新時代の表現者に必要なのは、たくさんのスモールコミュニティづくり | Numero TOKYO
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新時代の表現者に必要なのは、たくさんのスモールコミュニティづくり

「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」編集長 田中杏子がおくる、2019年9月号に寄せる言葉。

これからますます世の中が変化していきます。変化についていく適応能力を身につけましょう! 占いを読んでも、鑑定士に助言をもらっても、目まぐるしいその現実を突きつけられ、それについていける知力能力を身につけているのかどうか自問自答を繰り返す日々。やれやれと頭を抱えている人は私だけではないはずです。経験や知識をフル回転させつつ次から次へと刷新していく事象を解しようとしても、これまでに培ってきた価値観や視点が変わらないので、一周回って後手にいる自身に気づくといったありさま。それが現実。そんなことは百も承知なんですけどね。

今号では、そんな新時代を物ともしない型破りなイノベーターたちを取り上げて、これからの時代に生きる表現者たちを特集しました。新時代を生きる鍵は何なのか、彼らを通して見えてきたことがあります。

ファッション界では、美しいコレクションとともに数々の名言を残した先人、カール・ラガフェルド(Karl Lagerfeld)が逝去しました。いくつものブランドを一手に担い、ブランドごとに色やテイストを変えて発表してきたカールは、聖徳太子のように同時にいくつもの案件をこなす能力があるといわれていました。

シャネル(Chanel)、フェンディ(Fendi)、クロエ(Chloé)、カール ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の4ブランドを手がけていた際には、カールの座る椅子を中心に東西南北4方向に各ブランド専用のデスクがあり、椅子をくるくると回しながら仕事をしていたという逸話すら残っています。そんなパワフルな時代を築き上げてきた帝王の幕引きもまた、一つの時代の終焉を予感させます(p94)。

アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)……デザイナーではなくクリエイティブディレクターである彼らは、カールのようにファッションやスタイルを引っ提げて一大トレンドを生み出すのではなく、その先にさらに広がるあらゆるクリエイティビティとともにコミュニティをつくり上げ、クリエイターとつながり才能ある若手をフックアップするなど、今時のアウトプットによって時代を自在に動かしているようです(p.90)。そう。鍵は仲間とつながることなのです。

さて、そんな時代をいとも簡単に(見えます)三段跳びで突進してきた表現者の一人、16歳のYOSHIを取材しました(p.110・p.114)。先日、公開された映画『タロウのバカ』では主役のタロウ役を探していた大森立嗣監督が、たまたまYOSHIのインスタを見て「顔が生意気だからいい。とにかく一度会ってみたい」とラブコールを送ったのだとか。映画初出演にして主役という大役を、菅田将暉や仲野太賀に囲まれて見事に演じきり、関係者からも一目置かれ可愛がられる存在となりました。諸先輩たちが築き守り続けてきた概念やルールを気にせず、でもまったく嫌な空気を与えるわけでもない彼はまるで新時代の怪物のようです。百戦錬磨の先輩たちを初見で驚かせたという自由で強い存在感はどこからくるのでしょう?

YOSHIのほかにも、サラリーマンを続けながら、もしくは脱サラをして表現の世界に入った人や、いくつもの表現方法を持っている人たちを取材しました(p.110)。さらには著書『人生の勝算』や『メモの魔力』を上梓したSHOWROOM代表の前田裕二さんに、今、そして未来の表現者がどう変化していくのかを予測してもらいました(p.106)。なるほど!と膝を打ちたくなりますので、ぜひご一読を。

今号を特集してわかったことは、とにかく自分の“好き”を突き詰め、その“好き”を共有できる仲間を見つけていくこと。奇を衒(てら)ったり大きく当てよう! なんて肩肘を張る必要はなし。共感しあえるコミュニティを見つけて深掘りしながら広げていく、それが新時代に向かう第一歩なのですね。

Numéro TOKYO編集長 田中杏子

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