ロゴは子どものような存在。一緒に育てて成長するもの。
2021年8月27日(金)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2021年10月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。
今号はロゴの話です。いきなりロゴ?と思った方もいるかもしれませんが、ロゴはそのブランドが表現してきた“アイデンティティ”や“哲学”、“歴史”や“時間”が刻まれている愛らしい存在です。個性的なたたずまいが目に飛び込んでくるのですが、実は“文化的な存在価値”を背負っています。どーんと大きく描かれた主張あるものから、小さくデザインされたプチロゴまで、ロゴは多種多彩です。大きさの差はあっても、ロゴとしての威力に違いはありません。そんな誰もが目にする馴染みあるロゴから、ロゴを生み出したグラフィック・デザイナーまでを広く特集してみました。
ポロシャツの胸にワンポイント、ソックスのサイドにワンポイント、襟元の後ろにワンポイント、キャップのフロントにワンポイント、ファッションアイテムを見てもいろんな箇所にそれぞれのロゴが存在しています。スニーカーや靴の裏底にもブランドロゴが隠されているんですから愛らしいです。ワンポイントのみならず、全面に描かれたモノグラムロゴもたくさん生まれています。包装紙もショッパーも、リボンにだってロゴがあしらわれ、デザイナーが変わればロゴマークや書体が変わることだってあるぐらい、そのブランドや企業の“現在(いま)”を表す窓口になっています。
ここにきてふぅと一息スマホを手にすると、アイコンになったロゴマークが画面にズラリと並んでいるのが目に飛び込んできました。そっか。アイコンもロゴ化されているのだ。こりゃ、相当の数のロゴが存在していて、頭の中のタスクがパンク寸前です。
数多あるロゴマークから記憶に残るものを生み出してきたグラフィック・デザイナーの方々に取材を依頼しました。資生堂の企業文化誌『花椿』のデザインや東京都現代美術館(MuseumofContemporaryArtTokyo)のロゴデザインを手がけた仲條正義さんは、自身のデザインのクセを全面に出す!という哲学があるそうです。もちろん「ロゴには愛嬌がないと!」とごもっともなお言葉。また子どもの名前を付けるぐらい責任がある仕事、と話す森本千絵さんは、ロゴはその企業が育てていくのだという考え。いいロゴかどうかは後の企業の発展いかんによるのだと、かじられたりんごマークのアップル社を例に出して語ってくださいました。
ロゴというくくりにするのは乱暴かもしれませんが、東京オリンピック2020の開会式で、青と白の衣装に身を包んだパフォーマーが50の競技を表現したピクトグラムを再現するパフォーマンスを繰り広げ、そのアイデアの斬新さが話題になりました。三次元のスポーツを二次元のピクトグラムでロゴ化し、さらに三次元の肉体で表現するといったパフォーマンスはなかなか興味深く、頑張っているパフォーマーの動きに、ただただ笑ってしまいました。笑いながら、ロゴマークの広がる可能性を見ていた気がします。
クリエイターの皆さんに“推しロゴ”を見せてもらったのですがそのこだわりと探究心に感動しました。大学のカレッジロゴ、アメリカ合衆国の郵便公社のロゴ、ANAやYAMAHAやJohnson&Johnsonなどの企業ロゴからNASAや、北品川の銭湯ロゴまで、多方面にファン層が拡大しています。推されると欲しくなる、ロゴはやっぱり魅力的ですね。身の回りにそっとたたずみ主張する、ロゴマークを見直してみませんか。
Numéro TOKYO編集長 田中杏子