【Editor’s Letter】心のラグジュアリーにこそ真価あり、それが私のクワイエットラグジュアリー | Numero TOKYO
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【Editor’s Letter】デザイナーたちの探究心に触れ、魅了された2024SSパリコレクション

2023年10月27日(金)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2023年11月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。

3年半ぶりのパリコレクション(以下、パリコレ)に参加してきました。前回のパリが2020年の2月末〜3月、パンデミックが世界に蔓延していくタイミングでした。あれから多くの出来事を経て、世界中が新しい局面を迎えましたが、今季のパリコレではいつもと変わらぬパリに出合え、うれしくなりました。まるで時間だけが猛スピードで流れたようでしたが、ランウェイを取り巻く周辺の様子には明らかに変化があったのです。一つ目は招待客の顔ぶれがセレブリティであふれかえっていたこと。二つ目は、会場の外いっぱいにファンが集まりお祭り騒ぎが起こっていたこと(会場のエントランスにたどり着くまでに、詰めかけた人を掻き分けたトンネルのような“人間ロード”を延々と歩くのですが、その“人間ロード”の入口にさえたどり着くまでにかなりの時間を要しました)。三つ目は最新コレクションをレポートするのみならず、招待されたセレブリティをパパラッチしていち早くSNSにアップするという新たなミッションが課せられたこと。3年半前のパリコレではそこまで加熱していなかったように記憶しています。大騒ぎになるセレブリティのメインはK-POPアイドルの存在です。加えてC-POP(中華圏ポップ)とT-POP(タイポップ)。アジア圏のアイドルスターが世界を席巻し欧米の若者から声援を送られる様子に心踊る思いになると同時に、J-POPも海外に向けて輸出するぐらいの国策にすればいいのにと我が国の宝が独自でしか海外発信できていない状況を憂いてしまいます。これがパンデミック明けのパリコレクションの現況です。

さて、そんなお祭り騒ぎのパリコレクションでしたが、今号のテーマ「探究心」をしっかり感じさせてくれたデザイナーやメゾンがとても多かったことにも喜びを感じました。モノづくりへの情熱と探究心は健在で、さらなる深掘りに敬意を表します。

パリコレで出合った「探究心」の数々。マルシェが登場したステラ マッカートニー。

ステラ マッカートニーのショー当日は雲ひとつない青空。見慣れたパリの街角に「ステラズ サステナブル マーケット」なるマルシェが出現しました。ずらりと軒を並べるのは、デッドストックファブリックに誰もがアクセスして調達できる、LVMHが開設したオンラインプラットフォーム「Nona Source」、海洋プラスチック問題の解決を目指す「Ocean Bottle」、海藻のバイオポリマーとグリーンケミストリーを組み合わせて生まれた繊維「KelsunR」、綿を畑から管理し、紡績、織布、染色、デザインまで一貫して行う「Soktas」、地球と動物に優しく、品質とトレーサビリティを保証する「NativaR」、ぶどうの絞りかすを使ったヴィーガンレザー「VegeaR」、サステナブルな基礎化粧品「STELLA by Stella McCartney」、植物由来のセルロースからスパークリング素材やスパンコールを開発する「Radiant Matter」、ほかにもステラ マッカートニーやアディダス バイ ステラ マッカートニーのアーカイブ、掘り出し物の子ども服やヴィンテージレコード(もちろんパパ、ポールのレコードも!)、堆肥化可能で有機物ベースの3D機器から生まれたアート作品まで、彼女が数十年間取り組んできた地球環境保全のための活動を担う企業や店舗の数々。サステナブルの先駆者ならではのラインナップにステラの探究心とその功績を感じずにはいられませんでした。これから始まるショウに登場するアイテムが、このマルシェに並んでいるものでできているという説明にもまた心を動かされました。日々の生活の中で何を選ぶかで、活動に参加できることも実感し、ステラの探究心とその成果に感謝の念すら覚えたショーでした。


「明るい未来を希望する気持ちで作りました」と語った川久保玲のコム デ ギャルソン。

〈左から〉モノの見方や視点を変える還元主義のもとコレクションを発表したロエベ。女性のボディは崇高である、という発想から仕上げられたヴァレンティノのコレクション。彫刻のような立体的な刺繍に感激。

ほかにも常に新しいデザインにチャレンジし続けるコム デ ギャルソンやオーストリッチの羽をほぐしてつないで600時間かけて仕上げたドレスや1000時間かけて縫われたビーズドレスなど職人技を展開するロエベ、手作業で花びらや葉の形にカットした布を折り畳み縫い合わせたヴァレンティノのドレスは裏面には同色の布を貼り、さらには中側にビーズ刺繍を施して立体感を生み出すなど、ため息が出るほどの飽くなき探究心に触れることができ、ファッショニスタとして収穫の多いパリコレでした。今号の特集「高まる探究心」(本誌p.98〜117)でも心打たれる顔ぶれが登場します。ご一読を!

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Profile

田中杏子Ako Tanaka 編集長。ミラノに渡りファッションを学んだ後、雑誌や広告に携わる。帰国後はフリーのスタイリストとして『ELLE japon』『流行通信』などで編集、スタイリングに従事し『VOGUE JAPAN』の創刊メンバーとしてプロジェクトの立ち上げに参加。紙面でのスタイリングのほか広告キャンペーンのファッション・ディレクター、TV番組への出演など活動の幅を広げる。2005年『Numéro TOKYO』編集長に就任。著書に『AKO’S FASHION BOOK』(KKベストセラーズ社)がある。
Twitter: @akotanaka Instagram: @akoakotanaka

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