もっと地球のためにできること、もっと自然のために学ぶべきこと。
2021年1月28日(木)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2021年3月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズ レター。
私の森の思い出は、物心ついた頃から中学に入るまで入隊していたガールスカウトのキャンプです。毎夏、5泊ほど森林でキャンプ体験をしていたのですが、当時使われていたテントは本格的で、自衛隊や軍隊が使うようなカーキ色の旧式テントをペグを使って張っていきます。今のように湾曲するポールであっという間に仕上がるモダンなものではありません。テントはいつも少しカビ臭く、それはキャンプの始まりを告げる匂いとして私の記憶の片隅に残っています。テントの周りに雨対策の溝を掘り、寝床が仕上がったら、飯盒炊さん用のキッチンを作ります。土を掘って石を積み、水を汲み、枯れた枝などを集めて、森ステイの準備を着々と進めていきます。まだまだひよっこだった私は、親から離れて大自然の中で不便な生活を強いられたり(トイレだって怖かったです)、寝袋に入ってテントに泊まるキャンプが苦痛で仕方ありませんでした。森の印象はうっそうと茂った背の高い木々に見下ろされ、自分が小さくて弱い存在だということを痛感させられます。しかも夜の森は真っ暗闇、すべての音を吸い取ってしまうほどの静寂に包まれます。テントをともにするバディの寝息が増えていくたびに、ひとり眠れない夜を心細く過ごし不安と闘っていたことを思い出します。それでも睡魔はやって来るようで、小鳥のさえずりと朝露を纏った新緑の香りで目が覚めると、朝がやって来た安堵で緊張がほぐれ太陽に感謝をしていました。そんな思い出が詰まっているので、幼少期は、森が苦手でした。不思議ですね。大人になると静寂や森林の香りが恋しくて、それらに癒やされるんですものね。
そんな森へと居場所を移した人たちを「母なる森に呼ばれて」で取材しています。少し不便なぐらいが気持ちいいようで、不便な森生活で人間らしさを取り戻しているようです。ふむ。便利すぎるって頭も知恵も使わないからダメなんですよね。キャンプをしていた頃はロープの結び方も知っていたし、キャンプファイヤーの井桁も作れたし……極限の原始的な生活を再現していたんですよね。あぁ、あの頃が懐かしいです。
今号で取材してみて、たくさんの新しい発見がありました。そしてまったくもって自分自身が無知だったことを「都会で自然のためにできること」の松浦美穂さんと小野りりあんさんの対談で知りました。無知は罪です。もっと勉強して、私も本気で実践しようと決めました。これからの地球のために。自然礼賛。自然よ、ありがとう。
Numéro TOKYO編集長 田中杏子