自身のエンターテイン(=楽しませる)を満たすために、 皆さん何を選びますか?
2021年2月26日(金)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2021年4月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズ レター。
“コンプライアンス”という言葉が普通にやり取りされ、すべての人がカメラを片手に世界へと発信できる時代です。誰かにとってFunなものが、別の誰かにとっては不快なものになり得ます。もちろん人を不快にしてはいけないし守るべきルールは山のように存在しています。先日、黒澤明監督の『天国と地獄』を見ました。1963年公開だったので実に58年前の横浜が舞台になっているのですが、現在だと問題になりそうな描写や展開がたくさんあり、今ではこのような映画は生まれないのかもと、表現の自由についても考えさせられました。
ところで、前述したClubhouseがなぜここまで爆発的に広がったのか。いまさらですが仕組みを説明すると、紹介制(最初は一人につき二人まで)でアカウントが開設できる音声SNSです。友達が集まって電話でおしゃべりをしていて、その話を第三者が共有する感覚です。おしゃべり部屋をモデレーター(誰でもなれる)が作ります。自分一人でも、誰かと一緒でもOK。そのおしゃべりを聞きたい人が参加するのですが、モデレーターは参加者をおしゃべりチームに引き上げてもいいし、呼ばれた人はお断りしても参加してもいい。ここのすごいところは完全にオフレコであること。機密性が担保されライブのみなので後に残らず、書き込みもできないというシステムなので自由におしゃべりが楽しめるわけです。万が一誰かがおしゃべりの内容をリークしたら、その人のアカウントだけでなく紹介した人も同時に削除という厳しい罰則が科せられます。しっくりこない話題になったら部屋を退出すればいいので、ヤジコメも生まれないわけです。先日は普通じゃあり得ないメンツの芸人、音楽家、俳優が集まって普段は話せないネタで活発に意見交換をしていました。彼らの嘘いつわりや忖度のない生の声が聞けてとても刺激的でした。(規約などは2月上旬時点のものです)
新しいSNSも出現してピリッとするスタートを切った2021年、本来のFunやエンターテインメントについて考える端境期なのかもしれませんね。
Numéro TOKYO編集長 田中杏子