金額の問題でも素材の高級感でもなく、もっと別の理由が介在して個々にとっての “とっておき”になっているようなのです。

今号の企画は、クチュールのような既製服の提案が多かった2024年春夏コレクションから着想を得たのですが、今年2〜3月に行われた24年秋冬コレクションを見て「やはりこれだ!」と合点のいくショーに出合いました。それはバレンシアガ24年冬コレクション。クリエイティブディレクターのデムナが語った言葉に “とっておき”の理由が見つかりました。

「ファッションとは何か? 私は誰のために仕事をしているのか? ファッションだけで十分なのか? コンテンツが飽和しているこの世界で、十分なものなどあるのだろうか? 何が十分なのか? 重要なのは、必ずしも答えを見つけることではなく、問いかけのプロセスそのものなのだ」。

バレンシアガという老舗メゾンのコレクションを毎シーズン生み出す彼でさえ問答しているのだから、既製服がクチュール化するのも無理はない。「ラグジュアリーとは一種の希少性。無限に手に入るものではない。今、本当に貴重かつ有限なものは「創造性」そのもの。創造性が新たなラグジュアリーの形になると信じている(中略)」。デムナにとってラグジュアリーは、価格帯や素材、一点モノという今までの“美の概念”ではなく、無形価値の「創造性」であると断言しています。それは受け取る側一人一人の理解度に託された、彼からのボールなのです。

バレンシアガ 24 Winterの招待状。ebayから届いたフォトフレーム。
バレンシアガ 24 Winterの招待状。ebayから届いたフォトフレーム。

バレンシアガ24年冬コレクションの招待状は、紙に刷られたものでも今どきのQRコードやeチケットでもなく、デムナがオンラインマーケットプレイス「ebay」で選んだキッチュなアイテムたち。小誌のもとに届いたのは「フォトフレーム」でしたが、レースのハンカチや陶器製のフィギュアなど、異なるガジェットがそれぞれの手もとに届きました。まるで、世の中にあふれかえっているもの(=誰かの思い出)を循環させませんかと、アップサイクル的アクションを起こしているようで、コレクションの意図やコンセプトが隠されているようでした。

ショーの終わりは、在庫か放出品?と思わせるようなブラジャーをドレスのように配置しつなぎ合わせて仕上げたブラドレスや、ドレープを付けた布地から服を生み出し半透明のテープでスタイリングを仕上げたドレスなど、自由な創造から無二のコレクションを生み出していました。問いかけのプロセスがあらゆるところにちりばめられ、同時に見る側はそこにストーリーが隠されていることを知るわけなのです。すべては「創造性におけるストーリーテリング」。まさに、とっておきとは、そのストーリーがあるかないかなのではないでしょうか。

今号の特集で「あなたの一生もの見せてください!(本誌 p.94〜)」で6名のファッショニスタの皆さまに、自分にとっての“一生もののとっておき”を一点選んでもらいました。それぞれまったく異なるものを披露してくださったのですが、なぜそれを選ばれたのか、そこにはそのものとの“とっておきのストーリー”が隠されていました。

私の“とっておきの一点“は、トム・フォード時代のサンローランのフェザードレス。繊細な素材のため着ると壊れてしまいそうで、実際に一度も着用できていません。一針ずつ夢を込めて仕上げられたような美しさに一目惚れ。未使用な上に今後も着用しないと思いますが、絶対に手放さない大切な一着です。見るたびにうっとりしています。

ファッションの在り方を考えなくてはいけないという時代に突入しました。だからこそ“とっておきの一点”に出合い、物語を紡げる人でありたいですね。

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Profile

田中杏子Ako Tanaka 編集長。ミラノに渡りファッションを学んだ後、雑誌や広告に携わる。帰国後はフリーのスタイリストとして『ELLE japon』『流行通信』などで編集、スタイリングに従事し『VOGUE JAPAN』の創刊メンバーとしてプロジェクトの立ち上げに参加。紙面でのスタイリングのほか広告キャンペーンのファッション・ディレクター、TV番組への出演など活動の幅を広げる。2005年『Numéro TOKYO』編集長に就任。著書に『AKO’S FASHION BOOK』(KKベストセラーズ社)がある。
Twitter: @akotanaka Instagram: @akoakotanaka

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