【Editor’s Letter】心のラグジュアリーにこそ真価あり、それが私のクワイエットラグジュアリー | Numero TOKYO
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【Editor’s Letter】心のラグジュアリーにこそ真価あり、それが私のクワイエットラグジュアリー

2023年9月28日(木)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2023年11月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。

ファッション界ではすっかり定着した “クワイエットラグジュアリー”。今号では「私の」と題してNuméro TOKYO流のクワイエットラグジュアリーを特集します。

ワンモアアクセをテーマにした169号の編集長日記でも触れたのですが“クワイエットラグジュアリー”とは、上質な素材に丁寧な縫製が施され、エフォートレスで主張しないタイムレスなラグジュアリーを指しています。そもそもはY2Kからの流れで火がついたロゴマニアやド派手ファッションに対抗したスタイルとして台頭してきたのですが、ミニマリズムに代表される装飾をいっさいがっさい省いたスタイルでもなく、ノーマルを突き詰めたノームコアでもありません。見た目は控えめだけど“美への探究心”は旺盛で、ホンモノへのこだわりも強いのです。だからこそファッションスタイルのみならず、クワイエットラグジュアリーはライフスタイルにも当てはまるのです。ホンモノの“ラグジュアリー”とは“心のラグジュアリー”に起因します。それがあってこそ育まれるのです。

(上段左から時計回りに)小宮璃央×川後陽菜が表紙の限定版¥890 通常版¥890 BE:FIRSTが表紙の特装版 ¥1000 ローラが表紙の特別版¥890
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まずはいったん「ラグジュアリー」とは何なのか?について考えてみたいと思います。直訳するとファッション用語では「贅沢品」や「高級品」を指します。ラグジュアリーブランドから生まれた商品はこの「高級品」にあたり、言わずもがなですが高額です。なぜ、こんなに高額なのか。そのものが生まれる背景やバックグラウンドストーリーを知ると納得します。ラグジュアリーブランドを経営する雇用主は、敬意をもって職人たちの仕事環境や生活水準を守り、労働側である職人は自分たちがブランドを支えている、という意識を持ち、揺るがない信頼関係があります。そんな背景で商品が生まれるので値段は安くありません。また、それが何十年も何百年も継続しているのです。ただ高いのではなく職人や働く人の時間と労力に対価が支払われ、さらには技術を継承させるための社会活動も行われ、私たちのショッピングは、賛同して支える、という行為にもつながるのです。ラグジュアリービジネスの本質について「古泉洋子の読むモード〜“クワイエットラグジュアリー”に流れる美しい精神」(本誌p.98〜)をぜひご一読ください。さらに理解が深まります。

さて、もとはロゴマニアやY2Kからのド派手ファッション「ラウド」への対抗として台頭してきたクワイエットラグジュアリーですが、小誌が提案するスタイルは、自己流のラグジュアリーでいいと定義づけております。ただし、心のラグジュアリーは必須条件です。

母から譲り受けたモノの中で、私にとってラグジュアリーな逸品はこちら。貝殻に図柄を掘り出した工芸品のひとつともいわれる「カメオ」(左)と、1cm角に225針を手織りで仕上げる「Leu Locatiのプチ・ポイントバッグ」。Leu Locatiは1908年の創業以来イタリアはミラノで100%ハンドメイドを貫く老舗バッグ店です。どちらも仕上げまでに長時間を要すラグジュアリーな逸品。

先日、姉妹が集まり、2020年に他界した母の遺品分けをしました。部屋を片付けながら、そのモノに刻まれた思い出話で盛り上がり、これは姉、これは妹、これは私と三人で欲しいモノや似合うモノを分け合いました。たくさんの素敵なモノと思い出を残してくれた母に感謝をしながら分け合う時間はとても有意義でした。中にはラグジュアリーブランドのものから、ブランド名はないけれど母が大切にしていたモノまでさまざまでした。父と海外旅行で訪れたヴェネツィアやフィレンツェの街で見つけた素敵なモノ、ひんぱんに海外出張に行っていた父が帰国時に持ち帰り贈ったプレゼントなど、二人の大切な思い出とともに受け継ぐことができました。これこそラグジュアリーな行為だなと誇りに思い、誰かにつないでいける価値ある買い物をしなくてはと、母の残したモノから多くを学びました。

クワイエットラグジュアリーは、心を満たしてくれるタイムレスなもの。ラグジュアリーという言葉に新たな定義を加えたいですね。

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Profile

田中杏子Ako Tanaka 編集長。ミラノに渡りファッションを学んだ後、雑誌や広告に携わる。帰国後はフリーのスタイリストとして『ELLE japon』『流行通信』などで編集、スタイリングに従事し『VOGUE JAPAN』の創刊メンバーとしてプロジェクトの立ち上げに参加。紙面でのスタイリングのほか広告キャンペーンのファッション・ディレクター、TV番組への出演など活動の幅を広げる。2005年『Numéro TOKYO』編集長に就任。著書に『AKO’S FASHION BOOK』(KKベストセラーズ社)がある。
Twitter: @akotanaka Instagram: @akoakotanaka

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