【Editor’s Letter】「花鳥風月」に願いを込めて。
2024年2月28日(水)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2024年4月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。
昨年9〜10月に発表された2024年春夏コレクションでは、大きな草木が描かれたドレス、大小のカラフルな花々に彩られたツインセット、3Dプリントから生まれた花モチーフのメタルトップ、鳩のモチーフをつなぎ合わせたドレスなど自然を表現したものが多く、強い憧れや思いを感じました。自然に回帰し、あるいは回想し、謳歌したいという思いです。もちろん、私たちもその中の一員として自然を享受して生きています。
そこで特集のタイトルを「自然礼賛(自然の素晴らしさや恵みを褒め称える)」と決めて作業を進めていました。ところが校了間際に「花鳥風月」に変更することにしました。元旦のその日に発生した「令和6年能登半島地震」を考えてのことです。多くの方が被害に遭われ、家族や友人、知人を失い、家や職、日常が奪われ、いまだに避難所生活を強いられる被災した方々が多く残されています。悲惨な事態に言葉を失い、胸を痛めたのですが、これもまた「自然」が与えた現実であり、牙をむく自然を相手に私たちはなすすべを失い、抗えないことを痛感します。実際、あの災害を目の当たりにして自然の無情さに憤りを感じました。日本史をたどってみても自然災害は常に発生し、日常を奪ってきました。自然が起こす悲惨な現実から、私たちは何を学ぶべきなのかと焦燥すら感じます。
日本には古来から言い伝えられてきたアニミズムがあります。「すべてのものに霊や魂が宿っている」という考えとそれに伴う風習です。その視点から見ても、自然は礼賛すべき対象であると同時に恐れおののく存在で、畏怖の念をいつ何時も忘れてはいけないと思い知らされます。
長期でいただいた今年の冬休みに『今日、誰のために生きる?』(廣済堂出版)という心温まる本を読みました(下記にて紹介していますので機会があればぜひ手に取って読んでみてください)。そこで紹介されていたのはアフリカ・タンザニアのブンジュ村で現在も続く幸せに過ごすための村の風習や生き方、考え方についてでした。そしてそれらは日本人から教わり、いまだに継承されているということでした。詳細はぜひ本を読んでいただきたいのですが、「日本人は真のアニミズムで、自然災害がこないように自然に対して手を合わせるという心がみんなの中にもある」と書かれていました。今の私たちには自然への感謝が薄いとか、アニミズムが足りないといっているわけではないのですが、あまりにも個々の利潤を追求しすぎているのではないかと心痛し猛省してしまいます。また「日本人は地球上で虫の音がメロディーとして聞こえる、虫と会話ができる稀有な存在だ」とも書かれていました。私たちは虫の鳴き声で季節を感じ、癒やしを得ますが、アニミズム的発想がない人たちにとって、虫の鳴き声はただの“雑音”でしかないそうです。「虫の知らせ」は良くないことが起こりそうと感じる予感や第六感ですが、それを感じるアニミズムを研ぎ澄ませられているのか自問してしまいます。「地球に迷惑をかけっぱなしに見える問題児・人間が背負っている役割は、『愛すること』と『祝福すること=感動を表現すること』なんだ」と巻末に綴られていました。「花鳥風月」は“自然の美しい風物。また、それを鑑賞したり、材料にして詩歌などを創作したりする風雅の遊び”(出典『精選版 日本国語大辞典』小学館)で、冒頭に記したコレクションのデザイナーたちは、感動を表現し共有するという役割をまっとうしているのだと嬉しくなりました。
さて、今後も想定される地震や災害が皆無ではない今、自然の脅威から何を学ぶのか、本気で考えなくてはいけないときだと感じています。今号の「花鳥風月」特集では、素敵な自然との対話やアート、ファッションをピックアップしていますが、それらを楽しんで読んでいただく前に、この願いを伝えたくしたためました。
最後になりましたが、震災で家族、友人、知人を亡くされた方々や被害に遭われ日常を失った皆さまに、心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。
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