Fashion / Post

靴を好きすぎる私が、華奢なピンヒールをやめた理由。

2021年7月28日(水)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2021年9月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。

(左)通常盤 ¥730 (右)JO1の表紙&別冊付録付きの特装版 ¥980
(左)通常盤 ¥730 (右)JO1の表紙&別冊付録付きの特装版 ¥980

イタリア人は、靴への執着がすごい。だから良い靴はすべてMade in Italyなのか、Made in Italyだから靴への思いが強いのか。どちらにしてもイタリア人は履いている靴で、その人のオシャレ度や懐具合、為人(ひととなり)や「階級」を推測するのだと思っている。学生の身分でイタリアにいた私は当然、ほとんど2、3足の靴を履き回す日々で、街ゆく人や知り合う人の視線が足下に向けられるたびに、冷や汗をかくほど恥ずかしい思いに陥った。なんとか綺麗な装いに見えるようにと靴磨きを怠らなかった記憶がある。だから靴磨きのセットは豊富に揃えたし、なんといっても得意なのだ。いや、同級生たちも靴を懸命に磨いていたので、無防備な学生がひとり入ってくると、みんなそのくたびれた靴に目が釘付けになったことも覚えている。靴好きが集まる地でファッションを学ぶ貧乏学生にとって、ショーウィンドウに並ぶキラキラした靴は憧れであり目標であり執念の先にある、すべてが詰まった美の象徴だった。言うまでもなく、ヒールの底が外れてカンカンと音を立てたり、マンホールに引っかかってレザーが破れているような、履きくたびれた靴とは無縁な女性になりたいと願って過ごしていた。

そんな私がいくばくかの余裕を手に、靴の所有に走ってしまうのは至極当然の成り行きだった。靴を所有できるということは、懐具合だけではない階級の高いオシャレな人を意味し、非の打ちどころのない完璧な女性へと一歩近づいたような気がしていたのだ。履かない靴をいくつも買い、磨いて愛でていた。靴にしてみたら失礼な話だ。

理想に近づくための靴コレクションをやめて、本当に履ける実用品を選ぶようになったのは、自分が思い描く虚実の差異がなくなったからかもしれない。靴を収納する場所にも限りがあるし、履かない靴を所有しなくても完璧な女性とはそういうことではない、という人間的な深みを学んだこともあり、多くの靴をチャリティに出品したり譲ったりして整理をした。とはいえ「撮影現場にもヒールで登場しますよね」「妊婦なのに高いヒールで闊歩していましたね」「自転車に乗るイベントだと伝えたのに、あこさんヒールで参加されていました」などと周囲を驚かせてきた。そんな私も最近は、アクティブに動ける重ためなワークブーツやスニーカーを主役にして実用に走っている。しかもスニーカー敬遠派だったはずの私がスニーカーな日々に突入という信じられない現実を味わい、自問自答すらしているのだ。確かにスニーカーって歩きやすい(そもそも運動靴だから当たり前だけど)。

(上)2004年11月に発売された『relax』(マガジンハウス刊)の「秋冬ファッション大特集です。大人になりましょう!」で取材されたときの一枚。数あるハイヒールの一部をフォトグラファーの若木信吾さん&ディレクションの山本康一郎さんチームに撮影してもらいました。(下)サンダルを美しく履くための、私のお気に入り足ケアグッズです。
(上)2004年11月に発売された『relax』(マガジンハウス刊)の「秋冬ファッション大特集です。大人になりましょう!」で取材されたときの一枚。数あるハイヒールの一部をフォトグラファーの若木信吾さん&ディレクションの山本康一郎さんチームに撮影してもらいました。(下)サンダルを美しく履くための、私のお気に入り足ケアグッズです。

ファッションのトレンドは、華奢で美しいハイヒールからアクティブなワークブーツへと大きく変化している。ここ2年ほどの間に購入した靴を並べてみても、ほとんどがワークブーツだ。あんなに外反母趾にならないようにと足のマッサージやらに四苦八苦しつつ、楽しんできた高いヒールたちが、ワークブーツやスニーカーに主役を譲った理由は何なのだろう?長年、ファッションの世界に身を置く栗野宏文さんや栗山愛以さんに“靴と社会”について「ファッション好きによるファッション好きのためのあの靴、この靴」(p.74〜)で話を伺ったところ、女性の美の象徴とされてきたピンヒールが影を潜めた理由が見事に読み解かれていた。あのハイヒールマニアともいえるJUJUさんですら、エフォートレス推奨派だと。なるほど。靴と女性と社会には、深くて複雑な「物語」が絡み合っているのだ。私自身も気づかなかったピンヒールをやめた理由の一端が、今号を通して理解できた。

「靴」とひと言で言っても、ただの履き物やアイテムの一つではない。生活や日々の思考、気分などを通して社会とどう向 き合っているかを表現しているのだ。さあ、奥深い「靴」の世界へようこそ!

Numéro TOKYO編集長 田中杏子

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