【Editor’s Letter】デイリードレスは、気分を高揚させるおまじないのような存在。
2023年 3月28日(火)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2023年5月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。
今号の特集はデイリードレスです。「デイリードレス」とは造語ですが、編集部では“日々のドレス”という意味で定義してみました。ドレスと聞いて思い浮かべるのはカクテル、イブニング、フォーマルといったゴージャスなもの。ですが、欧米でいうところの「ドレス」には、和製英語の「ワンピース」、いわゆるカジュアルなものやミニ丈ワンピも含まれます。そんな理由からグローバルな視点で「デイリードレス」と名付けました。デイリードレスは私たちを、スペシャルでエネルギッシュな日常へと誘ってくれます。
以前、イタリアの男性は女性を見れば100%リアクションをするという話を書きました。ウィンクしたり冷やかしの声を上げたりは日常で、どうやら声をかけないと失礼だ、という認識なのだそう。美しいデイリードレスを身に纏おうものなら冷やかしが倍増するので、20代前半という多感な時期をイタリアで過ごした私はあえてマニッシュなパンツルックを着用していました。私が帰国した1991年の日本は、80年代のバブルをまだまだ引きずっていた狂乱の時代でもあり、セクシーでフェミニン、そして元気にデイリードレスを着こなす女性が多かったように思います。デイリードレスを着こなす女性は美しさを放ち、その美しさがドレスでさらに際立つのだと雷に打たれような気づきがありました。ドレスに憧れを抱き、あっという間にクローゼットがドレスだらけになったことを記憶しています。
ロング、ショート、フェミニン、カジュアル……ありとあらゆるデイリードレスに魅了され纏っていた私は、あるとき、夜中に放映されていた通販番組に目を奪われました。そこに映っていたのは、女性の巧みな解説と手さばきで、次々と様相を変えていくミラクルな一着のドレスでした。その名もずばり「インフィニティドレス」。一枚のドレスがさまざまな着方で表情違いのドレスに変貌する、あれです。もちろんポチりました(って時代じゃないですね。当時のオーダーは電話でしたから「もしもし、それください!」(笑))。心待ちにしていた数日後、憧れのインフィニティドレスが届きました。デザインや形、素材に至るまでを隈なくチェック。チューブ状のシンプルな長い丈のドレスの一端は2本に枝分かれしていて、その2本を首や肩、ボディに巻き付けたりしながら、テレビの女性の鮮やかなテクニックにならってあれやこれやと試すもののしっくりこないのです。巻き方や着方が悪いのか、そもそもそういうものなのか。細部に至るまで美しくデザインされ立体的に裁断されたドレスとは異なり、テロンとしたチューブドレスは、ボリュームのある体にこそフィットはするものの、貧相なボディには味気のない仕上がりなのです。結果、日の目を見ることなくクローゼットの肥やしと化してしまいました。あ〜もったいない。まあ、当時の私の“探究心旺盛なスタイリスト魂”的には、実際に手にしたかったので良しとします。
さて小誌が運営するオンラインストア「Numero CLOSET(ヌメロ クローゼット)」が3月22日にグランドオープンいたしました。小さなサイトですが素敵なものを厳選してお届けしております。そこで販売するアイテムたちを「私たちがいま本当に欲しいものは」(本誌p.92〜)で紹介しています。また「注目ブランドがブラックドレスに宿すアイデンティティ」(本誌p.70〜)で紹介しているデイリードレスのうち「HAENGNAE(ヘンネ)」と「PHOTOCOPIEU(フォトコピュー)」もサイト内で販売しておりますのでぜひ覗いてみてください。
私のスタイリング法は、ドレスを決めたらそのドレスに合わせる足元をヒールかスニーカー、またはブーツかフラットサンダルなどから選びます。足元が決まれば方向性が決まるので、それに合わせてヘアスタイルを決め、最後に鏡の前で全体のバランスを見ながら重ねるアクセサリーを選びます。合わせるもので表情を変えてくれるデイリードレスは日々の勝負服(言い方が若干、古いけど)。今年は煌びやかな素材やカラフルなもの、プリント素材にも興味津々です。暖かくなってきたので、軽快な気持ちでデイリードレスを楽しみませんか。
2年ほど遡って、マイ・デイリードレススタイルを集めました。なんだかウキウキして見えますね。下段中と右写真の2点は、昨年秋の展示会でオーダーした2023春のデイリードレス。左からLautashi、TAKAHIROMIYASHITA TheSoloist. 早く届かないかな〜。
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