クリエイターが宇宙を目指すのは、そこにすべての答えがあるから。
2022年11月28日(月)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2023年1・2月合併号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。
2022年5月、イタリアはプッリャ州にGucciの2023クルーズコレクションを拝見しに久しぶりの海外渡航をしました。長靴の踵あたりに位置するプッリャ州は南イタリア特有の地中海性気候で、新鮮かつおいしい野菜や魚介類も豊富。さらにはワインの産地でもあり食文化においても豊かな地域です。また、世界遺産にも登録されているとんがり屋根の家「トゥルッリ」が有名なアルベロベッロや、円形の白い町ロコロトンドなど風情あふれる古都巡りの観光地としても賑わっています。今回のコレクション会場は、アンドリア市街から南へ約20km ほど離れた国立公園内にある世界遺産「カステル デル モンテ(以下:デル・モンテ城)」。午後にホテルを出て城を目指し、会場に着いたときには黄昏から一気に満月が青白く光る夕闇へと時が流れ、ライティングが施されたデル・モンテ城は、古都でありながらSF感覚を呼び覚ますには十分なほどにミステリアスな空気を放っていました。立役者でありクリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレは、地球上にいる私たちが宇宙に思いを馳せられるような時空間を演出し、ショーが終わる頃に、屋外プラネタリウムよろしくプロジェクションマッピングでデル・モンテ城の外壁に星座を浮かび上がらせました。まるで夜空と一体化しているような演出に気分が高揚したのを思い出します。テーマはずばり「COSMOGONIE(コスモゴニエ)」。意味は「宇宙進化論・宇宙元年」で、「宇宙の起源を研究する学問。現在の宇宙の観察は未来の予測を可能にするだけではなく、宇宙が始まった頃の昔の出来事についての手掛かりを与える (Wikipediaより)」だそうで、言い換えれば昔の出来事も現在も未来も同じ次元、まさにここにある、という意味につながります。宇宙を思うことは未来を思うこと。未来を思うことは今を思うことなのではないでしょうか。ショーの詳細は「宇宙に魅せられたデザイナーたち」(本誌p.70〜)をご覧いただくとして、特筆したいのがこのショーでいただいたギフトです。届いた招待状に並ぶ9桁の数字「254300648」。招待状に記載されたサイトにアクセスして、数字を打ち込むと「Ako T.」の名前が付いた星が「Aquarius 23h41m6.9s, -24°9’37″」という数字とともに水瓶座を形成している星の一つだという証明が表示されます。こんな桁違いのギフトをいただけるなんて!とかなりの驚きでしたが、もちろん、本当に名前が付いていたとしても、その星を手に取ることも人に見せることも不可能です。ある種の概念的発想ではありますが、宇宙に思いを馳せ自分自身の立ち位置(現在地)を確認するロマンティックなアクションにつながりました。
Gucci 2023クルーズコレクションの招待状とウェブ上で確認できる、私の名前が付いた星の証明。
デルモンテ城の塔に入り上を見上げると、八角形に切り取られた空を望むことができる。この日は美しいライティングが施されていました。星空をプロジェクションマッピングで覆ったデル・モンテ城。
私たちは常に答えを探して生きています。問いを立て、その答えを見つける作業です。しかし答えはすべて宇宙にある、ということをクリエイターはみな知っていて、だから宇宙に近づきたいと思うのではないでしょうか。
今号ではSF(サイエンスフィクション)も取り上げています。(本誌p.76〜)。「SFとは人間と宇宙におけるそのあり方に対する定義を追求するもの」とも日本大百科全書(小学館刊)に明記されています。ひと昔前の“宇宙”は、未確認飛行物体や頭でっかちな宇宙人が征服のため、もしくは対話のために地球にやって来るといった内容でしたが、今年現在の“宇宙観”はそんな短絡的な関係ではないように思います。今号で特集したのはSFの世界と、これからの未来を描く宇宙。頭を柔軟に、馬鹿げた話 ! と一蹴してしまわずに、自分の中の宇宙を見つけられれば、答えが見つかるのではと思っています。宇宙的発想でエディターズレターをしたためました。ご理解不能ならごめんなさい!
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