旅のプロ、ダージリン コズエによる連載。世界中のあらゆるデスティネーションを行き尽くし、現在も国内外問わず旅に赴く玄人トラベラーが語る、“人生最高の旅”。

会社の転勤でフランスのパリに住みはじめて1年が経ちました。
控えめに言っても、今まで生きてきた中で最もトラブルに見舞われた1年間で、それらのネタだけで毎週連載を1本書けるほどの日々(継続中)。
それでも、パリの街中を歩いていると、ランドスケープは美しいし、大半の人は困っている人に対して手を差し伸べてくれるし、一見ゆるそうに見えてもそれなりの社会秩序もあり、悪くないです。
さて、今回の人生最高の旅のデスティネーションである「バスク」ですが、フランス南西部からスペイン北西部にまたがる地域で、ここではバスク人によりバスク語が話され、独自の文化を持っています。フランスエリアのことを「フレンチバスク」、スペインエリアのことを「スペインバスク」と言います。

日本でも数年前にバスクチーズケーキが流行ったかと思いますが、まさにあの出身地ですね。
日本だとグルメの街としてミシュランのレストランがひしめくスペインバスクの「サンセバスチャン」が特に有名かと思います。世界中のフーディーたちがこぞって洗練されたスターシェフたちのお店へ出かけます。また、街中には気軽にピンチョスを食べられるお店もひしめいており、あちこちの店で食べ歩き、飲み歩きをしながら過ごすことができます。
街も大きく、華やかな食文化があり、ラ・コンチャビーチや、ラ・スリオラビーチといったサーフスポットもあり、私もサンセバスチャンは大好きです。
しかし、なぜかフレンチバスクのビアリッツへ行ってしまうのです。ここもバスクの豊かな食文化、そしてサーフカルチャーがあり、加えてフランスっぽいボンシックという独自の雰囲気があるのです。小洒落ているんだけれど、どこかチルってゆるめなんですよ。

ビアリッツはヨーロッパ貴族たちのリゾート地として栄えてきました。そのアイコンとなるのが有名ホテルである「オテル デュ パレ ビアリッツ」。

以前、私がこちらのホテルに滞在したのは今から10年前なのですが、現在はハイアット グループの傘下に入っています。こちらのホテル、19世紀に皇帝ナポレオン3世が妻であるウジェニー皇后のために建てた別荘で、当時の彼女はヨーロッパ社交界でファッショニスタ&トレンドセッター的存在だったこともあり、ここビアリッツがヨーロッパ中の王侯貴族たちの人気リゾートに。
そして、1915年にはココ・シャネルが、初のクチュール・ハウスを開設し、この一体はますますファッショニスタたちの間で話題の場所になっていくのです。
それからしばらく経った1950年代後半。
ヘミングウェイの『陽はまたのぼる』の映画の撮影のためにビアリッツにいたカリフォルニア出身の映画のクルーたちが、ビアリッツの波がいいことに気づき、撮影の合間にサーフィンを始めたらしいのです。

そういうことで、ヨーロッパの貴族のリゾートエリアにまさかのサーフ文化が入りこみ、しかも融合した状態で根付いたそうです。
今となっては、ヨーロッパ屈指のサーフスポットとして君臨しており、そのため、ビアリッツの街を歩いていると、どこか洗練されたパリのボンシックな装いのマダムやムッシューもいれば、こんがりと日に焼けた肌にストリート系のTシャツとハーフパンツ姿のサーファーとが共存(!?)しているのです。

この日は日曜だったこともあってか、サンデーサービス後の神父さんらしき人たちやサーファーやら、色んな人がビーチ沿いにいていい雰囲気。
パリに住むようになってフランス人たちから「フランスのどこへ旅した?」とよく聞かれます。「ビアリッツ」と答えると、大抵「ビアリッツのどういうところが好き?」と聞かれ「ボンシックとサーフカルチャーがミックスされているあの雰囲気が大好き。だって、あんな場所他に世界中で他にある?」と答えています。

サーファーの友人はサーフィンを、私はSUP派(スタンドアップパドル)なので、SUPや小波でSUPサーフィンなどを楽しみます。基本的にサーフスポットなので、SUPはインフレータブルのレンタルがほんの少しのみ、です。

たんまりと海でボード遊びをしたら、いつも海が見えるカジュアルなお店でロゼや白ワインを飲んでアペロ。潮風に吹かれ、海をながめながら、キンキンに冷えたロゼを口に含むと、最高の人生だわ、と感じてしまいます。
5月くらいから夏にかけては日も長いので、サンセット見ながらアペロの続きをしたり、散歩をしたり、お腹が空いたら海が見える小さなレストランで近隣で取れた新鮮なシーフードやバスクの唐辛子エスペレットを使った料理を味わいます。とてもシンプルで最高なプチヴァカンススタイル。

スターシェフのお店から地元の小さなお店まで、さまざまな選択肢があるのもバスクのいいところだと思います。
同じバスクでも、サンセバスチャンは、街ぐるみで教育含めグルメの街となり、大小さまざまな美味しいお店がひしめき合っています。ビアリッツは貴族たちのリゾートだったところに途中でサーフカルチャーが入ってきたおかげでこちらもスターシェフのお店からマルシェでの朝食までチョイスがたくさんあります。
どちらも、食の地場が固まっているので、だいたい何食べても美味しいものです。

さて、最後に独特の雰囲気という点で言うと、ビアリッツから車で20分くらいのところにサン・ジャン・ド・リュズというこれまたチャーミングな街があります。ここはバスクリネンで有名なところではあるのですが、ちょっぴりレトロな雰囲気のビーチでのんびりしたり、ただ街を歩いたりしているだけでも楽しい。


ヨーロッパの小さな街と自然とが融合し生み出される魅力ってやはりいいですね。
そういうことで、ついつい可愛らしさや、シックさ、サーフカルチャーとの融合などでついフレンチバスクに軍配を上げてしまいがちです。この連載のタイトルである「人生最高の旅」って、死ぬまでに一度は行ってみたいデスティネーションでのおすすめをよく紹介したりしますが、生きている間に何度も行きたい場所(ビアリッツ)があると言うのもまた人生最高の旅だと思います。

あー、まだパリに1年しか住んでいないのに、フランス人みたいにちょいちょい上から目線で、言わなくていい余計な一言や、面倒くさいことまで言うようになってしまいました。
ということで、パリからも飛行機で1時間20分くらいなので、パリから足を伸ばしてみるのもいかがですか? 私も今年はサーフィンへ挑戦しようと思っています。

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Photos & Text:Darjeeling Kozue
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