日々、膨大な数の写真に触れていますが、一度、写真のチカラについて、考えてみませんか?
2020年11月27日(金)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2021年1・2月合併号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズ レター。
気がつくと、私たちの日常に“写真”は欠かせないものとなりました。スマホで撮った写真はSNSを通じて、世界中の人とつながるコミュニケーションツールとなっています。インターネットの普及は、そんな楽しみ方を大衆のものにしてくれたIT革命の恩恵ですが、そこに“絵=写真”がないと大流行はしなかったでしょう。そんな“写真”について、“写真のチカラ“についてあらためて考えてみたいと思います。
ひと昔前、デジタルカメラがなかった頃、今でこそ写真を撮る人は写真家、あるいはフォトグラファーと呼ばれますが、カメラを扱う人という意味で“カメラマン“と呼ばれていました(今でもまだ若干使われていますが)。写真はネガかポジ、またはポラロイドのフィルムしか存在しておらず、どの角度でフレーミングして、どんな表情でシャッターを切っているのか、黒い暗幕をかぶって撮影する大判カメラたるやカメラマンの聖域で、ファインダーを覗くカメラマンにしかわかりませんでした。確認用に切るポラ1枚の情報量ですべてを判断しなくてはならず、カメラマンの力量を信じるのみというおごそかな雰囲気に満ちた撮影風景でした。そこから一転、デジタルカメラが普及し、フォトグラファーの撮る絵がほぼ瞬時にモニターに映し出されスタッフの目にさらされます。その場であれこれリクエストが可能になり、フォトグラファーの皆さんの寛大な心に甘えている状態であります。もちろん「フィルムでしか撮影しません」という方もいらして、仕上がりや写真の出来栄えに対するこだわりはもちろんですが、そんな状況をやんわりと拒む姿勢なのかもしれませんね(フォトグラファーの皆さん、すみません)。
デジタルカメラ同様にスマホのカメラ機能の性能が上がり、私たちはさらに多くの写真と触れ合う時間が増えました。誰もが簡単に発信できる今だからこそ「写真を撮ることより、見ることや扱うことこそ練習、勉強すべきだ」と、取材に応じてくださったホンマタカシさんの言葉が脳裏に突き刺さります(p.86)。写真一枚を生かすも殺すも “どう見てどう扱うのか” の手腕次第。思わずうなずくと同時に自問自答した瞬間でした。
写真家であり友人のレスリー・キーがいま、注力している「We Are The Love」で撮った子どもたちの写真に“写真のチカラ”を感じ、心を奪われました。こちらは東京都北区にある児童養護施設『星美ホーム』で育つ子どもたちに、施設育ちの経験を持つ彼が命の大切さや生きることの美しさを問い直し、愛のリレーをつなぎたいと立ち上げたプロジェクト。子どもたちの未来のために2022年までに同施設内にアートスペースを建設しようと、11月22日にクラウドファンディングによる資金調達をスタートしました。アートスペースを手がける建築家の藤原徹平さんのほかに大黒摩季さん、河瀨直美さん、斎藤工さん、ジョン・カビラさんら多くの著名人も賛同し活動に参加されています。プロジェクト立ち上げを記念して、子どもたちのポートレイト撮影をレスリーが行いました。この日のためにヘアメイクを施してもらい、特別な衣装を纏った彼らは緊張しながらも、とびっきりの笑顔でカメラの前に立っていました。これからの長い人生の思い出深いー日になったように見え、この一枚の写真が彼らの人生の大きな起点になればいいな、いや、きっとなるだろうなと感じました。
一枚の写真が人生を変えることがあります。それこそが写真のチカラ。そしてファッションのチカラです。日々、目にするたくさんの写真から一度離れ、“写真のチカラ”について考えてみませんか?
Numéro TOKYO編集長 田中杏子
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