「推しアート」は鏡のようなもの。“好き”に向き合うと、自分自身も見えてきます。 | Numero TOKYO
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「推しアート」は鏡のようなもの。“好き”に向き合うと、自分自身も見えてきます。

2022年4月27日(水)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2022年6月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。

(左)通常版 ¥880(右)ENHYPENが表紙&別冊付録付きの特装版 ¥980
(左)通常版 ¥880(右)ENHYPENが表紙&別冊付録付きの特装版 ¥980

幾度となくアート特集を企画してきましたが、今号は「推しアート」と題して、個人的に買いたい、寄り添いたい、応援したいアートについて特集を組みました。

アートには、脈々と受け継がれてきたアカデミックな文脈があります。現代アートもまた、外部から見ると特権分野の中だけで回しているような閉塞的な印象です。小難しそうだし何よりも値が高い。買えそうな作品となると玉石混交でごまんとあるので良い作品を選べるか不安。そもそも何を買ったらいいのかわからない。このようなアレルギー反応を起こしている人も少なくないはずです。とはいえ最近ではテレビでアート番組を見る機会も増え身近になりました。このタイミングで「(個人的に好きな)推しアート」を展開するのもいいかなと考えました。

ご登場いただいた皆さん、アートを購入するきかっけはその作品に「恋をした」でした(本誌p.75〜)。作品に惹かれ、そばに置きたいという極めて個人的な感情です。作品の価値が将来上がるかどうかの投資目的ではないので、買った後に失敗したということにはなりません。作家の有名無名は関係なく作品に恋をして、手の届く金額なので応援も込めて購入したという純粋な“推し活”です。部屋に飾って日々眺めるだけで作家を支えているというパトロン的な感覚で豊かな気持ちを味わえるうえに、作品からは癒やしや愛を注いでもらい、生活に彩りが添えられます。万が一、後に世界的に注目され高値で売買される作家に成長したら、推した喜びもひとしおです。値が上がりすぎてもう買えないという悲しみもありますが、値が上がる前に所有できたことと価値が上がった喜びは格別なはず。作家は、初期に支えてくれたファンを大事にしますので、直接話ができる作家在廊の個展は狙い目なんですよ。

さて、気になる作品(=作家)を見つけたら即購入もいいのですが、踏み切れない人はぜひ作品が生まれた経緯や作家の背景を掘り下げて調べてみてください。意外なストーリーに出合えたり、作家の思いに触れることもでき楽しみが倍増します。今号の特集に登場する作品は持ち主の極めて個人的な“好き” を集めていますので、参考にしてみてくださいね。

いま気になるのは、先日まで表参道のスパイラルガーデンにて展示されていた『OKETA COLLECTION: THE SIRIUS』展で出合った加賀 温さんの作品(上段2枚)。さらには加賀さん所属のMAHO KUBOTA GALLERYのサイトを覗いて出合った富田直樹さんの作品(下段)。所有欲爆発しそうです。

最近話題のNFTアート、Non-Fungible Token/非代替性トークンのアートが巷を賑わせています。ブロックチェーン技術を用いて唯一無二のオリジナル作品であることが証明できるNFTにより、新しいアート産業が生まれました(本誌p.98〜)。ご多分に漏れず、私も所有者の一人です(所有者をホルダーと呼びます)。詳細は、8歳の息子さんのピクセルアート作品『Zombie Zoo』をNFTで販売したという草野絵美さんとの対談をご一読ください(本誌p.96〜)。ホルダーになったのは「欲しい!」と思った作品に出合ったからですが、先日発表したMetaGallery by Numéro TOKYO(本誌p.102〜)をもっと理解するための自己投資でもありました。体験してわかったことがたくさんあります。NFTはアート分野とはいえ特殊です。作品を作って売るだけでは伸びていかず、次なる“ロードマップ”が必要とのこと。所有したらホルダー同士がコミュニティをつくり、作品を「みんなで育てる」感覚が強いのもNFTアートの特徴です。NFTについても細かく解説をしていますので、そちらもぜひご覧になってくださいね。

今号は、いままで取り上げてきた高値で手が届かないアートの話ではなく、身近にある素敵なアート作品の特集です。まだまだ出合っていない作品がたくさんあり、出合いを求めて探索しようと考えています。皆さまも気軽な気持ちで「推しアート」を見つけてみませんか。

Numéro TOKYO編集長 田中杏子

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Profile

田中杏子Ako Tanaka 編集長。ミラノに渡りファッションを学んだ後、雑誌や広告に携わる。帰国後はフリーのスタイリストとして『ELLE japon』『流行通信』などで編集、スタイリングに従事し『VOGUE JAPAN』の創刊メンバーとしてプロジェクトの立ち上げに参加。紙面でのスタイリングのほか広告キャンペーンのファッション・ディレクター、TV番組への出演など活動の幅を広げる。2005年『Numéro TOKYO』編集長に就任。著書に『AKO’S FASHION BOOK』(KKベストセラーズ社)がある。
Twitter: @akotanaka Instagram: @akoakotanaka

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