【Editor’s Letter】東京が面白い!
2023年11月28日(火)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2024年3月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。
「とにかく東京が面白い!」と噂されるこの街の魅力っていったいどこにあるのだと思いますか。思い返せば私がイタリアはミラノでファッションを学んでいた頃。日本はバブル真っただ中で、仕事で知り合うクリエイターがこぞって「あなた日本人? 東京サイコーだよね。また行きたい!」と言うのです。残念ながら大阪生まれの大阪育ち、大阪を出てイタリアに飛んだ私にとって、東京はほぼ異国の地。テレビで見るだけの、なんにも知らない街でした。海外にいたから当然とはいえ、当時の“スーパー東京”を知らない、残念な置いてけぼり日本人でした。
俯瞰してこの街を見たときに感じるのは、とにかくカオスな中にも秩序が存在していて、その魑魅魍魎とした空気の中からいつの間にか何かが生まれているというところです。そう。何かを生もうと動いているのではなく、勝手に生まれてくるのが東京なのです。そういう意味でもこの街は、常に何か新しいものが始まっているので、来日観光客の皆さまに喜んでもらえるエレメントや話題に尽きないのです。 新しいものを生み出すときのルールは「とにかく今はこれが面白い!」ということだけ。適度に他人の目があって、集団意識の強さがあれば流行りは生まれるようです。その流行りが場所や時間、出来事によって形や色、香りを七変化させていきます。もっといえば半径1km(いや、もっと狭いかも?)の中の流行りにとても敏感で、その流行りを共有するコミュニティがしっかり出来上がっていることがポイントです。欧米は個々の主張が強く、人と同じをダメとする風潮があるだけに、個性がぶつかり合いムーブメントが起きにくい傾向にあります。なので来日観光客にとって、いつ立ち寄ってもそのときどきの「流行り」があるこの街は、面白くってレアなのでしょうね。
その流行りをただの一過性のものではなく、本物にしているのが日本人のオタク気質です。掘って掘って掘りまくって自分だけのウハウハポイントを見つけるのが大好きな気質なので、ただ流行っているということではなく、そこに驚きの裏打ちポイントがあるわけです。今回の特集で取材をさせていただいた「2024年は東京のこの街に注目!(本誌p.92〜)」で名前が挙がった羽根木と幡ヶ谷。言葉は少々わるいですが、いつ頃から注目の場所だったのでしょうか。幡ヶ谷は新宿にも近くその通り道のイメージですし羽根木は閑静な住宅街以上でも以下でもなかったように記憶しています。そこが注視のエリアと化すには都市計画や素敵な建物、オシャレなカフェが出現するだけでは形にならない大切なエレメントがあるのです。それこそが「集まる人=コミュニティ」です。コミュニティこそが地域を活性化し、オシャレに素敵に街を育むのだと新旧注目エリアを見ていると実感します。
こんな東京を、大の東京好きの海外クリエイターはどう見ているのでしょう。
「海外クリエイターに聞く“お気に入りアドレス”(本誌p.106)」で取材をさせていただいたLOEWEと自身のブランドJW アンダーソンのクリエイティブディレクターを務めるジョナサン・アンダーソンの言葉にハッとさせられました。「日本は、刀剣や茶器などが重要文化財とされ、何か新たに作ったものが国宝に選ばれるシステムがありますよね。これは長く作り続けることへのリスペクトと、物事は必ず良い方向へ向かっていく楽観主義的な思想を感じます。(中略)自分が世界の中でどこにいるのかをさまざまな文脈から再解釈でき、哲学を感じることができると考えています」−すべてはこの言葉に集約されているのではないでしょうか。
この街は常にスクラップ&ビルドを繰り返し、新旧の建物が混在し、近未来的な街角の合間に築100年はたつであろう日本家屋が並び、時空を超えてお互いをつなぎ留めるように存在しています。無秩序に広がる特有ともいえる「ルール」にこそ東京の面白さや新しさがあるのです。きっと来年、再来年の東京特集は、今号では名前こそ挙がらなかった新スポットに出合えるのでしょうね。2024年東京の現在地を、ぜひ!
小誌でも幾度も素晴らしい写真を撮影してくださった篠山紀信先生が、ご逝去されました。
紀信先生とは撮影のほかにも写真展のモデレーターのご依頼をいただいたり、
お食事をご一緒したり、公私に渡りたくさんお世話になりました。
昭和〜平成〜令和と時代の移り変わりを鋭い視点で切り撮り、
どの時代に於いても“紀信流ファインダー”を色濃く残せる写真家でした。
もっとたくさんご一緒したかったです。多くを学ばせていただきました。
ありがとうございました。
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